05.阪神共和国

「つうわけで。部屋ん中でじっとしとってもしゃあない。サクラちゃんの記憶の羽根を探すためにもこの辺探索してみいや」
「はーい」
「はい」
「……………」
「りょーかい」
「おっと!わいはそろそろ出かける時間や」
 時計を見ながら空汰が言う。
 学校の先生はどこの世界も忙しいようだ。
 麻里亜と小狼は嵐から服を借り、黒鋼とファイは空汰から服を借りた。
 数少ないという男物の服は少しゆったりとしていて楽なものだ。
 モコナを肩に乗せ、麻里亜は欠伸をかみ締める。
「歩いてみたら昨日言うとった巧断が何かもわかるはずやで」
「はい」
 まだサクラが心配なのか、小狼は自分たちの部屋を見上げる。
「サクラさんは私が側にいますから」
「……はい」
「その白いのも連れて行くのかよ」
「白いのじゃないー、モコナ!」
「モコナが白いのならこの人は黒いのだよねー」
「ねー」
「あぁ〜!?」
 仲良しなファイとモコナに黒鋼が切れる。
「わざわざ黒のTシャツとパンツを選ぶあたりで自分が黒いって認めてるじゃないですか」
「なんだと!?」
 どきっぱりと言った麻里亜にも黒鋼が切れる。
「黒いのが怒ったー」
「怒ったー」
「怒られたーv」
 きゃはーと浮かれ気味に麻里亜も楽しんでみる。
 ファイとモコナと一緒に黒鋼で遊んでいる間に小狼と空汰の話は終わったようだ。
「うし!んじゃこれ!」
 蛙のがま口財布を小狼に渡す。
「お昼ご飯代入ってるさかい、四人で仲よう食べや。……ま、朝食べたわいのハニーのメシほどうまいもんはないけどなー」
「なんでそのガキに渡すんだよ」
「一番しっかりしてそうやから!」
「どういう意味だよ!!」
「あはははは」
「たしかに、一番しっかりしてそうですね」
「麻里亜でも良かったんやけどな」
 空汰の付け加えに思わず苦笑を浮かべた。
 下宿屋を後にし、しばらく歩き続けると心斎橋筋の看板のある辺りまで出た。
「にぎやかだねー」
「ひといっぱーい」
 関西と阪神共和国の違いを探しきょろきょろとあたりを見回す。
「でっかい建物と小さい建物が混在してるんだ。……小狼くんはこういうの見たことあるー?」
「ないです」
「黒たんはー?」
「ねぇよ!んでもって妙な呼び方するな!!」
「麻里亜ちゃんは?」
「ありますよ。というか、ここ、私の世界の国にある、とある都市を一つの国にしたような感じなんで」
「麻里亜ちゃんの世界にはこんな都市があるんだぁ」
「その都市風に表すと、ここは首都中の首都じゃないですかね。ここが心斎橋だとして、あれがグリコ看板。この橋辺りが道頓堀なのかな?そういえば吉本興業ってあるのかなぁ……」
 のんびりと考え事に耽り始める横を、女子高生がモコナを見てくすくすと笑いながら通り過ぎていく。
 他の人たちも時折モコナを見ている。
「笑われてっぞおめぇ」
「モコナもてもてっ!」
「もててねぇよっ!」
 びしっと麻里亜の頭の上のモコナに突込みが入る。
 ちょっぴり危険だ。
「商店街の方に行ってみませんか?」
「商店街?」
「お店が並んでいるところです。人が沢山いるから巧断が見れるかもしれないし、おもしろいですよ」
「おもしろいんだ」
「なんたって食い倒れ人形がいる街ですからね。食べ物はおいしいんじゃないですか?」
「食い倒れ人形?」
「愉快な人形ですよ。帰る前に一度は見ていきましょうね」
 ファイはよくわかってはおらず、取り合えずそうだねーと納得したようだ。
 四人と一匹は商店街のほうへと足を向けた。
 商店街の中は活気があり、ちょうど果物屋に差し掛かったところで麻里亜が足を止めると、三人も同じように足を止めた。
