26.正しき伝説

「飲み物淹れてきました」
 部屋の扉を開けてもらい、麻里亜は部屋の中へと入った。
「ねぇ、麻里亜ちゃんも幽霊とか見えるの?」
「え?」
 入るなり問われた言葉に、麻里亜はきょとんとして首をか傾げた。
「サクラ姫の話をしていたんです。サクラ姫は死んだはずの人や生き物を見たり、話したりすることができるそうなので……」
「麻里亜ちゃんもそうなのかなーって」
 麻里亜は首を横に振り、温かなココアの入ったカップを渡していった。
「私はそう言う能力はなかったんですけど……」
「そう言う能力『は』か?」
「ええ」
 黒鋼の言葉に頷き、お盆をベッドサイドに置いてから小狼の頬に手を伸ばした。
「あ、あの……」
「大丈夫だよ」
 反対の手を小狼の肩に置き、そっと目を伏せる。
 意識を左手に集中させ、いつものように暖かな光を送るイメージをした。
「え!?」
 それが終わると、驚く小狼に微笑みかけた。
「これが私の力。いやぁ……何時言おうか迷ってたんだよね」
 目を伏せて苦笑を浮かべる麻里亜に、小狼は頭を下げた。
「ありがとうございます」
「ううん」
(私こそゴメンね)
 口には出せず、心の中だけで呟くことにした。

「でもなんでエメロード姫が見えたんだろうね」
「私は見えるだけで声は聞こえませんでしたよ」
「小狼くんは?」
 ファイの言葉に小狼は首を横に振って答えた。
「黒るーは?」
「んなもん視えねぇ」
「オレもそっちの力はないなぁ」
「幽霊だったらモコナ視えないし感じない」
「そうなんだー」
「幽霊とか視えるのは黒くて青い耳飾りのモコナなのv」
「なんかいたな。黒いまんじゅうみたいなのが。役にたたねぇな白まんじゅうは」
「モコナがんばったもん!大活躍だったもん!!」
 ぽかぽかとモコナは黒鋼に攻撃をはじめ、黒鋼は枕で応戦を始めた。

「はぁ……」
 溜息を吐きながらも、麻里亜の顔は笑っていた。
 サクラの眠るベッドに視線をやれば、ゆっくりとサクラが目を覚ますところだった。
「サクラ、大丈夫?」
 ぼうっとした視線でサクラは起き上った。
「サクラが起きたー!」
 ファイと小狼を巻き込んで暴れていたモコナがサクラのベッドの上に着地する。
「ずっと……誰かが見てる……ってどういうこと……?」
「姫?」
「もう一度エメロード姫にあわなきゃ……!」
「落ち着いてサクラ」
「姉さま、でも……」
「サクラの羽根は取り戻したし、もう次の国へ行かなくちゃいけない。だから……正しい伝説を教えてくれる?」
 サクラは戸惑い気味に頷いた。
 語るサクラの言葉に小狼はペンを取り、それを綴った。
 この国の言葉で綴る言葉。端々に読み取ることはできるが、そこから正確に読み取ることは出来ない。
 それでも覚えている。それで十分だろう。
「さぁ、行こうか。サクラ」
 ベッドの上、積み重ねた本のさらに上にそれを置き、立ち上がった。
 サクラは少しでも急ごうと言うように早足に歩き出していた。


「……だめ。エメロード姫……どこにもいない……」
「前に侑子言ってた。心配なことがなくなったら霊はどこかへ行くんだって」
「成仏するってことか」
「よっぽど子どもたちのことが心配だったんだねぇ、金の髪のお姫様。けどエメロード姫がサクラちゃんに教えてくれた"誰かがずっと視ている"っていうのはどういうことなんだろう」
「もうひとつ分からなかったことがあるんです。カイル先生はどうしてあの城の地下に羽根があると知ったんでしょう」
「本にあったからじゃねぇのか」
「グロサムさんに聞きました。羽根がエメロード姫の亡くなった後、どこにあるか書かれた本はないそうです。それに、そんな伝承もないと」
「この旅にちょっかいかけてるのがいるってことか」
「"誰か"が」
 モコナは麻里亜の方の上を飛び降り、羽根を広げるわけでもなく、突然口をぱかっと開いた。
「え?」
 そこから飛び出したのは水色の封筒。
 その手紙はひらひらと風に舞いながらも、ゆっくりと麻里亜の手の中に不自然ではあったが落ちた。
「それじゃぁ、次の世界に行こう!」
「……えぇ!?」
 展開がいまいち読めず、麻里亜は慌てて手紙を握りしめながら目を閉じた。



⇒あとがき
 いよっしゃぁ!これにてジェイド国編終了でございます。
 んでもって、次回からはオリジナル編でございます。桜都国はもちっと先です。
 ……加筆しながら気づいたのですが、前回うっかりファイと黒鋼別行動にしちゃいましたが、二人もやっぱりグロサムのところ行ってましたよね。どうすんだ私ww
20050603 カズイ
20080422 加筆修正
res

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