□和解
とりあえずあつかましく家に上がることにして階段を登った。
二階には三つのドアがあったが、ドアに名前の書いたプレートがかかっていたためすぐに分かった。
ドアに手をかけようとすると、本のページを変えるカサリという音が聞こえた。
(誰だ?)
翼がドアをあけると、そこに居たのは見慣れた人物だった。
「し……椎名!?」
木田だった。
翼は驚きすぎてドアノブを持ったまま固まってしまった。
「内藤は?」
「柾輝のところに行ったよ」
「はぁ……内藤と風祭の仕業か」
翼が思ったことと同じことを木田も考えたらしい。
「とりあえず中に入れよ」
「あ、ああ」
木田は立ち上がって翼を部屋へと招きいれた。
翼は開いているスペースに座った。木田もさっきまで座っていたところに座って翼を見た。
「椎名」
「……何?」
なるべく平静に答えた。
「この間……」
「この間?」
「俺と風祭が付き合ってるのかって」
翼は顔をうつむかせて目をそらした。
「違うから」
木田の言葉に目を見開き、顔を上げた。
「付き合ってないよ、風祭と。……好きな人いるし、お互い」
よかったと思った瞬間、奈落の底に突き落とされる。
「だれ?」
再び後悔して下を向く。
下唇をかんで、長い沈黙に目をつむった。
「椎名」
名前を呼ばれて翼は顔を上げた。
目の前には木田の顔。
それが脳に伝わるよりも前に木田の唇が翼の唇を掠めた。
「へ?」
「椎名が好きなんだ」
だんだか情けない木田の顔。
翼も人のことは言えない顔をしていた。
「……俺?」
木田が無言で頷くと、翼は下唇を噛んだ。
「……悪い、気持ち……悪いよな」
翼は首を横に振って木田の首に飛びついた。
「椎名?」
「好きだ」
木田の手が恐る恐る翼の背に触れた。
「マジで?」
「マジだよ、マジで好きだよ、悪いか!」
開き直ったように言う翼に木田の顔がゆっくり笑みに変わる。
大して変わらない笑みに翼の顔は赤くなる。
こんなに近くでその笑顔を見ることができていることが信じられないほど胸を熱くしていた。
「俺、木田が将と歩いてるのみてすごい嫉妬した」
「え?見てたのか?」
「何その反応」
罰の悪そうな木田は翼から目をそらした。
「何隠してんのさ」
「……黒川の……」
「柾輝?」
「誕生日プレゼント。風祭、黒川好きだから」
「マジで!?」
「……同じDFで、椎名たちと違って学校違うから」
「うわ……」
「何かまずかったか?」
「あ、いや……柾輝も将のこと好きだし、問題は……」
「渋沢くらいのものだな」
「はぁ!?」
「じゃなきゃ、監督脅さない」
木田の言葉に翼はぷっと吹き出した。
「たしかに」
額をくっつけて笑いあう。
優しい時間、触れ合う唇。
キスの味は甘く、悲しみの痛みを癒す。
大事な二人だけの愛のクスリ。
⇒あとがき
終わる。っていうか終われ?
20020419 カズイ
20070306 加筆修正