16.絡繰りの城

「そっかー、また領主とかの"風"にヤラレたんだー」
「しかし、そこまでやられてなんで今の領主をやっちまわねぇんだ」
「やっつけようとした!何度も、何度も!でも領主には指一本触れられないんだ!領主が住んでいる城には秘術が施してあって、誰も近寄れない!」
「なるほどー、それがモコナの感じた不思議な力かー」
「不思議な力が一杯で、羽根の波動、良くわからないの」
「あの息子のほうはどうなの?人質に取っちゃうとかさー」
 軽く手を上げてファイが提案を出す。
「……おまえ、今、さらっと黒いこと言ったな」
 さすがの黒鋼もこれには引いたようだ。

「だめだ!秘術で領主は蓮姫の町中を見張ってる!息子に何かしたら……!」
「昨日とか今日の小狼くんみたいに、秘術で攻撃されちゃうかー」
 うーんとファイは考える。
 言葉が出てこないということは麻里亜が台詞を奪って良いということだろうか。
 お茶を飲みながらのんびり話を聞いていた麻里亜は、あまりにも出てこない次の台詞に冷や汗を流しながら、口を開いた。
「一年前、急に強くなった領主。……普通に考えておかしいですよね」
「うん、そう思うー」
 そう思っていたなら早く言ってください。心臓に悪いです。と麻里亜は内心毒づいてみた。
「サクラちゃんの羽根に関係ないかなぁ」
「辻褄が合わねぇだろうが。記憶の羽根とやらが飛び散ったのはつい最近の話だろ」
「次元が違うんだから、時間の流れも違うのかも」
「確かめて来ます。その領主の元に羽根があるのか」

「待って!」

 サクラが立ち上がった小狼の服をつかんで引き止めた。
「小狼くん怪我してるのに……」
「平気です」
「でも……」
「大丈夫です。羽根がもしあったら取り戻してきます」
「小狼くん……」
「ちょっと待ってー。ん、安心して、止めるワケじゃないからー」
 決意に満ちた小狼にファイは笑った。
「でもね、あの領主の秘術、結構すごいものみたいだからねぇ、ただ行っただけじゃ無理でしょう。せめて、城の入り口にかかってる術だけでも破らないと」
「おまえ、なんとかできるのかよ」
「無理」
 ファイはずびしと言い切った。
「……侑子さんに聞けばどうにかなりますよ」
 いかにも策ありげだったファイに突っ込みを入れる黒鋼を横目に、麻里亜は「ね、モコナ」と振った。
 話を振られたモコナは、
「侑子に聞いてみよう!」
 と宣言し、うおりゃぁと掛け声を掛けた。
 モコナの額の飾りが光を放ち、映像を映し出した。
 呼び出しに気づいたのだろう、長い黒髪の女性―――次元の魔女こと侑子が振り向いた。

『あら、モコナ。どうしたの?』

「ぎゃー!しゃべったー!!」
 春香が驚いてサクラに飛びつく。
「ほんとにモコナは便利だねー。これ異世界に通じてるんだー」
「便利にも程があるだろ!」
 みんな驚きに話がついていかないらしい。
「実は……」
 しょうがないと、麻里亜が口を開き、侑子に説明することにした。

 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・

『なるほど、その秘術とやらを破って城に入りたいと』
「そうなんですー」
『……でも、あたしに頼まなくても、ファイと麻里亜は魔法使えるでしょう?』
「あなたに魔力の元渡しちゃいましたし」
『あたしが対価として貰ったイレズミは「魔力を抑えるための魔法の元」あなたの魔力そのものではないわ』
「まあでもあれがないと魔法は使わないって決めてるんで」
 ファイを纏う空気がほんの少し変わった。
 麻里亜はそれに気づかないとでも言うように無視を決め込んだ。
 きっとそれがファイのためだと思い―――
『麻里亜は?』
「封印の鍵の名前がまだ分かりませんから」
『そう、まだ問題が解けないのね』
「ヒントくらいくれませんか?」
『いいわ。城の秘術が破れるもの、そして麻里亜の鍵の名前のヒントを送りましょう。ただし、対価を貰うわよ』
「おれになにか渡せるものがあれば……」
「これでどうですかー?魔法具ですけど、使わないし」
『……いいでしょう』
「えっと、私は何を渡したらいいでしょうか」
 話の流れ的に杖は分かるのだが、自分が渡すべきものが分からない。
『あなたを導いたもの』
「一回血がついちゃってますけど、大丈夫ですか?」
『それくらい問題ないわ』
 黒鋼に返してもらった後、嵐に洗濯してもらっていたハンカチをファイの杖に結びつけた。
『モコナに渡して』
 あーんと口を大きく開いたモコナの口に杖とハンカチは飲み込まれた。

