32.5.大事な家族

 翌朝、麻里亜が目覚めたのは昨日月を見上げていた道場の隅だった。
「やばっ」
 慌てて飛び起きた麻里亜は胴着姿のまま廊下を走った。
「あら、おはよう」
「おはようおか……晶さんっ」
 晶の隣に小さな麻里亜の姿があることに気づき、麻里亜は慌てて紡ぐべき言葉を変え、慌てて頭を下げると自分に宛がわれた部屋へと急いだ。
「あ、姉さま」
 玖楼国の服ではなく、恐らくは晶の服だろう物を身に纏ったサクラが居た。
 水色のカッターシャツの上から白いカーディガンを羽織り、膝より少し長いふんわりとした紺色のスカートを履いている。
 その姿はサクラを少し大人びさせているようだが、良く似合っていた。
「おはようサクラ」
「起きたらいなかったから……心配しました」
「うん、ごめんね」
 よしよしとサクラの頭を撫で、麻里亜は用意されていた服に手を伸ばした。
「朝ごはん呼びに来たら先に行ってて」
「どこに行くんですか?」
「お風呂。汗かいたまま寝ちゃってたからね」
 苦笑を浮かべ、麻里亜は風呂場へと向かった。
 軽くシャワーだけを浴び、すぐに出てクリーム色のセーターと繋ぎのジーンズに袖を通した。
 この時代の清遠高校の制服は麻里亜がいた時代と違う制服だ。
 妙な事になってはいけないと麻里亜は昨日のうちに晶から服を借りておいた。
 だが恐らくこれは晶の物ではなく凪の物だろう。晶はスカートしか持っていなかった記憶があるのでこの気遣いには少々助かった。

「おはようございます」
 居間へと入ると、昨日の晩とさして変わらない顔ぶれが揃っていた。
 昨日より増えた一人、祖父である嘉信は麻里亜の顔を見て少々驚いた顔をしたが、すぐに何事もない顔をしていた。
 ふと甲陽と目が合うと、一瞬戸惑ったような視線に気づいたがすぐに笑みを向けられたので麻里亜も合わせるように笑みを浮かべて見せた。
 見慣れていた笑顔はどこかぎこちなかった気がしたが、麻里亜は気にしないようサクラの隣に座った。

「あ」
 ふと食事が終わると、麻里亜は有る事を思い出した。
「どうしたのー?麻里亜ー」
 モコナが膝の上から麻里亜を見上げる。
「モコナたち連れていけない」
「どこにー?」
「外に」
「えー?」
「あら、どうして?」
 晶が首を傾げ、麻里亜に問う。
「おか……晶さんたちは知らないんだっけ」
 麻里亜は自分の生活の一部にもなる趣味の片鱗をまだ両親が気付いていないことに苦笑した。
 この頃から漫画は大好きではあったが、今の自分の様に完全なる腐女子と言うただの漫画好きの枠を外れていない自分の純粋な時代に照れが浮かぶ。
「モコナとサクラと小狼はこの世界にいるんだよ」
「「ええ!?」」
「そうなのー?」
「王様も神官様もいるよ。後は……知世ちゃんもいる。空汰さんや嵐さん、神威……はまだだっけ?あれっていつだっけ」
 黒鋼をちらりと見れば、眉間の皺の数が僅かに増えているように見えた。
 言わなければよかっただろうかと少々後悔しつつも麻里亜は言葉をつづけた。
「年齢は違うんだけど、外は危ないんだよね。特にサクラにはさ」
「どうしてですか?姉さま」
「いやね……熱狂的なファンがいるのよ。……さくらちゃんにはさ」
 苦笑を浮かべ、ちらりと小狼を見る。
「小狼くんはそこまでいないんだけど、ま、色々と複雑な事情が、ね……」
 まさかこの世界の小狼が今現在雪兎ラブ一直線だとは言えず、麻里亜は言葉を濁した。
「モコナはまずいもまずい。多分この中で一番まずい!ばれたら即効で浚われるね。それでなくてもこの世界にはモコナみたいな生き物は摩訶不思議珍獣だからね」
「モコナ珍獣じゃなーい!」
「いや、珍獣だろ」
 隆明が突っ込むと、モコナは麻里亜の膝の上を離れ、隆明に飛び蹴りを喰らわせた。
 ぷにぷにボディーからは想像できない攻撃が隆明を襲った……が、あえて隆明の事はスルーしようと麻里亜はそこから視線を逸らした。
「とりあえず三人で行きましょうか」
「モコナが居ないのは痛いけど、ま、わかるでしょう」
「それならこれを持っていくと良い」
 そう言って嘉信はペンダントを一つ麻里亜へと渡した。
 それは小型の羅針盤だった。
「羅針盤?」
「使い方は分かるかな?」
「えっと……説明してもらえると助かります」
 嘉信はどこか嬉しそうに「そうか」と呟き、麻里亜に羅針盤の説明をしてくれた。
 大体はカードキャプターさくらの中で小狼が使っていた羅針盤と似ているが、探すものが違う。
 彼の羅針盤はクロウカードを、麻里亜が預かった羅針盤は輪廻から外れた魂を探すための物。
 どうやらこれはある程度魔力が込められているもののようだ。
「えっと、ファイさん……」
「オレはだめー。それ魔道具だし、ね?」
 ×とファイは手を動かしたので、麻里亜は戸惑いながらもそれを首に下げた。
 ファイはのんびりと立ち上がり、部屋を後にすることとなる。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
 暖かな笑顔に見送られ、自分の時代の家族が懐かしいと麻里亜は改めて思った。



⇒あとがき
 33話が長くなりそうなのに前振りが欲しかった。
 ついでにサクラと小狼たちを置いて行くことを思い出した。
 ってな訳で予定外の番外です。
 番外というか、本編の一部なので、前回同様こういう風に[.5]という風にナンバーを打ちました。
20060325 カズイ
20110704 加筆修正
res

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