04.俺を困らせたいとしか思えないな

 おばちゃんが作ってくれた粥で満腹になった俺は再び布団にもぐりこむと目を閉じた。
 だけど簡単に眠りが訪れるわけもなく、ただ眠気にうつらうつらしながら天井の木目をじっと見上げた。
「……あ」
「……え?」
 カタンと突然外れた天井に俺は眠気も吹き飛んで目を丸くした。
 そこには#name1#先輩が薄汚れた格好でにかりと笑っていた。
 たまに三郎がさっきみたいに天井を伝って部屋に現れるので俺たち五年生の長屋の天井は割と綺麗なもので、#name1#先輩の制服の汚れはまず間違いなく実習の所為だろう。
 #name1#先輩はすたっと降り立つとちょこんと俺の横に座った。
「えへへー」
 照れたように笑う#name1#先輩に夢で見た一つ年上の幼馴染の影が過って思わず目を擦った。
「ごめんな?私、この五年で手加減を学んだつもりだったんだけど、まだまだだな」
「八左ヱ門から聞きました。マシになった方だって」
「八左ヱ門自身力ついてきてるから勘ちゃんを一緒にするんじゃないって長次に散々怒られたよ」
 しゅんとなった#name1#先輩に俺はくすりと笑った。
「いえ、実際八左ヱ門に比べると俺、体力ないんで」
「うん、でも私勘ちゃんをこんな風にするの二度目だし……」
「え?」
「私、前とは違って力が強いのも体力が半端ないのもわかってたつもりだったから、振り回して勘ちゃんを川に落とした上に溺れさせちゃって……」
「んん?」
「本当、ごめんな?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
 俺は重たい身体を必死に起こして、まっすぐ#name1#先輩を見た。
 こてっと首を傾げた#name1#先輩は不思議そうに俺をまっすぐ見ていた。
 普段仕草があれだけ男前だと言うのに、反省するためなのか正座をして小首を傾げている#name1#先輩が女に見えるのは俺の幻覚か!?
 一つ年上の幼馴染が男の子ではないのは一緒にお風呂に放り込まれたから覚えてる。
 あの時の衝撃は未だに忘れられない。
 何しろ母さんも姪ではなく甥だったかしら?と思いながら接していたのだから。
 服がもったいないからって近所の男の子の服を着てるなんて思ってもみなかったのだ。
「#name1#先輩が……縁談相手?」
「そうだぞ?」
「……ええ!?」
「まさか気付いてなかったのか!?」
「す、すいません!だって……って言うかなんで#name1#先輩はここに居るんですか!?」
「力の制御のためだな!入学してすぐに間違って忍たまに入ったけど、くノ一教室じゃ他のくノ一が可哀そうなことになるからってそのままこっちに居るんだ」
「あ、それは納得ですけど……中在家先輩はご存じなんですか?」
「知ってるぞ。他に仙ちゃんに文次にいさっくんに留も知ってるな。それ以外は一部の先生くらいかなー。別に言ってないだけで隠してはないんだよね。私自身たまに自分が女ってこと忘れるしちょうどいいよね!!」
 にかっと笑う#name1#先輩に俺はがくりと肩を落とした。
 この人駄目だっ。
 年頃の娘に必要な警戒心ってもんが一切ないんだけどっ!!!
「私が嫁になるのは嫌か?」
 上目使いに覗き込んでくる#name1#先輩に俺はかあっと顔が赤くなるのを感じた。
 ずっと片思いをしていた幼馴染がこんな傍で、しかも年頃の娘さんらしくなかろうとやっぱり初恋の相手ってもんは可愛く見えてしまうもんで……あああー!!!!
 この仕草!俺を困らせたいとしか思えないんだけど!!
「じゃあ勘ちゃん、婿になって!」
「そう言う問題ですか!?」
「え?違うの?」
「違います!」
 そう言うと#name1#先輩はしゅん、と項垂れてしまった。
「ああ別に#name1#先輩が嫌いとかそう言う訳じゃなくてですね……」
 身振り手振りどうにか伝えようとおろおろしていると#name1#先輩はきょとんとした顔で俺を見つめ、ふわっと笑った。
「勘ちゃん、可愛い」
「えええ!?可愛いのは#name1#先輩ですよ!?」
「……………」
 うっかり口走った俺の台詞が理解できなかったらしい#name1#先輩はまたきょとんとした顔になったかと思うと、二三度瞬きをしてかあっと顔を赤くした。
「あ、う……うううっ」
 両手で顔を覆った#name1#先輩は本当可愛くて、俺はくすりと笑った。
「#name1#先輩より体力も力もない俺ですけど、嫁に来てくれますか?」
「それはもちろん!」
 力一杯同意した#name1#先輩はにかりと笑った。
 この笑顔、俺の力では不足かもしれないけど、守っていきますから。
「よろしくお願いします。#name1#先輩」
「おう!」


⇒あとがき
 あれ?あっさりと纏まっちゃいました、この二人。
 ……しょうがない。残り一つのお題は中在家長次くんに託しましょう。←
20101106 初稿
20220709 修正
res

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