□サウダージ6
正門近くでいつも通り練習をした。
奏でるのは『Lascia ch`io pianga』。
笙子ちゃんに教えてもらったから少しは詳しい。でも、歌詞のほうはよくわかってない。
日本語の歌詞は金澤先生にでも聞こうと思ってる。
でも大まかな意味だけは教えてもらった。
意味なんか教えてもらわなくても、私はこの曲は好きだ。
胸の奥の期待が気に入ってるといっている。
きっと、彼には届かないかもしれないけど。
「ブラボー」
面倒くさそうな声が拍手の後に続く。
声のほうを見ると金澤先生が立っていた。
「正門前にいるなんて珍しいですね」
「いや、お前を探しにな」
「私?」
首をかしげていると弓を持った手を引っ張られた。
荷物はヴァイオリンしかないからいいけど、危ないです先生。
「ど、どこに行くんですか?」
「内緒〜」
どこか楽しそうな先生は私の腕を引っ張って音楽室の方向に向かって歩き出す。
コンクール中、一度だけ入ったことのある音楽準備室は結構汚い。
「適当に座ってろ」
先生に指示されてとりあえず、空いているパイプ椅子に座った。
「お前さん、なんで『Lascia ch`io pianga』を演奏したんだ?」
「それは……」
「……なーんてな。俺はお前さんの事情に首を突っ込むきはないさ」
出されたコーヒーをじっと見つめる。
ブラックじゃ飲めないんですけど。
「ほい、砂糖」
そういってスティックの砂糖を手渡されて二本入れた。
どうにか飲めるようになって口をつける。
一度扉を開けて、金澤先生はくつくつと笑った。
「ちょっと待ってろよ」
金澤先生が部屋を出てからのんびりとコーヒーをすすっていると、窓の外に意外なものを見てしまった。
(あ)
木に背を預けて眠っている月森くん。
そのそばに土浦くんが歩み寄る。
柔らかな微笑を浮かべて月森くんの額にキスを落とす。
「うわぁ」
突然月森くんは目を覚ましてトマトみたいに顔を赤くして土浦くんに怒鳴る。
土浦くんは微笑みながら月森くんの頭をなでた。
(こっちが照れちゃうよ)
コーヒーに口をつけて飲む。
二人ともラブラブだよね。お互いのこと、すごく大切にして……、うらやましい。
「日野〜。ちゃんと話せよ」
「はい?」
首をかしげてコーヒーカップを置くと金澤先生の変わりに柚木先輩が入ってきた。
「なん、で……」
思わず逃げるように椅子から立ち上がり、窓際に張り付くように逃げた。
「接点ないよな」
「え?」
「コンクールに参加してた間のお前との接点。恋人と音楽以外なかったって思ったんだよ」
「そう、ですね」
「だから接点を作ろう。もう一度」
柚木先輩が泣きそうに近づいてきて私の体を抱きしめた。
どうしていいかわからずに軽いパニック状態だった私の唇に柚木先輩の唇が降りてくる。
「だ、だめです!」
あわてて柚木先輩から目をそらすためにうつむいた。
「私よりも、彼女のところに行って……」
「彼女?」
「婚約者だって、近づくなって……」
頬の痛みが戻ってきたら、泣けてきた。同情を引くような私を先輩は嫌いますか?
「親が決めたことで、先週婚約は解消した。……お前がいるのに婚約はできない」
語尾は耳元に響いた。
頬に柚木先輩の両手がそっと添えられて顔を上げられた。
そして降りてきたのは一週間ぶりくらいのやさしい口付け。
「兄が助言してくれた。今度家族のみんなにお前を紹介したい」
「先輩」
「それ、やめろよな。名前で呼べ」
「はい。ゆの……ん……」
また口がふさがれた。
今度は乱暴な口付けだった。
「梓馬」
言わなかったらまたするって目が語る。
「あ……、梓馬」
「上出来」
今度は優しい口付けが降りてきた。
⇒あとがき
めたくそ甘か〜!!!(思わず方言(?))
あれれ〜?オールキャラを目指そうとしたのに王崎先輩がいない。
しかも白柚木+やおい。でも最後はちょびっと黒い。
げらげらげら〜、所詮腐女子ってことやなぁ。
ちなみに、『私を泣かせてください』の訳?は、メモがきを利用したので、何を資料に書いたかとんと記憶に……(汗)
あってるかすらあやしい。
20031116 カズイ
20070326 加筆修正