14.秘術の国へ

 覚悟はしていた。
 が、
「……痛ったぁ」
 麻里亜は思わず呟いた後、慌ててスカートの裾を抑え、見てないよなと慌てて確認するように回りを見た。

「ああー?次はどこだ?」
「わーなんだか見られてるみたいー」
「てへ。モコナ注目のまと」
 色んな意味でね。
「なんだ、こいつら!どこから出て来やがった!!」
 ぐいっと男がサクラの手を無理矢理掴んだ瞬間、小狼の飛び蹴りが炸裂した。
 分かっていたはずなのに、麻里亜は少し驚きながら小狼を見た。
 確かに、小狼は強かった。
「お前!誰を足蹴にしたと思ってるんだ!?」

「やめろ!!」

 高い屋根の上から少女の高い声が届いた。
「だれかれ構わずちょっかい出すな!このバカ息子!!」
「春香!!誰がバカ息子だ!!」
「おまえ以外にバカがいるか?」
「このー!失礼な!!」
「高麗国の蓮姫を治める領主さまのご子息だぞ!」
「領主といっても、一年前まではただの流れの秘術師だったろう」
「親父をばかにするかー!領主に逆らったらどうなるか、分かってるんだろうな!春香!!このブレイの報いを受けるぞ!覚悟しろよ!」
 捨て台詞にも取れる言葉を残し、男たちはぞろぞろと去っていく。


「んだ、ありゃ」
「この国の領主を守る人……じゃないですか?」
 慌てて麻里亜は後半を出きるだけ平静に付け加えた。

「ほらー黒ぴんも麻里亜ちゃんも拾って」

「あー?めんどくせーなー」
「あ、はい」
 不思議な、果物と言うべきか野菜と言うべきか悩む代物を集めて箱へ入れていく。
「あいつら、また市場で好き勝手して!」
「この町にも早く暗行御吏が来てくれればいいんだが……」
 聞こえた呟きに一つの作品を思い出す。
 文庫本になってから立ち読みをして読んだだけなのでよくは覚えていない。
 あの本のタイトルはたしか、
(春香……ん?なんだったっけ)
 麻里亜は思い出そうと首を捻った。

「ヘンな格好だな」

 じいっと服装を見られ、麻里亜は思わずどきりと弾んだ心臓を押さえた。
 どうやら順に服装を見ていたようだ。
「おまえ達、ひょっとして!!……来い!」
 勇ましく、春香は眠そうに目を擦るサクラの腕を引っ張り走りだした。
「途中で作業放り出してすみません」
 ぺこりと店の壮年男性に頭を下げ、麻里亜は慌てて後を追いかけた。
 先頭が小柄な春香なので、それほど急がずともすぐに追いつくことは出来た。

  *  *  *

 中国というか、沖縄というか、とにかくちょっと古い雰囲気の一戸建ての家にお邪魔することになった。
 フローリングに置かれた座布団の上にちゃんと座っているのはサクラと小狼と麻里亜。
 小狼の頭の上にはモコナがいる。
「あ、あの、ここは……」
「私の家だ」
「どうして急に……」
 ファイはふらふらと家の中を観察してまわり、黒鋼は阪神共和国で入手したマガニャンを読んでいる。
 "異世界の漫画"というちょっと特殊な響きにときめきを覚えたが、麻里亜はそれをぐっと堪え、眠そうなサクラの隣で春香のまっすぐな視線を受ける。
「お前たち言うことはないか?」
「え?え?」
「ないか!?」
「いや、あの、おれ達はこの国には来たばかりで君とも会ったばかりだし……」
「ほんとにないのか!?」
 あるけどと内心で突っ込む。
 言えるわけがないと麻里亜は平静を装う。
「ないんだ……け……ど……」
 にじりよる春香に後ろ向きに煮え画なら小狼が必死に答える。

「よく考えたらこんな子供が暗行御吏なわけないな」
「あめんおさ?」
 サクラが目を擦りながら聞き返した。
「暗行御吏はこの国の政府が放った隠密だ。それぞれの地域を治めている領主たちが私利私欲に溺れていないか、圧政を強いていないか監視する役目を負って諸国を旅している」
「水戸黄門だー!!」
「そうだね、モコナ」
「みと?」
 小狼とサクラは首をかしげる。
「侑子は初代の水戸黄門様が好きなんだって!」
「東野英治郎ね?初代なら私は風車の弥七かなぁ……。素破の次郎坊も嫌いじゃないけど、やっぱり最近は31部から出てる風の鬼若かなぁ」
「麻里亜話わかる〜!」
「かざ?……すは?……???」
 麻里亜の普通は知らないマニアな一面に小狼はますます首を傾げるばかりだった。

「さっきから思ってたんだけど、なんだそれは!?なんでまんじゅうが喋ってるんだ?」
「モコナはモコナー!!」
 麻里亜の手の上を離れ、ぴょーんとモコナは春香に飛びついた。
「まぁ、マスコットだと思ってー。もしくはアイドル?」
「モコナアイドルー」
 ファイの説明に、くるくるとモコナが回り始める。
「オレたちをその暗行御吏だと思ったのかな、えっと…」
「春香」
「春香ちゃんね。オレはファイ、で、こっちが小狼くん、こっちがサクラちゃん、こっちが麻里亜ちゃん。で、そっちが黒ぷー」
「黒鋼だっ!!」
 強く黒鋼は否定した。
「つまり、その暗行御吏が来て欲しいくらいここの領主は良くないヤツなのかな?」
「最低だ!それにあいつは母さん[オモニ]を……」
 春香は俯いて唇を噛んだ。

―――ゴオオォオオオォォ

 遠くから音が聞こえた。
 その音は家の木をみしみしと言わせながら以下付いてくる。
「風の音?」
「外に出ちゃだめだ!!」
 窓が開き、風が目に映る。
 あまりに強い風に麻里亜は目を瞑った。
「きゃぁ!」
 誰かに引き寄せられ、麻里亜はそれに必死にしがみつき、歯を食いしばるように身体を強張らせた。

 風が収まり、目を開ける。
「自然の風じゃないね、今の」
 ふわり、と感覚を研ぎ澄ませたかのような不思議な感覚があった。
 おそらくファイが風の正体を掴もうと魔力とは似ているけど別物の力を使ったからだろう。
「領主だ!……あいつがやったんだ!!」
 麻里亜はそおっと顔を上げ、守っていてくれたのが黒鋼だったのだと気づいた。
 黒いマントで身体を覆い、風が運んだ木片などの異物から身を守っていてくれていたようだ。
 なんだか最近色々と守られてばかりだ。
 ちょっと悔しいものがあったが、それよりも恥ずかしさが今は勝っていた。
「あー、黒ぷー役得」
「何がだ」
「なーんでも?」
 こうしてファイと黒鋼が会話していてくれたお陰で、赤くなった顔を黒鋼に見られなかったのはせめてもの救いだろうか。



⇒あとがき
 黒鋼のマントを見ていたら、こうして使ってみたかった。
 萌え〜……
 水戸黄門の話はわざわざ調べてみました。奥が深いんですね、水戸黄門。
 ちなみに素破の次郎はコロッケがやっていらっしゃったのでなんとなくチョイス。
20050309 カズイ
20070515 加筆修正
res

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