17.互いの結末
「……術が本当に解けてる」
城に入った春香が驚いたように呟く。
「麻里亜の言った通りだ」
「侑子さんがくれた力はそれだけ偉大なのよ」
「あの白まんじゅうの額の……」
「まぁ、それは置いておいて。えっと羽根の魔力は、っと……あっち!」
麻里亜が先頭を走り、その後をサクラと春香は追いかける。
サクラもその波動を麻里亜同様少しではあるが感じ取っていた。
「この扉の先!」
攻防の音がそれを肯定するかのように扉の先から聞こえてくる。
「私とサクラ姫で開けるから、春香はすぐに鏡を」
「わかった」
「いくよ、サクラ姫」
「はい」
麻里亜とサクラは同時に扉を開いた。
「みんな!目を覚ませ!!」
鏡から溢れ出す力が領主の秘術を浄化していく。
すると、
「なんだ?」
「どうしてこんなところにいるんだ」
ざわざわと男たちが色々と口走り始めた。
「この鏡は人にかけられた術を解く。母さんの秘術道具だ」
「春香!!麻里亜!!サクラも!!」
きゃぁとモコナが男たちの間を抜け、こちらへと飛んできた。
「私の秘術を操る力はまだ弱いけど、でも!この鏡にかけてもうお前なんかに町の人たちを自由にはさせない!」
「くそぉ!!」
領主がまだ抵抗をしようとし、羽根が光を放つ。
それに気づいた麻里亜は咄嗟に身体が動いていた。
「 の力を秘めし『鍵』よ!真の力を我の前に示せ。契約の下麻里亜が命じる『封印解除』」
鍵が言葉に反応し、麻里亜は杖へと転じた鍵を掴む。
「風[ウィンディ]!」
風がかまいたちのようになり、領主へと襲い掛かる。
「無駄な抵抗はやめなさいよ」
麻里亜は冷たく倒れた領主を見下す。
へたりと尻餅をついた形で倒れている領主へと、小狼が歩み寄る。
「……羽根を返せ」
威圧のかかった小狼の言葉。
「……返せ」
「ま……待て!これを使えば春香の母親を生き返らせれるかもしれん!わ、わしを傷つけたり殺したりすればそれもできなくなるぞ!この強大な力を使えばきっと母親は……!」
「お前が殺したんだろ!この町を守ろうとした母さんを!!」
叫び、今にも掴みかからんとしている春香をサクラと共に抑えた。
「それに!母さん言ってた!どんな力を使っても、失った命は戻らないって!!どんなに私が会いたくてももう母さんには会えないんだ!!それなのにそんなたわごと!」
春香の強い力に、麻里亜は奥歯をかみ締めた。
胸の奥で燃え上がる悲しみがひしひしと伝わる。
「……春香」
ぽつりと小狼が口を開いた。
「敵を討ちたいか。それで気が済むならいい。けれど、春香が手を掛ける価値のある男か?」
ぎゅっと目を閉じた春香。
もう、大丈夫だろう。
麻里亜とサクラはそれを感じ取り、春香から離れた。
「こんな奴……殴る手が勿体無い!」
「わ、わしに触るな!く……来るなー!」
『そこまでだ』
歩み寄る小狼と脅える領主の間に第三者が介入した。
それは高麗最高の秘妖―――蓮姫の秘妖。
『よくも私をこんな城に閉じ込めてくれたな』
「ひっ」
『この領主[ゲス]は私が預かろう。……ゆっくり礼をせねばならん』
「い……いやだ!!」
「信用しても大丈夫そうだよ。その秘妖さん」
いつの間に戻ってきたのだろう、ファイが小狼に告げた。
「やめろお!」
『安心しろ秘妖の国で息子共々最高の持てなしをしてやろう』
「いやだぁー!!」
領主が泣き叫ぶ中、秘妖は問うた。
『春香とやらはおまえか』
「……そうだ」
『おまえの母親は良い秘術師だった。この領主の卑劣な罠によって亡きものとなったが、私との戦いで己を磨き、おまえが成長してそんな己以上の秘術師になることを楽しみにしていると言っていた。強くなれ、私と秘術で競えるほどな』
「……なる。絶対に!」
涙を目に溜めながら春香は秘妖に宣言した。
『ではまたな、可愛い虫けらども』
「ひぃぃぃぃ」
領主であった男の断末魔と共に秘妖はその姿を消した。
羽根を守っていた球体は崩れ落ち、小狼はそれを掬うようにして持ち上げ、サクラへと返した。
羽根もまたサクラの胸の中へと飲み込まれてその姿を消した。
「どうして……ね、さま……誰もいないのに……」
光を宿さないうつろな瞳で、サクラは意識を失いながら呟いた。
その身体を小狼が抱きかかえた。
「羽根、もうひとつ……取り戻せた」
麻里亜は目を伏せ、ほうと胸を撫で下ろす。
ふと宙を仰ぎ、その向こうに居る人物を睨むように目を細めた。
「……飛王」
呟いた麻里亜の瞳は麻里亜のものでありながら、麻里亜のものではなかった。
射抜くように睨んだ後、麻里亜ははっとなり、首を傾げた。
「あれ?」
「どうした」
「なんでもないですよ、黒鋼さん」
その様子を見ていたのであろう黒鋼に首を横に振った。
今何かをした気がするのだが覚えていない。
ボケるにはまだ早いぞと己の頬を軽く両手で挟み込むように叩き、小狼とサクラに視線を戻した。
* * *
「ありがとう、領主をやっつけてくれて」
「おれは何もしてないよ」
「あの城の秘術が解けなかったらずっと領主には近づけなかった。だから、小狼たちのおかげだ」
「いや、本当におれは何も……」
「こっちこそありがとぉ春香ちゃんに貰った傷薬良く効いたよ!」
「母さんがつくった薬なんだ。私にはまだ無理だけど、でもがんばってお母さんに恥じない秘術師になる」
「なれるわ、きっと」
サクラが春香の手を握り締めていった。
「麻里亜も、ありがとう」
「え、私?」
手を右手を閉じたり開いたりしてして油断していた麻里亜は、弾かれたように顔を上げた。
「母さんの鏡のこと思い出せてくれたのは麻里亜だ」
「あれが思い出させたって言うんならね」
麻里亜は春香に肩をすくめて見せた。
「春香ならきっといい秘術師になれるよ」
「麻里亜がそういってくれるなら心強いな」
―――ファサァ……
不意にモコナが羽根を広げた。
「あ、そろそろ行く?」
「行く」
「なんだ!?どこ行くんだ!?」
「まだ来たばかりなのに……!」
「やらなければならないことがあるんだ」
麻里亜は微笑み、すっと春香の向こう側を指で示した。
「本当の暗行御吏はあっちだよ。元気でね、春香」
その手をひらひらと振り、最後に暗行御吏である三人の影が見え、そして次元の移動がはじまった。
「妹之山って、漢字変換しようとすると芋の山になるんだよねぇ……」
ぽつりと麻里亜が呟いた言葉の意味を解したものは、当然ながらいない。
⇒あとがき
名前が残以外瞬間的に思い出せなかったんです。ちょうどCLAMP学園探偵団が手元になくって(泣)
とりあえず、これにて秘術の国は終了〜♪
あ、杖の名前がないのはわざとですのであしからず。
20050329 カズイ
20070722 加筆修正
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