12.涙は笑顔に

「く……くやしいー!!!」
 "来た"と思った時には爆発があって、空から地面へとダイブしていた。
「Calling!」
 大きな声が聞こえると同時に、モコナと麻里亜、正義とその巧断を守るように、一匹の巧断が現れた。
「何やってんだ?プリメーラ」
「笙悟くん!!」

「王子さまの登場ね」
『あれが王子って柄か?どうみてもごろつきだろ』
「今回に限りだよ。何言ってるの」
 ついて行けないと言うように神威は額を押さえた。

「お前仕事だろ。アイドルだろ。コンサートどうしたんだよ」
「だってー!笙悟くん全然遊んでくんないんだもんー!!それにまだ時間大丈夫だもん!会場そこの阪神ドームだし!」
「それにしたって何文化財壊してんだよ」
「笙悟くんのほうこそいっつもアチコチ壊してるじゃない!何よーぅ!」
 口論がおかしな方へ進み始めた横で、麻里亜たちはどうにか地に足をつけた。
 モコナの目がめきょっとなっているのに、まだ誰も気づいていない。
「小狼くーん!!」
 声の限り叫ぶと、小狼が麻里亜たちの方を向いた。
 麻里亜は小狼に見えるようにモコナを持ち上げた。
「モコナ!その目!!
「ある!羽根がすぐそばにあるー!!」
「どこに!?誰が持ってる!?」
「わかんないー!でもさっきすごく強い波動感じたのー!」
 モコナの説明に三人が話を始める。

「さて、私はどうしようかな」
 ふと浮かんだ疑問。
 連れてこられた理由はプリメーラ曰く、麻里亜が笙悟に気に入られているから。
 正義は巧断が大きくなるからいい。
 プリメーラも笙悟が助ける。
 ではイレギュラーである麻里亜は?

 麻里亜はため息をつきながら、首に下げていた鍵を取り出した。
「闇の力を秘めし『鍵』よ!真の力を我の前に示せ。契約の下麻里亜が命じる『封印解除』」
 しかし鍵は反応しなかった。
「闇じゃないのぉ!?」
 隣にいたプリメーラと正義は首を傾げるだけで麻里亜の欲しい答えを持ってはいない。
「月は違うだろうし、太陽も違う……星って柄じゃない!」
 鍵は使えないのかと肩を落とし、鍵を胸元に直した。
 そして胸元に手を当てながら、
「神威、いざとなったら飛び降りようね」
 そう言う。
 うぅと泣きながら言った麻里亜に神威は噴出して笑った。
 麻里亜が落ち込んでいる間にも戦いはヒートアップしていた。

「笙悟くん!」
 プリメーラの声にちらっと眼下を見下ろせば、炎に笙悟が吹き飛ばされたところだった。
「すげー、ここまで吹っ飛んだの初めてだぜ、俺」
「笙悟くんー!」
「だーいじょうぶだから叫ぶなって!のどイカレんぞ、コンサート前に」
「し……心配してないもーん!」

 顔を真っ赤にしてじたばたするプリメーラに麻里亜はくすっと笑った。
「な、何よ」
「可愛いなって思って」
「はぁ!?」
「うん、可愛い」
「ちょっと、自己完結しないでよ!」
 怒るプリメーラに笑っていると、衝撃が訪れた。

「小狼くんー!!」
 正義の叫び声に再び眼下を見下ろせば、水に飲み込まれた小狼の姿が確認できない。
「大変だ!小狼くんが流された!」
「小狼いるよー」
 モコナの言葉に、わたわたと慌てていた正義は不思議そうに水を見た。
 水は急速に蒸発していく。
 それは強く赤い炎によって。
「……すごい……」
 へたりと正義は座り込んだ。
「外国から来たって言ってたのに……もうあんなに巧断を使いこなしてる」
 ぎゅっと両手の拳を握る。
「僕も、強くなりたい。あんな風に、強く!」

 さっきの振動の影響か、上の方から阪神城の鉄片が崩れ落ちてきた。
「きゃあ!」
 麻里亜は咄嗟に転がり落ちそうになったモコナを拾い上げ、プリメーラの身体ともども引き寄せた。
 怯えるプリメーラと麻里亜を、正義がその上から覆うように助けていた。
「だめだ!一人で逃げちゃ!守らなきゃ!!強くなるんだー!!」
 正義の叫びと同時に正義の巧断が巨大化した。
 実物はでかい。そう実感しながら、麻里亜は思わず驚きに目を見開いた。

「あった!羽根!!この巧断の中!!」
 正義の件の手は、正義だけを掬い上げた。
「その子を離しなさいよぉーっ!」
「あ、危ないよプリメーラ!」
 麻里亜はぽかぽかと巧断の手を叩くプリメーラを引っ張って離そうとした。
 だが、時すでに遅し。
「……エネルギーチャージ完了ってヤツ?」
 そう言った瞬間、口から光線のようなものが発射された。
「きゃあああ!!」
「プリメーラ!」
 思わずプリメーラから手を離してしまったが、プリメーラは笙悟が助けた。

