20.金の髪の姫

 ファイの背の奥に見える謎の男の文様が描かれた看板裏を見つめた後は、ただまっすぐに町を見詰めた。
 その間にモコナは黒鋼の元へと移動していった。
「なんか、歓迎されてないって感じがビシバシするねぇ」
「されてねぇだろ、実際」
 ふっと、玄関先に出ていた少女に小狼の視線が向かう。
「こんにちは。聞きたいことがあるんだ。この町の……」
「外に出ちゃダメって言ったでしょ!」
 家の中から出てきた母親らしき女性によって、少女は一言も言葉を発することなく家の中へと戻されてしまった。
「あー、これはやっぱりあの酒場で聞いた話のせいかなぁ。伝説を確かめようにもこれじゃ話もできないねぇ」
「せめて金髪の姫がいたという城の場所だけでも教えてもらえるといいんですが……」

―――バタバタバタ

 重なる人の足音にファイは麻里亜を守るように馬を止めて見せた。
 今まで以上に密着する形になり麻里亜は高揚する気持ちを必死に抑えようと小さく深呼吸をした。
「おまえ達何者だ!?」
「旅をしながら各地の古い伝説や建物を調べているんです」
「そんなもの調べてどうする!」
「本を書いてるんです」
 突然の小狼の言葉に黒鋼もファイも驚く。
 嘘なのだが、小狼は実に堂々としているから真実味がある。
「本?」
「はい」
「おまえみたいな子どもが!?」
「いえ、あの人が」
 嘘を貫く小狼はファイをそう言って示した。
「そうなんですー」
 ファイもノリノリで返事をしている。
 黒鋼を示さなかったあたり、小狼も冷静にちゃんと考えている。
 人間やはり向き不向きがある。

 ただ、問題はこの後だ。
 ツッコミから逃れるためにファイの馬に乗ったが、ファイは麻里亜にどんな役を当てはめるのだろう。
 さすがにサクラならまだしも麻里亜まで妹というのは少し違和感が生まれてしまうように思える。
 外国人顔のサクラとファイは兄弟でまぁ通じるだろうが、サクラと麻里亜が兄弟といわれると微妙なところだ。
 顔のつくりが違う故に複雑な事情がありそうなことになりかねない。
 どうするだろうと内心ハラハラしつつも、平静を装って麻里亜はじっとファイの言葉を待つ。
「その子がオレの妹でー、その子が助手でー、こっちが使用人」
「誰が使用人……がっ!!」
 ……とっても痛そうだ。モコナのヘディング。
 振動ですら痛そうな気がする。
 思わずご愁傷様と両手を合わせたくなったのは日本人の性なのだろうか。
「で、この子はオレの婚約者」
「やめなさい!」
 驚きに危うく反応しかけた瞬間、第三者的人物が現れた。
「先生……!」
「旅の人にいきなり銃を向けるなんて!」
「しかし今の大変な時期に余所者は……!!」
「余所から来た方だからこそ無礼は許されません!」
 間に立つカイルを麻里亜は無表情で見つめた。
 睨まなかっただけマシだと思ってほしい。
 そう思いながら、麻里亜は笑みを浮かべられずにいた。
「失礼しました旅の方達。ようこそ『スピリット』へ」

  *  *  *

 場所を変え、ファイによるさっきと同じような自己紹介が終わった。
 麻里亜はさっきの無感情とは対照的に笑みを浮かべカイルに丁寧に頭を下げた。
「この町の医師カイル=ロンダートと申します」
「ありがとうございます、泊めて頂いて」
「気にしないで下さい。ここは元は宿屋だったので部屋は余っていますから」
「どういうことだ先生!こんな時に素性の知れない奴らを引き入れるなんて正気か!」
「落ち着いてグロサムさん」
「これが落ち着いていられるか!町長!!まだ誰も見つかっておらんと言うのに!」
「だからこそです。この方達は各地で伝説や伝承を調べてらっしゃるとか。今回の件、何か手がかりになることをご存知かもしれません」
「どこの馬の骨とも分からん奴らが何を知っているというんだ!」
「この地で暮らす者では分からないことを」
「これ以上何かあった後では遅いんだぞ!」
「グ……グロサムさん!と……とにかくその人たちを夜外に出さんようにな、先生!」
 先に出て行ったグロサムを追いかけて町長は慌てて出て行った。

「すみません、紹介も出来ないで。町長とグロサムさん。グロサムさんはこの町の殆どの土地の所有者です」
「大変なときにお邪魔してしまったみたいですねぇ。隣町で聞きました。この『スピリット』の伝説とか」
「私もあれは良くある只の御伽話だと思うんですが、まさか本当に子どもがいなくなってしまうとは……手を尽くして探しているんですが、一人もみつからなくてもう二十人になります」
「そんなに……」
「俺達を見て警戒するワケだ」
「さっきグロサムさん達に言ったように些細なことでもいいんです。子ども達をさがす糸口があれば教えてください」
 カイルとの話はそれで終わり、部屋へと移動した。


 割り当てられた部屋の組み合わせはいたってシンプルだ。
 女の子であるサクラに一部屋。
 使用人と助手の黒鋼と小狼に一部屋。
 一応婚約者同士ということになっている麻里亜とファイに一部屋の計三部屋。
 親切だが、ちょっと迷惑でもある。
 萌というレベルでは現在の麻里亜は幸せ以外の何者でもないのだが……
「とりあえず宿は確保できたねぇ。ナイスフォローだったよ」
「父さんと旅してる時にもあったので」
「でもなかなか深刻な事情だねぇ。実際伝説通りに金の髪の姫君が関係しているのかは分からないけどね」
 窓の外ではランプを持った自警団たちがきょろきょろと子ども達を捜している。
「とにかく今日はもう遅いし……寝たほうがいいみたいだねぇ」
 ふらぁ〜と倒れるサクラのために部屋の扉をひとつ開けた。
「私も部屋で休みます」
「あ、オレ、黒るんたちのところにいるから、先に眠っちゃってていいからね」
「……って、やっぱり同じ部屋……なんですか?」
「オレ紳士だよ?合意がないのに襲いそうな黒るんと一緒にしないでよ」
「あんだと!?」
「ちゃんと襲いそうなーって言ってるのにー」
「変わんねぇんだよ!」
 怒鳴りあう二人にため息をつき、麻里亜はその奥の部屋の扉を開けて中に入った。


 持っていたコートを机の上に置き、ベッドの上に座り込んだ。
「……エメロード姫か」
 ぽすんとベッドに上半身を倒し、目を細める。
「小学生のときだっけ……連載してたの」
 記憶力は悪くないほうだとは思うけど、はっきりとそうだ!といえるほど良い訳でもない。
 だが連載が終わったあとも、アニメの放映が終わったあとも何度も時折思い出したかのように読んでいた。
 思い起こせば懐かしいものだと麻里亜は目を細める。

 この世界はあの男の策略のうちで、カイルはその手先で真犯人。
 知っていても小狼たちに打ち明けるつもりはない。
 自分には物語を変える勇気はない。
 麻里亜はベッドの上に転がり、もぞもぞと布団を被った。
 明かりははじめからつけていなかったから、薄暗い部屋は少し怖い。
 目を閉じ、布団の中で丸くなる。
 少しずつ自分の体温を最初は奪っていた布団が暖かくなり、目を閉じればゆっくりと眠気がやってきた。
 霧の国でのあの声は聞こえることはなく、不自然なくらい静かな眠りが訪れた。



⇒あとがき
 ぶっちゃけ、カイルが好きじゃないww
 本当は黒鋼と同じ使用人にしようかと思ってたのですが、こっちのほうがおもしろいかなぁということで諦めました。
 ちなみに部屋割りは適当です。←こらw
20050429 カズイ
20071212 加筆修正
res

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