□MephistoPheles

※時間軸、高1の5〜6月頃

 渡された魔法円の略図が描かれた白い紙を見つめ、燐はごくりと唾を飲み込む。
 蝮によって何度か悪魔の召喚をしたことがあるが、そのどれも一般的な悪魔の召喚の常識を逸脱した召喚しか出来なかった。
 才能がないとは言わないが、ある意味なかった方が良かったと言えるのが燐の召喚に関する才能である。
「燐、大丈夫?」
「お、おう」
 既に幼生とはいえ緑男[グリーンマン]を召喚して見せたしえみの横で、緊張気味に燐は魔法円の略図と一緒に預かった針を構えた。
 だが緊張している所為かふるふると手が震えた。
「奥村くん、めっちゃ手ぇ震えてますけど、大丈夫ですのん?」
「だ、大丈夫だっ」
「全然大丈夫そうじゃねえよ」
「言うなすぐろん。俺は今、とてつもない試練の前に立たされているんだ」
「意味わからへんわ」
 ぺしりと頭を叩かれた燐はその勢いのままぷつりと人差し指に針が刺さるのを感じた。
「いってー!思いっきり刺さったじゃねえか!!」
「丁度ええからそのまま血ぃ垂らしとけばええやろうが」
「あ、そうだった!」
 悪魔の仔である燐は傷の治りが普通の人間と比べるととてつもなく早い。
 慌てて血を魔法円へと垂らし、傷口をぺろりと舐めれば、傷口等なかったかのように綺麗な指があった。
 それを覚られないように、燐は慌てて魔法円の略図が描かれた紙を握り、すうっと息を吸い込んだ。
「遊ぶぞ」
「遊んでどないすんねんっ」
「え?」
 竜士に突っ込みを入れられた燐が首を傾げると同時に、魔法円からヒュウヒュウと強い風の音が溢れ出る。
 召喚の成功に竜士は当然目を見張ったが、召喚されたものに皆更に驚くこととなる。
「ピンクの……」
「……犬?」
「……ワフッ」
 不貞腐れたように鳴いた犬に皆目を丸くする。
 普通見る事は出来ないピンク色の毛並みを持つスコティッシュ・テリアのような犬は間違いなく燐が最初に祓魔塾に訪れた際に連れていた犬である。
 あれ以来見かける事は無かったが、しえみ以外はその犬が喋る事を知っていた。
「わー、可愛い犬だね!なんて言う悪魔なの?」
「こ、こら、杜山……止めておけ」
 引きつった表情でイゴールが止めるのも聞かず、しえみはひょいっとその犬を抱きかかえた。
「な、何するんですか!?」
「しゃ、喋った!?すごーい!!」
「しえみ、感動してるとこ悪いけど、マジ離してやれ」
「え?あ、そうだよね。燐が召喚した悪魔だから勝手に触っちゃだめだよね」
「いや、違ぇけど……ま、いっか」
 しえみが犬―――基、メフィスト・フェレス卿が化けた姿を解き放つと、テテテと彼は燐に歩み寄った。
「一体あなたは何考えてるんですか!」
「いや……なんかすまん」
「呼ぼうと思えば蛇王[ナーガラジャ]だって緑男だってあなたなら呼べるでしょう!寄りにも寄って何故この私を呼ぶんです!!」
 ぺしぺしと足で燐の足を叩くメフィストの愛らしさに、燐はふにゃりとした笑みを浮かべて腰を下ろした。
「だって兄ちゃんこの姿が一番可愛いんだもんっ」
「なななな何を言っているんですか!可愛いのは貴方ですよっ!……って、なんですかこの羞恥プレイっ」
「もふもふー」
 メフィストを抱え上げた燐はメフィストの毛並みに顔をぐりぐりと当てながら完全に遊んでいた。
 思いついた言葉通りとは言え、その犬がメフィストだと唯一知っているイゴールはどうしていいものかわからず、行き場のない手をとりあえず引っ込めた。
「なんやこの犬、階級証[バッジ]つけてまへんか?」
「そりゃ当然だろ。兄ちゃんは名……」
「わー!!!」
「……何だよ兄ちゃん」
「あなたなんてことを言おうとしてるんですか!言ったでしょう?私は特別だと。何勝手にバラそうとしてるんですか!」
「ん?そんな事言ったっけ?」
 首を傾げた燐にメフィストはぷるぷると身を震わせた。
「駄目です耐えられませんっ。なんですかこれっ」
「兄ちゃんの言ってる意味が分かんねえんだけど」
「イゴール!とっととこの状況をどうにかしなさいっ」
「あ、ああ……奥村、とりあえず紙を破れ」
「えー?」
「えーじゃない」
「ブーッ」
「……くっ」
「何負けてるんですかイゴール!もう誰でもいいからとっとと紙を破ってくださいよー!!」



⇒あとがき
 落ちが見えてこないのでぶち切ります。
 アンケートのコメントを見た瞬間そのネタに飛びつかせていただきました。
 ありがたやありがたや。
 けどあえての犬ver.での召喚にしちゃいました。その方がもふもふしてて好きなので。←
20110728 カズイ
res

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