03.こういう時は俺に頼れと言っただろう!

 ―――夢を見た。
 幼い頃、情けないことに川で溺れた俺を助けてくれた一つ年上の幼馴染。
 名前は忘れたけど、可愛い女の子だったのを覚えている。
 その彼女の顔が残念なことに男であるはずの#name1#先輩の顔に変わったのは悪夢と言えるだろう。
「うわあああ!!!」
 思わず叫びながら起きてしまったのは、くノ一に過去四年間で培わされた女性への恐怖心からだろうか。
 いや、#name1#先輩は男だし関係ない。
 俺は女遊びで女性恐怖症を克服したはずだと言うのにどういう事だ!
 やっぱ治ってないのかな……いや、くノ一以外の女性との接触はマシになったし、問題ないはずだ!
 単純に好きだった子が野郎に変わってビビっただけだ!!
 そうだ、そうに違いないんだ!
「……勘右衛門、大丈夫か?」
「大丈夫だ、多分っ」
 どうやらあれから確実に一日は眠りについたままだったであろう俺を兵助は看病してくれていたらしい。
 傍に置いていたであろう桶で濡らした手拭いで額に浮かぶ汗を拭ってくれる兵助に#name1#先輩に攫われた時の文句は言わないでおいてやろうと思った。
「何日経った?」
「一日、かな。でももう昼だよ」
「げえっ」
「俺、一回様子見に来ただけだけど、食えるようなら飯持ってくるぞ?」
「いやいい。自分で……は行けなさそうだな」
 起き上がろうとしたものの、さっきのは勢いで飛び起きれただけらしく、身体が中々いう事を聞いてくれそうにない。
「俺もそうだけど勘右衛門も体力ないよな」
「言ってくれるな兵助。#name1#先輩が化け物なんだ」
「ふーん……ん?」
「何?」
「勘右衛門って七松先輩の事、#name1#先輩って呼んでなかったよな?」
「あー……なんかよくわかんないけど、呼ばないと怖いんだよ。俺殺される?俺殺されるの?ねえ?」
「知らないよそんなこと」
 思わず問い詰めた兵助は若干引いている様子だった。
「馬鹿野郎!こういう時は俺に頼れと言っただろう!」
「お前にだけは頼りたくないんだよ三郎!」
 突然現れた三郎に俺は枕を投げつけたが、へにょへにょとしか飛ばなかった枕は三郎にやすやすと捕まるのだった。
 ああ可哀そうに、俺の枕!
「面白そうな展開になってきたがどういう事だ!?」
「何わくわくしてんだよ」
 三郎の背後に現れた雷蔵が三郎の頭を遠慮なく殴った。
 ……流石、雷蔵様。怖いや。
「雷蔵から少し話は聞いたが、つまり七松先輩は勘右衛門の縁談の相手の兄か何かだったのか!?」
「は?」
「は?って……同じ文が来てると言っていたのだろう?だとすれば七松先輩は縁談相手の家の者と言う事になるだろ!」
「そんなこと言っても相手が誰かなんて文には書いてないぞ?」
「勘右衛門……お前、七松先輩と何してたんだ?」
 信じられんと言う顔の三郎に俺は溜息を吐いた。
「名前で呼べって言われてよろしくって言われただけだよ」
 俺もよくわからんと言えば三郎は唇を尖らせた。
 お前がやっても可愛くないんだよと三郎は再び雷蔵に叩かれる。
「でもまあ……似てないことはないか?」
「何が?」
「あー……なんでもない」
 俺は首を横に振り、鐘の音に顔を上げた。
「今の予鈴じゃないか?」
 普段の休憩時間と違い、昼の休みは皆楽にしていることが多いため授業の開始の前に一度予鈴が鳴る。
「あ、勘ちゃんの飯」
「それなら俺が持ってきたぞ」
「八左ヱ門!」
 ひょこっと顔を出した八左ヱ門はお盆を手に部屋の中へと入ってきた。
 お盆の上にはほこほこと温かい湯気を昇らせるおかゆが見えてほっと息を吐いた。
「七松先輩、昔よりは制御できてるからもう目、覚めてると思ったんだ」
「あれで?」
「あれでだ」
 にかっと笑った八左ヱ門はどうぞとお盆を渡してくれた。
「じゃあ、俺ら授業に行くな。折角だからゆっくり休めよ」
「ああ」
「行くぞ三郎、雷蔵」
「言われなくとも行くさ」
「誰かさんの所為で授業遅れたら殴るからね」
「雷蔵さん!?もう勘弁してくださいっ」
 すたすたと歩き出した雷蔵の後を三郎が慌てて追いかけ、八左ヱ門も笑いながら追いかけて行った。
「兵助もありがとうな。これ食ったらまた寝るからさ、先生によろしく」
「ああ。ゆっくり休めよ」
「おー」
 ひらひらと兵助に手を振って見送ると、俺は一人きりになった部屋で一人溜息を吐いた。
 夢で見たけど、はっきり顔を覚えてるわけじゃない。
 一つ年上の幼馴染。
 ……一つ年上だぞ?#name1#先輩と同い年じゃないか。
 #name1#先輩は男だし、双子?そんなわけがない。双子は忌子なのだから。
 一つ年上だと言うのが記憶違いだとか、#name1#先輩とは異母兄弟だとかそう言うのなら……ってそれか!?
 いやでも確か一人っ子だって言ってた記憶あるし……わかんねえなあ……。
「……あ、うま」
 無意識に口に運んだ粥は美味くて、考え事を忘れて俺はぱくぱくと粥を口に運ぶのだった。


⇒あとがき
 きゃいきゃいやってる五年生が大好きだっ!
 ……しかし夢主が出てこないね。どうすんのこれ。後二話で終わるかどうか不安でいっぱいです。
20101106 初稿
20220709 修正
res

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