「お、兄ちゃんたち、リンゴ買っていかねぇかい!?」
「いいですねぇ」
「え?それ、リンゴですか?」
「これがリンゴ以外のなんだっちゅうんだ!」
「小狼くんの世界じゃこういうのじゃなかった?」
「形はこうなんですけど、色がもっと薄い黄色で……」
「そりゃ梨だろ」
「いえ、ナシはもっと赤くてヘタが上にあって……」
「それラキの実でしょー?」
「で!いるのか!いらんのか!」
 論議を繰り広げる三人に苛立って果物屋のおじさんが割って入る。
「「いるー!!」」
 モコナと一緒になって片手を挙げながら宣言する。
「え!?」
 戸惑う小狼を前にリンゴを人数分頼む。
「小狼くん、お金」
「あ、はい」
 麻里亜にせかされて小狼が財布を開く。
 リンゴを受け取り、商店街を出て再び橋へと向かった。
 手すりに背を預け、麻里亜はリンゴに齧りついた。
「おいしーね、リンゴ」
「はい」
 ファイ、小狼、麻里亜、黒鋼という横並びにモコナは麻里亜の頭の上から小狼の頭の上に移動した。
「けど、ほんとに全然違う文化圏からきたんだねぇ、オレたち」
 ファイが話し始めたので、話に耳を傾けながら再びリンゴに齧りつく。
 予想外に蜜がたっぷりでおいしいリンゴだとのんびりと同時進行で考えながら。
「そういえば、まだ聞いてなかったね。小狼くんはどうやってあの次元の魔女のところへ来たのかなー。魔力とかないって言ってたよねー」
「おれがいた国の神官さまに送って頂いたんです」
 モコナが大口を開き、リンゴを丸呑みする。
「すごいねー、その神官さん。一人でも大変なのに二人も異世界へ同時に送るなんて。……麻里亜ちゃんは?」
「目の前にハンカチの蝶が、サクラちゃんの羽根と一緒に現れて、気がついたら天高い場所にいました。多分、羽根の魔力がカードの魔力に惹かれたんだと思います」
「ふーん。黒りんはー?」
「だからそれヤメロ!……うちの国の姫に飛ばされたんだよ!無理矢理」
「悪いことして叱られたんだー?あははは」
「しかられんぼだー」
「うるせーっての!!指すな!」
 モコナとファイにからかわれ黒鋼が怒る。
 耳元で怒鳴られるような感覚に麻里亜が耳を塞いだ。
「てめえこそどうなんだよ!」
「オレ?オレは自分であそこへ行ったんだよ」
「だったらあの魔女に頼るこたねぇじゃねぇか。自分でなんとか出来るだろ」
「無理だよ」
 へらっとファイは笑う。
 まだ、アシュラ王とファイの関係を麻里亜は知らないため、ファイの真意を探るように聞き入った。
「オレの魔力総動員しても一回他の世界に渡るだけで精一杯だもん」
「小狼くんを送った人も黒ちんを送った人も物凄い魔力の持ち主だよ。でも、持てるすべての力を使ってもおそらく異世界へ誰かを渡らせるのは一度きり。だから神官さんは小狼くんを魔女さんのところに送ったんだよ。サクラちゃんの記憶の羽根を取り戻すには色んな世界を渡り歩くしかない。それが今出来るのはあの次元の魔女だけだから」
「確かに、クロウ・リードがいない以上、あの人しかいませんね」
「クロウ・リード?」
「モコナ=モドキを侑子さんと一緒に作った人です。多分、私の中にいたアルフィレアって人が関係あるとおもうんですけど、私にはよくわかりません」
 手の内のカードはそれだけですとでも言うように麻里亜は苦笑してみせた。



⇒あとがき
 エリオルくんってでないかなぁ……ツバサで見たい。
 あ、あと観月先生とか!
20040810 カズイ
20070406 加筆修正
res

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