04.逆転の時間
与えられた部屋の中に入った麻里亜は、鞄を部屋の隅に置いた。
襖を開けて布団を出し敷いてみるが、眠る気は起きない。
仕方なく、麻里亜は月明かりを頼りに鞄の中から本を出した。
鍵穴に鍵をさしてみると、驚くほどあっさり鍵は開いた。
やはり鍵を開けるためには魔力が必要だったようだ。
「アルフィレア・リード」
そう呟いた瞬間、薄れつつあった虚無感が水に水滴を落とすかのように広がった。
鞄の奥からペンケースを取り出し、ボールペンを取り出した。
そして本に入っていたカードを一つ一つ確認しながら名前を書いていく。
「サクラカードと随分違うんだ」
改めてカードを見てみる。
四大元素、それを中心にあるのはわかるが、漫画というよりもアニメ版のカード数のようだ。
「これは……」
白紙のカード。
これだけは自分のものにはできないのだろうか？と首をかしげながらも一応名前を書いておく。
「鍵を閉めてっと……。ここで契約しても大丈夫かな？」
壁は薄そうだが明日謝ればいいと思い、鍵を持って立ち上がる。
「封印の鍵よ、汝の契約を望むものがここにいる。名を、麻里亜。鍵よ、我に力を与えよ『封印解除』」
足元に魔方陣が現れ、光が広がる。
鍵が杖となり、麻里亜は杖を掴む。
「……もう、レイアースたちは来たのかな」
ふっと思いながらも玄関の靴を手にとり、窓を開けた。
一度は閉じた本からカードを取り出す。
「ジャンプ」
杖で軽くカードに触れると、靴下の上から踝の部分に小さな羽根が生える。
「可愛いかも」
くすくすと笑い、窓枠に足を掛け、外へと飛び出した。
ジャンプのお陰で無事に道路にたどり着く。
「フライ」
家の中では使えなかったフライを使うと、背中に羽根が生えた。
「うわぁ……、クロウカードじゃない力だ。ってことは、麻里亜カード？なんちゃって」
羽根を広げて空へと舞い上がる。
「うお、高っ」
上空を旋回しながら、あまり人に見られないように飛ぶ。
五分ほど飛び回ったところで、不意に止まり、月を見上げた。
その体勢だったためか、後ろから声がかかった。
「お前の巧断も特級か？」
その声に体を動かすと、ゴーグルをかけた青年が巧断に乗ってにやりと笑う。
「……そうだと言ったら？」
「縄張り争いに来たのなら受けてたつぜ」
「ただの散歩です」
「は？」
「だから、ただの散歩ですって。眠たくないからちょっと夜の散歩でもって思っただけですよ」
「ならいいが、とっとと帰れよ」
「はーい。……あ、私、水梨麻里亜って言います。あなたは？」
「俺のことをしらねぇのか」
「今日この国に来たばかりですから」
「浅黄笙悟。このあたりを仕切ってるチームのリーダーだ」
「笙悟さんでいいですか？」
「かまわねぇよ」
「じゃあ、笙悟さん、また明日」
羽根を大きくはためかせてもと来た道を見下ろしながら下宿屋へ戻った。
おおよそ十五分程度の散歩から戻って部屋に入ろうとしたが、隣の部屋からの声に再び阻まれた。
「麻里亜ちゃんって羽根があったんだね」
ひくっと思わず頬を引きつらせた。
隣の部屋の窓から顔を出す二人の存在。
ファイと、その後ろに立つ黒鋼。
「これはあれですよ、封印されてた魔力を使ってちょっとお空の散歩を初体験☆……みたいな」
「さっきの妙な光もてめぇだろ」
「ぎくぅ」
「図星かよ」
自分の部屋にそのまま入ることができず、ファイたちの部屋の窓に近づく。
「なんで二人とも起きてるんですか？」
「それはてめぇにも言える台詞だろ」
「黒鋼さんの突っ込みが痛いー」
しくしくとモコナのように泣き真似をしてみた。
「で、なんで散歩してたのかなー？」
「そ、それはですねぇ……眠れないんですよ。昼と夜が逆転しちゃって」
「へぇー。それだけで散歩って危ないよね。知らない世界で、それも一人だけで」
「うっ……」
図星過ぎて何も言えない。
無言を貫いていた麻里亜の腕をファイが掴んだ。
「ん？」
頬に当たる柔らかい感触に首をかしげてファイを見る。
「おやすみのチュー」
「……はぁ……」
呆れはしたが、あまりにもさっぱりとした表情をされたので、あまり感覚がない。
ただふわふわとした感覚のみ。
「おやすみなさい」
ふらふらと飛びながら隣の部屋に入り、倒れるようにして眠った。
掛け布団を掛けて眠った麻里亜だったが、ファイの行動を思い出し、体を丸めた。
「ふ、腐女子にはおいしい話だよぉ……」
頬を両手で押さえ、現実をかみ締める。
「……これが、現実だとしたら、私はどんな夢を見るんだろう……」
魔力を使いすぎたのか、うとうとと眠りが訪れ始めそのまま眠りに身を任せた。
⇒あとがき
笙悟くんを出してみました。
ファイさんにセクハラしてもらいました。
おや、なにか問題ありますか？私はないつもりですが？（笑）
20040810 カズイ
20070406 加筆修正
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