07.黒鋼の忠誠

「おいしかったー!」
「ほんとうだねー」
「教えてくれてありがとう。ほんとにおいしかったです」
 店を出た麻里亜たちは、32番街の通路を少し進んだ。
「さてと、これからどうしよっかー」
「もう少しこの辺りを探してみようかと思います」
「んー、でもオレ達この辺わかんないし遠出できないねぇ」
「あ、あの!どこか行かれるんですか!?」
「はい」
「場所はどこですか?」
「……分からないんです。探してるものがあって……」
「だったら僕も一緒に探します!案内します」
「でも、ご迷惑じゃ……」
「全然!家に電話します!ちょっと待ってて下さいねー」
 麻里亜達は近くの柱に身体を預け、走り去る正義を待つことにした。
「ほんとに憧れなんだねぇ」
 ファイの言葉に、小狼は顔を上げた。
 そしてそれが特級の巧断を持つ自分のことだとわかったのか、頬を僅かに染めた。
「そういえば、話が途中になっちゃったね。夢を見たんだって?」
「はい。さっき出てきたあの炎の獣の夢です」
「妙な獣の夢なら俺も見たぞ」
「オレも見たなー。なんか話しかけられたよー」
 ファイは麻里亜に視線を向け、尋ねようとしたが、それよりも早く重たい音が響いた。
「『シャオラン』ってのは誰だ!?」
「なんか、用かなぁ?」
「笙悟が「気に入った」とか言ったのはお前か!?」
「だとしたら?」
 へらんと笑って、ファイが小狼よりも先に答えた。
 だが、小狼が一歩前に出た。
「小狼はおれです」
「こんな子供か!ほんとに!?」
「ほんとっす!間違いないっす!!」
 リーダーらしき男に手下が答える。
「笙悟のチームに入るつもりか!」
「チーム?」
「笙悟んとこはそれでなくても強いヤツが多いんだ。これ以上増えたら不利なんだよ!笙悟が認めたんだ!おまえも相当強い巧断が憑いているんだろう!もし、笙悟のチームに入るつもりなら容赦しないぞ!!」
「入りません」
 指までさされたが、小狼はきっぱりと答える。
「だったらうちのチームに入れ」
「入りません」
 さっきよりもきっぱりと言い切った。
「小狼君きっぱりだねー」
「小狼かっこいいー」
「おれにはやることがあるんです。だから……」
「新しいチームをつくるつもりだな!!」
「え!?いえ、そうじゃなくて」
「今のうちにぶっ潰しとく」
 聞く耳持たずなモヒカンのリーダーは自分の巧断を呼ぶ。
「「でっかいねー」」
「おれはそんなつもりはありません!」
 小狼に向けての攻撃は後ろにあった柱にまで及ぶ。
 丁度そこにいる麻里亜はとっさに動こうとした。
「ふえ?」
 だが自分の意志とは関係ない浮遊感が麻里亜を抱きとめていた。
「黒鋼……さん?」
 どうやら助けてもらったようだ。
 だが荷物のように俵持ちされているので少々ロマンが無い。
 麻里亜は微妙に拗ねた。
「聞く耳持たないって感じだね」
 行動に移ろうとしたファイの前に腕を出し、右腕に担いでいた麻里亜を落とした。
「ひゃうっ」
 尻餅をうちつつも、黒鋼を見上げる。
 助けてくれた割には扱いが酷いのはいかがなものだろう。
「ちょっと退屈してたんだよ。俺が相手にしてやらぁ」
「黒鋼、さっきまで楽しんでたー。退屈なんてしてないない」
「満喫してたよねぇ阪神共和国を」
「うるせぇぞそこ!」
「けど、黒鋼さん。刀をあの人に……」
「ありゃ破魔刀だ、特別のな。俺がいた日本国にいる魔物を切るにゃ必要だが、巧断は「魔物」じゃねぇだろ」
 つかつかと黒鋼は巧断へと近づく。
「おまえの巧断は何級だ!?」
「知らねぇし、興味ねぇ。ごちゃごちゃ言ってねぇで掛かって来いよ」
 ようやく起き上がった麻里亜は痛みを堪えつつ小狼の側まで歩いた。
「小狼くーん!」
 人の波を抜けて正義が小狼に走りよる。
「正義くん、あれ知ってるー?」
「この界隈を狙ってるチームです!ここは笙悟さんのチームのナワバリだから!」
「あの人強いのかなぁ」
「一級の巧断をつけてるんです!本人はああだけど、巧断の動きはすごくすばやくて、それに!」
「くらえ!俺の一級巧断の攻撃を!!蟹鍋旋回!」
 その攻撃を黒鋼は避けたが、巧断が走ったことにより柱に切れ目が入った。
「切れた!?」
「あの巧断は体の一部を刃物みたいに尖らせることができるんです!」
「いけいけー!」
 黒鋼は無駄の無い動作で巧断の攻撃を避けて走る。
「危ない!」
「手、出すと怒ると思うよ」
 飛び出そうとした小狼をファイがやんわりと止めた。
「蟹動落!!」
「「黒鋼さん!」」
 今度の攻撃は避けきれず、黒鋼は受身を取った。
「巧断はどうした!見せられないような弱いヤツなのか!?」
「うるせぇ。……ぎゃあぎゃあうるせぇんだよ」
「おれの巧断は一級の中でも特別カタイんだぁ!」
「けど、弱点はある。あー、刀がありゃ、てっとり早く……!!」
 黒鋼がぼやいた瞬間、黒鋼の背後に水の龍が現れた。
「なに!?おまえ、夢の中に出てきた……」
「―――セレス」
 ぽつりと麻里亜は呟き、水龍が剣に変わっていくのをじっと見つめた。
「使えってか?なんだ、おまえも暴れてぇのかよ」
「そ……それがおまえの巧断か!どうせ、見かけ倒しだろ!こっちは次の必殺技だぞ!蟹喰砲台!!」
「どんだけ体が硬かろうが刃物突き出してようがな、エビやカニには継ぎ目があんだよ」
 向かってくる巧断に黒鋼が剣を構える。
「破魔・竜王刃」
 見た目には一瞬。だが、数回の攻撃が相手の巧断を襲う。
「ぐあああああああ!!」
 巧断の主であるチームリーダーは自分の身体を押さえて倒れこんだ。
「おれの巧断があぁぁぁ……」
「だいじょうぶっすか!?しっかり!」
 息を切らしながら彼は呟くように言った。
「も……もう、チームつくってんじゃねぇか。おまえ「シャオラン」のチームなんだろ!」
「誰の傘下にも入らねぇよ」
 黒鋼は剣を右手に男を睨む。
「俺ぁ生涯ただ一人にしか仕えねぇ。……知世姫にしかな」
「きゅん」
 ファイの横で萌える者一名。
 だが特に誰も気づかなかったのは幸いだろうか。 



⇒あとがき
 微妙に、びみょーに!黒鋼夢っぽくしていきます☆
 だから最後におかしなもの付け加えてみたり(こそっ)
20040810 カズイ
20090707 加筆修正
res

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