 一人空中に投げ出された麻里亜は思わず叫んだ。
「た……助けなさいよ神威!!!!」
 叫び声に呼び出され、神威が麻里亜の中から姿を現し、麻里亜の身体をそっと抱きとめる。
『呼ぶならさっさと呼べ』
 偉そうに笑う神威に普通ならかちんときていたところだったが、助かったと言う安堵感から、ぐったりとした身体をそのまま神威に預けた。
 神威は麻里亜の身体を両腕に抱えたまま羽根を広げた。
 純白の美しい、天の竜の証を。
「飛べたんだ」
 ぽつりと呟いた後、麻里亜はへにゃと笑った。
「死ななくてよかったよ」
 洒落にならないからねと付け足すと、麻里亜は正義と小狼の方を見た。
 羽根を手にした小狼の元へ下ろしてくれと神威に頼んだ。

「サクラの羽根……サクラの記憶……ひとつ取り戻した……」
 緊張の糸を引っ張りつづけていたであろう小狼の顔に、僅かな笑みが浮かんだ。
「よかったね、小狼くん」
「はい」
『麻里亜、そろそろ結界を解いたほうがいい』
「あ、そうだね。ありがとう神威」
 麻里亜は両手を伸ばし、手の中に円柱を掬い取った。

「な、何!?」
 誰もが驚く中、阪神城が円柱の消滅と共にその姿を元に戻していく。
「今のが麻里亜ちゃんの巧断?」
「はい」
 麻里亜は元通りに戻った阪神城を満足そうに見上げ、そして小狼に視線を戻した。
「さ、急いで帰ろうか。羽根を少しでも早くサクラ姫に返してあげるために」
「はい!じゃあ、正義くん」
 すくっと立ち上がった小狼は我先にと走り出した。
「明日のお昼ごろ、この間のお好み焼き屋さんで」
 麻里亜もその後を追いかけて走った。
 その後ろを走ってきたファイと黒鋼はあっさりと麻里亜に追いついてきた。
『遅い』
「うひゃ?」
「飛んでるー」
 ひょいっと持ち上げられ麻里亜は飛んだ。
 一応ファイと黒鋼のペースにあわせ、神威は飛んだ。

 小狼は声をかける空汰たちに軽く返事を返し、家の中に走っていった。
「麻里亜たちもおかえ……神威?」
 呆然とする空汰と嵐に麻里亜は神威に下ろしてもらうよう頼み、ファイと黒鋼の方を向いた。
「ファイさんたちは先に小狼くんのところに行っててください」
「ああ?」
「わかったよ」
 麻里亜の手からファイの肩へ、モコナは飛び移った。
 何で麻里亜の指図などと言う顔をした黒鋼はファイが引っ張っていってくれた。
 それを見送ってから、空汰と嵐に向き直った。
「一雨来ますし、中に入りませんか?」
「……そ、そやな」
 気まずげな空汰と嵐の三人で家の中に入った。
「私の巧断の神威です。空汰さんと嵐さんの知ってる神威とは違うかもしれないけど、一緒の人です」
「麻里亜は知っとったっちゅーわけか。通りで巧断を最初っから知っとったはずやな」
 はぁとため息をついた空汰とは対照的に、嵐の方は大して驚いていない様子だ。
「で、どこまで知っとるん」
「さぁ」
「さぁて……」
「だって、私が知っているところから本当に来たかどうかの判断はわからないわけじゃないですか」
「それもそうやな」
「私が知ってるのは、二人が"神威"と共に戦っていたこと」
「……さよか」
「私は三つの神威に纏わる話を知っています。一つは完結した物語、一つは途中からその先を知らない物語、一つは完結したことを知っているけれど詳しく知らない物語。……私の世界ではない世界でのことですけど」
「麻里亜さんはどうしてそのことを知っているのかしら」
「私の世界では、クロウ・リードや侑子さんですら物語の人間なんです。空汰さんたちも例外でなく」
「そう」
「でも今は私もその物語の一登場人物です。途中までしかわからない未来に不安は沢山あります。……けど、私は信じてますから」
 麻里亜は笑った。
「空汰さんたちみたいに物語と物語を越えて生きる人たちの強さを」
「麻里亜……」
「巧断の夢が見れなくて悩んだことがありました。その時思ったんです。どうせ巧断が憑くなら二人が笑ってくれるような巧断がいいなって」
『こいつは変わっているからな』
 初めて神威が口を開いた。
 その声が空汰と嵐に届いたかはわからない。
 それでも届いている気がした。
 言葉も、思いも。
 空汰の目に涙が浮かんだ。
「すまんかった、最後まで守れんで」
 神威は空汰の顔を覗き込んで笑った。
 お前も笑えと励ますように。

「ありがとうな、麻里亜」
「ありがとう、麻里亜さん」
 空汰と嵐が笑った。
 麻里亜も笑った。



⇒あとがき
 ちょっと長くなっちゃったけど、満足☆
20050317 カズイ
20070514 加筆修正
res

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