11.囚われの姫

「みんなやっぱり巧断出して歩いてないみたいだねぇ……そうなると誰の巧断が強いのかわからないね」
「それにもしどの巧断が羽根を取り込んでいるのか判ってもそう簡単に渡してくれんのか?」
 誰が持っているかを知っている麻里亜は、チクチクと痛む良心に胸を押さえた。
「大丈夫ですか?麻里亜さん」
「なんでもないよ、小狼くん」
「ならいい、っうわぁ!!」
 いいんですと続けようとした小狼は、壁から突然現れた正義の巧断に驚きの声を上げた。
「小狼くーん!」
 少し離れた場所から正義が駆け寄ってきた。
「正義くん」
「探し物、あの後見つかりましたか?」
 息を切らせて現れた正義の身体の中に巧断は姿を消した。
「まだです」
「だったら今日も案内させてください!」
「いいんですか?」
「はい!今日、日曜日ですし!一日大丈夫です」
「でも、良くオレ達がいるとこわかったねー」
「僕の巧断は一度会った人がどこにいるのか分かるんですよ」
「すごいですね」
「すごいすごーい」
 麻里亜の頭の上に移動したモコナが正義に尊敬の念を……込めているかは怪しいが、言葉を掛ける。
「でも……それくらいしかできないし、弱いし……」
 正義が謙遜している隙に、遠くから鳥の巧断が現れる。
 気づいたときには正義は捕まっていた。
 ついでに麻里亜も。
「へ?……うにゃぁぁぁぁ!!」
 奇声を上げつつも、とりあえずズボンを借りておいてよかったと麻里亜は思った。
 落ちないためにも、麻里亜はジタバタと暴れず大人しくつかまった。

  *  *  :

 人生初、鯱に吊り上げられている麻里亜は、のんびりと辺りの景色を見渡して呟いた。
「なーんで私も捕まったんだろ」
「なんで落ち着いてるんですか麻里亜さん!」
 真横でうわーんと泣き続ける正義に、麻里亜は耳を塞いた。
 文句と言えばロープが腹部に食い込んでいるために、お腹が痛い事くらいだろう。
 モコナはモコナで軽いために風に揺られ、逆にそれを楽しんでいる。
 まったくのんきなものだ。
 下の方でプリメーラがファンクラブの男たちと話しているのが麻里亜の耳にも届いた。
『いつまで捕まっているつもりだ』
 身のうちで麻里亜に呼びかける神威の声。
「いつまで……うーん、ファイさんがプリメーラと戦い始めるまで?」
『退屈だな』
「いや、もう少し退屈でいてください」
「誰と話してるんですか!って、うわっ」
 強い風に煽られて、麻里亜と正義の身体が揺れる。
 流石に麻里亜も吃驚し、正義はさらに泣き始めた。
「私の巧断だよ。……と言うか、こう言うときって女の私が泣き叫ぶべきものじゃないだろうか。正義くんや」
「だって、怖く、ひっくっ、ないんですか!?」
「まぁ、鯱に吊り上げられたのは初めてだけど、バンジージャンプ飛んだ事あるし、怖くは無いよ。むしろちょっと楽しいかも……なんて。正義くんはなんで怖いの?」
「揺れてますからぁぁぁ!!」
「残念?」
「ギター侍だぁ」
 のんきに楽しんでいるのはやはりモコナだけだった。
 のんきなのは麻里亜も変わらないのだが。
「鯱……想像上の海獣。頭は虎に似て、背にはとげがあって形は魚に似たものって言うけど……」
 ちらりと、自分たちが吊り下げられている鯱の顔を見る。
「愛らしくて間抜けだなぁ……」
「うわーん!!」
 耳が痛い。
 麻里亜は再び耳を押さえた。
「あ、小狼くんたちだ」
 遠くから走ってくる三人組が見えた。
「神威」
『なんだ?』
「結界って、私でも張れる?空汰さんたちみたいに」
『なんで。……戦わないのか?』
「戦わないよ。戦うのはファイさんとウィンダム」
『……わかった』
 ため息混じりに、神威が麻里亜の身体に教える。
 その使い方を―――
 麻里亜は円柱の結界を思い浮かべ、手の中に現れたそれの半径を広げる。
 阪神城とその辺りに一帯にいる人間たちを結界がすっぽりと覆い隠した。
 とりあえず誰も気づいていないようだ。
「この世界って巧断は全員に憑いてるから出入りも楽々だね」
『建物なんか守ってどうするんだ』
「見目が悪くたって、今は空汰さんたちの居る世界だよ?善意で守ってあげようよ」
『面倒くさい』
「小鳥馬鹿」
『なんだと?』
「ご、ごふぇんなひゃい(ごめんなさい)」
 神威は勝手に麻里亜の中から抜け出しその頬を引っ張った。
「くひゃんひょくへひ〜(巧断の癖にぃ)」
 更に力を強くしようとした神威は突然その姿を麻里亜の中へと隠した。
「?」
 麻里亜は足元に視線を移した。
 どうやらようやく主役たちの登場となったらしい。
「この手紙を書いたのは誰ですか!?」
「あたしよーぉ♪」
「プリメーラちゃーん!!」
 うおおおおと同じ格好の男達の叫び声が響いた。
 口々のアイドル自慢を麻里亜は右から左へと軽く流した。
「モコナと正義くんと麻里亜さんを下ろしてください!」
 たとえ名前を連ねたのが最後であっても、囚われのヒロイン完成である。
「小狼くんはサクラ姫のものだけど、腐女子やっててよかったぁ」
「麻里亜モテモテ!」
「や、それはちょっと違う気がする」
 感激に浸っていた麻里亜だったが、モコナの言葉に冷静に戻った。
「用があるならおれが聞きます!早く二人を下ろしてください!」
「だめよ。返して欲しかったらあたしと勝負しなさい♪」
 小狼たちの背後では小狼たちの声を掻き消すほどの男達の叫び。
「あとはお姫様の奪還を待つのみ」
『お前のどこがお姫様だ』
「じゃあモコナ」
「モコナお姫様!」
『……勘弁してくれ』



⇒あとがき
 あ、笙悟くんのネタ振り忘れた。
20050317 カズイ
20070503 加筆修正
res

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -