□夫婦の事情

 なんかこう……うっかり流れに身を任せたと言うかなんと言うか。
 もやもやと言い表せない自らの状況に思わず溜息を零し、虚ろな目で宙を見上げた燐が先ほど視線を走らせていた場所では志摩家の次男、四男、五男の三人が庭先でキリクを手に熾烈な兄弟喧嘩をしていた。
 可笑しい、何がどうなってこうなったのだろう。
 燐は視線を足元に落とすと、弟が自分の行動に対して良くそうしているように目頭を押さえた。
 正十字騎士團の新米祓魔師である燐はサタンの仔と言う理由で双子の弟である雪男か、剣術と魔印の教師であるシュラのどちらかの監視が必須となっていた。
 だが偶然与えられた任務のため竜士たち三人と共に再び訪れた京都で再会した廉造の兄・柔造と話しているうちに、それもどうしてそうなったのか燐は未だにわからないが柔造にプロポーズをされたのだ。
 最初は当然驚いたし、普通に冗談だと思っていたのだが、あれよあれよと気付けば奥村姓はあっという間に志摩姓に変わっていた。
 柔造自身仏教系と言う括りは有るものの、雪男よりも上の上二級祓魔師であるため燐の夫であると同時に監視役に収まる事となった。
 まだ学生の身分であるために学校も塾も通っているが、休みの度に帰宅申請が柔造によってしっかりされていた。
 しかも行き帰りは燐に甘いメフィストによる無限の鍵が使われるため燐はゆっくり柔造の側で休暇が取れるはずだった。
 世の中そう簡単に物事は上手くいかないのだと言う様に京都の志摩家へ帰るたび、志摩家の四男・金造の邪魔が入り、しばらく喧嘩した後柔造が勝ってようやくゆっくり二人の時間が取れていた。
 だが今日、任務のために京都へ来た燐の側にはその更に下、末っ子である五男・廉造の姿があった。
 柔造よりも先に燐に想いを寄せていた廉造は事あるごとに燐に告白しては振られているのだが、決して諦めてはいなかった。
 廉造の想いを出雲やしえみに対する軟派的なものと同じ物だと思い込んでいる燐は当然そんな廉造の気持ちなどわからず、目の前の熾烈な三人の兄弟喧嘩に頭を悩ませるのだった。
「……なんや馬鹿が一杯おるなあ」
 ため息交じりの呆れ声が背後から掛かり、燐はぱっと顔を上げる。
「志摩所長……じゃなくて、八百造さん」
「せやのうて家ではお養父はんでええ言うとるやろ」
 にかりと柔造に似た……いや、柔造が似たのだろう笑みを浮かべる八百造に燐は小さくうっと詰まりながら「お養父さん」と言い直した。
 「どっこらせ」と声を発しながら燐の隣に座った八百造は、肘を付き、息子たちの喧嘩を見つめた。
「かいらしい嫁放ったってからに……なあ」
「はは……まあでもいつも通りっつうか……」
「まあ燐ちゃんが居る時のいつも通りやけど、ええ加減にせえへんと孫の顔が見れへんやないの。なあ燐ちゃん、ちゃんと柔造とセックスしとる?」
「まっ……せっ!?」
 真面目な顔で言われた言葉に燐はかあっと頬を赤らめ、首を横にぶんぶんと振った。
「あー!お父んなに燐の横座って口説いとるんや!!」
「阿呆。これのどこが口説いとるように見えるんや金造」
「せやかて燐ちゃん顔真っ赤やないの。燐ちゃんお父んに変な事されてへん?」
「ち、違えよ馬鹿!!お養父さん、は……あああああっ」
 素直にその事を口に出来ず、燐は両手で顔を覆って首を横にぶんぶんと振った。
 志摩家の人間は皆燐がサタンの仔だと知っているため、学校では服の内側に隠している尻尾が表へと出ており、その尻尾がベチベチと廊下を叩く。
「お父ん、燐は初心なんやから変な事言うたらあかんて言うてるやろ」
「せやかて折角息子が結婚したんやし、初孫の顔は早く見たいもんやで」
 胸を張って言い張る八百造に柔造はぽかんと口を開き、金造と廉造はさあっと顔を青ざめさせた。
「お父ん何言うてはるんや!確かに今の燐は柔兄のやけど、すぐに燐は俺の嫁になるんやさかい……」
「金兄のアホ!燐ちゃんは俺の嫁に……」
「どっちのにもなるかドアホ共!」
 キリクで金造の頭を叩き、足で廉造を蹴り飛ばすと、柔造ははあと溜息を零して八百造の前に立った。
「お父ん、孫に関しては燐ちゃんと俺の二人で決める事やからあんま口挟まんといてや」
「せやかて娘たちはまだまだ嫁がす気あらへんし、唯一嫁貰いそうな三番目はふらふらしとるし……ここはもう燐ちゃんに期待せえへんでどないせえ言うんや」
「第一燐ちゃんはまだ学生やし、セックスはしとるけどちゃんと避妊もしとるんやから」
「柔造!お前それバラすな!!」
「隠したかて同じ家に住んどるんやから部屋近かったら声聞こえてんで?燐ちゃん声大きいし」
「!?」
「金兄ええなあ……燐ちゃんの声聞けて」
「アホか。ただの生殺しや」
 ぼやく廉造に柔造と燐の部屋に近い金造は眉根を寄せて答えた。
 燐はその事実に身体を強張らせ、全身が赤くなっているのではないかと思うほど自分の身体が熱くなるのを感じた。
 なんでこう志摩家の人間はオープンスケベばかりなのだろう。
 これならまだ雪男のムッツリスケベ具合がまだマシだ。
 思わず涙目になってふるふると震え、燐は立ち上がって廊下へと上がると、部屋へとまっすぐ逃げるべく走り出した。
「アホはお前らだ畜生ー!!!」



⇒あとがき
 志摩家の男は皆オープンスケベな気がしてならなかったのでこうなりました。
 エロ魔人は家系だと信じてます。
20110713 カズイ
res

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -