13.旅立ちの時
「正義くん、ほんとうにありがとうございました」
「僕も、巧断もずっと弱いままだったから。だから……だから……!ちゃんと渡せてほんとに良かったです!!」
「弱くなんか無いです。戦うことだけが強さじゃない。誰かのために一生懸命になれることも立派な強さです」
「ありがとうございます!」
涙を拭う正義くんに麻里亜は自然と笑みを浮かべていた。
とりあえず隣で取り合いを繰り広げるモコナと黒鋼は、ファイに倣ってスルーだ。
「よう」
「笙悟さん!」
突然の声に顔を上げた瞬間、モコナがお好み焼きを奪い取った。
「うちのチームの情報網も捨てたもんじゃねぇな。あ、ここちょっと詰めてくれな」
笙悟が黒鋼の前に座った。
笙悟のチームのメンバーが雪兎にオーダーを頼むのを見ながら、自分の前のお好み焼きを黒鋼の分と取り替えて仲裁する。
「黒鋼大人げなーい」
「モコナもあんまりからかわないの」
くすくすと笑うと黒鋼はモコナを睨んで大人しく食べ始めた。
「麻里亜の巧断とも戦ってみたかったな」
笙悟の言葉に、麻里亜は一瞬目を丸くし、そして笑った。
「私は小狼くんたちと違って戦えませんよ」
「特級で強そうなのに?」
「うーん、なんて言ったらいいのかな……戦えるんですけど、戦えないんです」
「なんでだよ」
不満という顔に麻里亜は笑うしかなかった。
「私が戦うことに慣れてないんです」
「ああ、それならわかる」
笙悟はそれで納得してくれたらしい。
* * *
「あの」
会計を待っている間、麻里亜は声を掛けられた。
相手は桃矢だった。
「なんですか?」
あの時泣けたから、麻里亜は平静を装うことが出来た。
「雪から聞いたかもしれないけど……っていうか代わりにしてるようで悪いけど、これ受け取ってくれないか?」
そう言ってポケットから出したのはお守り。
可愛らしい"麻里亜"に良く似合う色のお守りだった。
「私、旅をしていて、もう次の国に行かなくちゃいけないんです」
桃矢の手の上のお守りを受け取り、桃矢に笑みを向けた。
「えっと……だから、大事に使わせてもらいますね」
「ありがとう」
ほっとしたような桃矢の顔に、麻里亜は満足した笑みを向けた。
桃矢に背を向け、会計の終わった小狼たちへと向かう。
ファイの姿を探し、その服の裾を掴んだ。
当のファイは「何?」と首を傾げた。
「大丈夫ですよ、私」
そう言うと、ファイはへらんと笑った。
黒鋼はガシガシと麻里亜の髪をぐしゃぐしゃにした。
「麻里亜えらい!」
モコナが私の腕の中に飛び移ってきて擦り寄った。
「えらくはないよ」
お守りをぎゅっと握り締め、スカートのポケットに入れた。
そういえば、と麻里亜は思い出す。
今日の麻里亜は制服以外の久しぶりのスカートだった。
「またこの国に来たら、会いに来ます。必ず」
「プリメーラによろしく言っておいてくださいね、笙悟さん」
「おう」
「元気でー!!」
麻里亜たちは正義と笙悟のチームの見送りに背を向けた。
後ろが一瞬騒がしくなって振り返った。
自然と麻里亜の顔に再び笑みが浮かんだ。
* * *
「もう行くんか」
「はい」
「まだまだわいとはにーの愛のコラボ料理を堪能させてへんのにー」
悔しがる空汰にくすくすと笑いながら、麻里亜は制服のネクタイが曲がっていないか確かめた。
「ほんとうにありがとうございました」
「なんの!気にするこたぁない。それに、麻里亜には十分お礼してもらったしな」
「気にしないで下さい、あれはむしろ私の自己満足でしたから」
「それでも、感謝します。次の世界でも、サクラさんの羽根が見つかりますように」
羽根を広げたモコナを中心に魔法陣が現れ、光が現れ、魔力が顕現し、モコナの口の中へと引き込まれていった。
光の気泡が肌の横をすり抜けていくようだ。
振り返れば、神威が見えた。
(自己満足に付き合ってくれてありがとう)
そう視線を向ければ神威は小さく手を振った。
麻里亜は再び前をまっすぐ見た。
目指すは、秘術の国。
⇒あとがき
阪神共和国編、これにて終了。
そろそろアニメが始まりますね。
アニメで人気が出るのでは!?というのがK嬢の見解。
しかし、私はとことんコミック派で行きます。アニメ無視。
けど、アニメはそれはそれで勉強になるので見ます。ビデオにとります。
CCさくらを蹴り飛ばしたような声優陣がどういう風に演じてくださるか……どきどきです。
20050327 カズイ
20070514 加筆修正
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