03.戦うチカラ

「なんや、麻里亜は知っとるんかいな」
「侑子さんとほぼ同じ文化圏なんで、阪神は知ってますよ。阪神共和国は知りませんけど」
「俺らがおった世界と同じやったちゅうことか。せやったら、他の兄ちゃんらのためにも説明したろか」
 気を取り直してというように、空汰はマペットを取り出した。
「ここは阪神共和国。とってもステキな島国や!まわりは海に囲まれとって時折台風が来るけど地震は殆どない。海の向こうの他国とも交流は盛んやで。貿易もぶいぶいや」
 棒を取り出し黒板を差す。
「四季がちゃんとあって今は秋。ごはんが美味しい季節やな!」
 今度はイラストへと棒を移動させる。
「主食は小麦粉。あとソースが名産や」
「関西らしいですね」
「せやろ?」
 右手で帽子をかぶらせて、左手にバツ印のついたミサイルを持つ。
「法律は阪神共和国憲法がある。他国と戦争はやってない」
 ミサイルと帽子を外し、棒に持ち替える。
「移動手段は車、自転車、バイク、電車、船、飛行機。あとは乳母車も一応移動手段かな、ハニー」
 呼びかけるが嵐さんは無言。突っ込みもないようだ。
「島の形はこんな感じ。形が虎っぽいんで通称「虎の国」とも呼ばれとるんや」
 指差す地図はたしかに虎の形をしている。
 ある意味四国が猪の形に見えるのと一緒かと考えながら説明を聞きなおす。
「そやから阪神共和国には虎にちなんだモンが多い。通貨も虎(ココ)やしな。一虎とか十万虎とかや。ちなみに国旗も虎マーク。野球チームのマークも虎や!」
 今度はバッターの恰好に変わる。
「この野球チームがまたええ味だしとってなぁ!むちゃくちゃ勇敢なんやで!ま、強いかっちゅうと微妙なんやけど」
「はーい質問いいですかー?」
 ファイが軽く手を上げたのを見ていると、黒鋼がぼやく。
「やきゅー?なんだそりゃ」
「スポーツですよ」
「すぽーつ?」
「遊びというか、ある程度の条件にしたがって戦うんです。ボールとバットで」
「よくわかんねぇが戦うんだな」
「正しくは試合なんですけど、黒鋼さんにはそのほうが考えやすいと思って」
「ほー」
 知りたいことだけ知ればいいのか、黒鋼はうとうとと眠り始めた。
「そこ、寝るなー!」
 びしっと指差し、巧断を発動させる。
―――パコンッ!
「なにぃ!?」
 黒鋼が立ち上がり、攻撃者を探す。探してもいるはずがないのに。
「なんの気配もなかったぞ!てめぇなんか投げやがったのか!?」
「投げたんならあの角度からは当たらないでしょ。真上から衝撃があったみたいだし?」
「なにって、くだん使たに決まってるやろ」
「「「クダン?」」」
「……お、おかしー!」
 意味がわからない三人がこれほどまでに滑稽だとは思わず、麻里亜は必死に笑いを堪えた。
「なんや、麻里亜は知っとるんかい」
「いえすざっつらいと」
「発音悪いな」
「勘弁してぇな」
「そっちの発音はええんやな。まぁ、三人が知らんのも無理はないわな」
 空汰がマペットを使って白板に“巧断”と黒い水性ペンで書く。
「この世界のもんにはな、必ず巧断が憑くんや。漢字はこう書く」
 キャップをしてしまったペンでこんこんと白板を軽くつついた。
「なるほど」
「全然わからない」
「モコナ読めるー!」
「すごいねぇ、モコナは」
 ファイさんがモコナの頭を撫でる。
「小狼は?」
「うん、なんとか」
「麻里亜はわかってるんだ」
「まぁね。文化圏が微妙に違うけど、黒鋼さんの文化よりも空汰さんたちの文化のほうが近いものがあるから」
「黒鋼と小狼と麻里亜の世界は漢字圏やたんかな。んで、ファイは違うと。けど、聞いたりしゃべったり言葉は通じるから不思議やな」
「で、巧断ってのはどういう代物なんだ?「憑く」っつったよな、さっき」