―――ぽんっ

 時間差を置いて、モコナの口から魔力のこもった塊が現れる。
「これが、秘術を破るもの……」
「百目鬼と四月一日のメモリー……ぐふっ」
 ぐふっと笑った麻里亜に黒鋼は思わず少し距離を置いた。
 そしてまた時間を置いて、モコナの口から青いケースが飛び出した。
 開けてみると、中には綺麗な装飾のカフスがあった。目立たず、控えめで、それでいて趣味のいいシルバーのそれはきっと自分に似合う。
 奇妙な感覚を覚えながら、麻里亜はそれにそっと指を這わせてみる。
 すると、パキンッと何かが破裂したような音が聞こえた気がした。
「……麻里亜ちゃん?」
 心配そうにファイが麻里亜の顔を覗き見る。
「私、判った気がします。感覚でだけなら」
 耳にカフスをつけ、もう一度触れてみた。
 青い飾りの小さな宝石がひんやりと冷たく感じた。
 だけど、目を閉じてみると、それが妙に温かく感じた。

  *  *  *

 サクラのものよりはおとなしいものではあるが、麻里亜もこの国の服に着替えた。
 そして、三人を見送るため、春香とサクラと外へと出た。
「いやだ!!私も領主のところへ行く!」
「領主の城には秘術が施してあるしね。危険だよー」
「承知の上だ!一緒に行く!!」
「んー、困ったなぁ」
 ちらっとファイが振り返ると、ふいっと黒鋼は視線を逸らした。
「俺ぁガキの説得はできねぇからな」
「照れ屋さんだからー?」
「テレ屋さんーv」
「なんか違うと思いますよ」
 思わず突っ込んでおいた。
「行って領主を倒す!母さんのカタキをとるんだ!!絶対一緒に行くからな!いいだろ!?小狼!!」
 涙を浮かべながら縋る春香の手を、小狼はそっと解いた。
「だめです」
 そして背を向けて歩き出す。
「ここでサクラ姫たちと待っていて下さい」
 黒鋼とファイもその後を追って歩き出した。

「……小狼くん……」
 ぽつり、とサクラが呟き、そしてその背を視線で追う。
「私が子供で、たいした秘術も使えなくて……足手まといだからか」
「……違うと思う」
 そっとサクラは春香の身体を抱きしめた。
「そうそう、あれは小狼くんの優しさだよ」
 麻里亜もそっと春香の背を撫でた。
「春香には、春香のできることをしなくちゃ」
「え?」
「一つ、小狼くんを助けられる方法があるの。それには春香の力が必要なの」
「助けるって、どういうこと?」
 サクラが心配そうな顔で麻里亜に縋る。
 麻里亜は苦笑し、口元に人差し指を立てた。
「小狼くんたちには内緒だよ?」
「う、うん……」
「私はほんの少しだけ先の未来を知ってる。だからこれからいく城で小狼くんが危なくなるってことを知ってる」
 目を伏せ神経を研ぎ澄ませれば、魔力の高いファイの気配を筆頭に小狼たちの動きがわかる。
「領主に操られた秘妖が秘術を使うわ。酸性の池と珠に服は溶け、肌は焼ける」
「なんだって!?」
「そんな……」
 麻里亜は遠い空を仰ぎ、何かの割れる音を聞いた。
「……麻里亜?」
「結界が壊れた。多分、時期に―――」
「どうやったら助けられる!?私にできることってなんなんだ!?」
「絶対大丈夫。黒鋼とファイは秘妖に負けない」
「小狼くんは?」
「それを助けに行くのよ」
 おーっと手を振り上げるが、二人は不安そうな顔のままだった。
「小狼くんは領主の卑怯な手に惑わされる。領主に操られた町の人に傷つけられてしまう。……でも、春香にはそれを助ける力がある。私にもサクラ姫にもない力―――秘術がある」
「でも、私の力は弱い!」
「それでも扱えるものがある。助けられる道具があるはずだよ?」
「……母さんの鏡」
 あっと小さく春香が呟いた。
「じゃあ、行こうか!」
「でも……」
「確かに駄目だって言われたたけど、私達は"行かない"って言ってないもの。ね」
 ウィンクをすると春香は「それもそうだな」と笑みを浮かべて立ち上がった。
「サクラ姫も行こう」
 こくりと頷き、サクラは差し出された麻里亜の手を取った。
 春香は母の鏡を胸に抱き、三人は絡繰りの城へと向かった―――



⇒あとがき
 よし、これで置いてけぼりヒロインじゃなくなった!
 ヒロインはヒロインでがんばるのです!次秘術の国ラスト!!
20050329 カズイ
20070721 加筆修正
res

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -