□どうぞこの両腕に

「……なあ志摩」
「なんやの、奥村くん」
 なにやら思いつめた顔でふらりと俺の前に現れた奥村くんに最初は驚いたんやけど、特に何も言わんしとりあえず何言わはるんやろかと思いながら奥村くんの言葉を待った。
 そうして実際はそう時間が経ってないんやけど物凄く時間が経過したように感じた緊張感はたった一言で終わった。
 問い返したら言葉が途切れて、奥村くんは俺を見上げた視線をまた下ろしてしもうた。
 どないしたんやろ、ほんま。
 首を傾げ、奥村くんの顔を覗き込めばぎゅっと強く唇を噛んどった。
 何かを耐えるような顔にぎょっとして思わず奥村くんの肩を掴んだ。
「ちょお、ほんまどないしたん奥村くん」
「あっ」
 弾かれるように顔を上げた奥村くんは困惑した表情で俺の顔をまっすぐに見つめた……かと思ったら勢いよく反らしはった。
 よく見ればサタンの仔の証とでも言うように尖った耳がその先まで綺麗に赤く染まっていた。
 その反応があまりにも分かり易くてある意味予想外だった反応に俺の方がたじろいてしもうた。
「お、奥村くん、なんやのその反応っ」
「はあ!?何の事だよ!つか志摩、お前本当なんなんだよ」
「え?何が?」
 よおわからんのやけどと問えば、奥村くんは眉間に皺を寄せ唇を尖らせる。
 相変わらず視線は合わないままやから地味に傷つくんやけど……
「お前見てるとすげぇむかつく」
「はあ?なんでですの」
「なんでって……んなのわかんねえよ!とりあえずムカつくから一発殴らせろ」
「いやいや堪忍て。奥村くんに殴られたら往生してまうわ」
 それでなくとも幾度となく奥村くんがどれほど強いのか見せつけられとる。
 今更自分の方が強ないとなんて思わへん。ただせめて奥村くんの背中位守れる詠唱騎士になれたらええなくらいや。坊の背中は任したで、子猫さん!
 どうせ俺も奥村くんも男やし、変なとこ拘ったってしゃあないし……
「とりあえず奥村くん、その拳しまってくれへん?」
「……ヤダ」
「ヤダって……」
 可愛えんやけどほんま怖いからやめてくれへんやろか……
「なあ、奥村くん。どない時に俺の事むかつくのん?」
「どんな時って……」
「例えば、俺が出雲ちゃんと一緒に居った時とか……やったり、せえへん?」
「!」
 思い当たったのか、かっと目を見開いた奥村くんに俺の顔が思わずにやける。
 ああほんま可愛い人やな奥村くん。
 今までそんな素振り欠片も見せんかったんにどうして急にとは思わんことはないけど、嫉妬してたやなんてほんま可愛いすぎやで。
「な、何が可笑しいんだよ!」
「別に可笑しくてわろうてるんやのうて、奥村くんが可愛いらしゅうてわろうとるんや」
「はあ!?」
「奥村くん。それな、出雲ちゃんに嫉妬してんねんで」
「出雲に?……なんで」
 心底わからないと言う様子で言った奥村くんに俺は思わず呆れた。
 しもた、奥村くんはお馬鹿さんやからオブラートに包んだらあかんのやった。
「……もうしゃあないな」
 ちょいちょいと手招きをして、人気がないのをわかって居ながらも奥村くんを招いて耳元で内緒話を打ち明けるように小さな声で告げた。
 まあ実際、大きな声では言えへん内緒話なんやけども。
「奥村くん、俺の事好きなんやって」
「……っ!?」
 耳を押さえて反射的に離れて行った奥村くんの顔はいつもの青い炎とは真逆な赤い顔で俺を見た。
 わなわなと肩を揺すり、鯉や金魚のように口をパクパクとさせている。
 ほんま可愛えなあ……
「ああ、ちなみに俺もしえみちゃんや奥村先生に似たような嫉妬してはるから。まあ両思いって奴やね」
「!?!?」
 ああ混乱してはるわ。
「認めてくれはったら奥村くんの事この両腕で迎えてあげますえ」
 俺は両手を広げて奥村くんの答えを待つ。
 ちょっと冗談めかして言うた方がええ。
 自覚出来んで落としにくくなった時に冗談やったって言えるから。
 なんや俺、せこいなあ……
「う〜……」
 お?悩んどる?
 って言うかあんまりこう両手広げたまんまの恰好しとるの、傍から見たら怪しいんやないやろか……
 もう下ろしてしまおうか。
「ふぐっ」
 その時急に身体に何かが体当たりしてきた。
 何かと言わず奥村くんなんやけど……つか、痛いっ。
「……………」
 抱きついてきたかと思ったら、ぎゅうっとそれほど苦しくない程度に抱きしめられる。
 なんや、ちゃんと自覚してくれたんやな。
 そう思うと愛しさが募ってきて、俺は奥村くんの背に手を伸ばした。

 ああほんま、可愛い人やな……奥村くんは。



⇒あとがき
 次男に続いて末っ子×燐です!内緒話っぽく指摘したりとかはっきり好きとか言わなかったりとかが書きたかったんです><
 志摩家の人たちは京都弁が何よりもツボなんですが、京言葉だと「好きどすえ」になるんだと思うんですけど、ついこっちの言葉で「好いとうよ」って打っちゃったり、同じ西日本側だから近い部分もあるんですけどやっぱり難しいですね……
 まあ結局はっきり好きって書かなかったですけどもね!!←
 そのうち四男×燐も書きたいので京都弁精進します!
20110616 カズイ
res

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