「例え異世界のものだとしてもこの世界に来たのならば必ず巧断は憑きます」
 嵐さんがそういいきった。
「サクラさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「……はい」
 小狼に確認をして、サクラの枕元に座る。
「サクラさんの記憶のカケラが何処にあるのかわかりませんが、もし誰かの手に渡っているとしたら……争いになるかもしれません」
「今貴方たちは戦う力を失っていますね」
「どうしてそうだと?」
「うちのハニーは元巫女さんやからな霊力っつうんが備わってる」
 小狼が感心したように嵐に視線を送る。
「ま、今はわいと結婚したから引退したけどな。巫女さん姿はそりゃ神々しかったでー」
 声に出さずに心の中で麻里亜も同意する。
 Xの中で出てきた嵐は、それはもう神々しかったの一言。……それに引き換え、空汰は昔のほうがましだったように思える。
 いや、そう変わらないかもしれないが。
「実は、次元の魔女さんに魔力の元を渡しちゃいまして」
「俺の刀をあのアマ―――」
 ゆっくりと視線だけで示していく嵐に小狼が気づく。
「おれがあの人に渡したものは力じゃありません。魔力や武器ははじめからおれにはないから」
「私は小狼くんと似てるかな。自分の魔力を封じていたものを渡したから」
 アルフィレアの魂を渡したことで身体がなにかを足りないと訴えている。
 それを埋めるかのように新しく身体に感じ始めた"魔力"という存在。
「まだ封印が解けたばかりだから使い方がわからないんですけどね」
 じんわりと身体を温めるぬくもりのようなそれは、少しだけ不安材料でもある。
「やっぱり貴方たちは幸運なのかもしれませんね」
「え?」
「この世界には巧断がいる。もし争いになっても巧断がその手立てになる」
「巧断って戦うためのものなんですか?」
「何に使うか、どう使うかはそいつ次第や」
 嵐ではなく空汰が答える。
「百聞は一見にしかず。巧断がどんなもんなんかは、自分の目で、身で確かめたらええ。……さて、この国のだいたいの説明は終わったな。で、どうや、この世界にサクラちゃんの羽根はありそうか」
「……ある。まだずっと遠いけど、この国にある」
「探すか、羽根を」
 腰をかがめて、空汰が小狼に聞く。
「はい!」
「兄ちゃんらも同じ意見か?」
「とりあえず」
「同じく」
「移動したいって言や、するのかよ。その白いのは」
「しない。モコナ羽根がみつかるまでここにいる」
 モコナがそう言うと黒鋼はさらに不機嫌な顔をした。
「ありがとう、モコナ」
「よっしゃ、んじゃこの世界におるうちはわいが面倒みたる!」
 すっと立ち上がり、嵐の手を握る。
「侑子さんには借りがあるさかいな。ここは下宿や。部屋はある。次の世界に行くまで下宿屋(ここ)に住んだらええ」
「ありがとうございます」
「もう夜の十二時すぎとる。そろそろ寝んとな。部屋案内するで。おっと、ファイと黒鋼は同室な」
「はーい」
「なんだとー!?」
「麻里亜はまた別やで。女の子やしな」
「はい」
 空汰の後ろについて行き、廊下を歩く。
 サクラたちの部屋の隣が黒鋼とファイの部屋。さらに隣が麻里亜の部屋になる。
「おやすみなさい、ファイさん、黒鋼さん、空汰さん」
「あぁ」
「おやすみ、麻里亜ちゃん」
「おやすみ」
 空汰に頭を撫でられて麻里亜は目を見開いたが、すぐにはっとして笑顔を浮かべた。



⇒あとがき
 ……ほのかに複線。
20040802 カズイ
20070331 加筆修正
res

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