□誤解
上原と桜庭は「将は来ない」といったが、翼に公園の中にいろと必死に説得をしていた。
その理由を問いただそうとすると、顔を青くして、「頼むから何も聞かないでくれ」と懇願した。
(なんなんだっての!)
ちょっぴり(いや、かなり)怒り気味な翼は、公園の中に入ったはいいが、背後から近付く存在に気づかなかった。
「しーいーなっ」
語尾にハートマークでもつけそうな声とともに、いきなり翼の背後から抱きつく存在があった。
「うわっ!」
さすがに驚いた翼は声を上げ、声の主に拳を握り締めた。
「すーぎーはーらー!!」
「こんにちわ、カザくんに呼ばれてきたんだ、僕」
「キャラが違うぞ杉原!」
再び語尾にハートマークをつけてそうな声に翼は怒鳴りあげた。
(あれ?今こいつ……『将によばれてきた』って……)
「これ、カザくんから」
そういって渡されたのは鍵だった。
番号のついた札がついていることから考えると、おそらくコインロッカーの鍵だ。
「鍵?」
「えっと……確かあそこの……」
杉原はここから一番近いデパートの名前を言いながら、そのデパートの方向を指差した。
「あー、なんか玲が持ってる少女漫画に似たようなシーンが……
ちなみに有名な某秋吉家シリーズである。(分かる人は分かるはず)
「監督って少女漫画読むんだね。なんだかとんでもなく意外」
「そうか?一応女なんだから見ても悪くはないだろう?」
「それもそうだね。昨今、男が少女漫画を集めたりするなんてよくある話だし」
「いや、“よく”はないだろう」
カズイの周りはそんなのばっかりだよ。
知るか!
「まあ、がんばって探してよ」
「なにを?」
「次の指令。僕も手伝ったんだ」
なんだかノリノリの杉原の言葉に更なる不安を覚えた翼は杉原を引き止めようとしたが、それよりも早く杉原は走ってその場から逃げ出していた。
(とりあえず帰ったところで何もすることはないし)
「……行くか」
仕方ないとばかりに翼の足はデパートへと動き出した。
* * *
最初のデパートをあわせて店系三つ、駅五つ。
そして今はスポーツジムの前にいた。
「いったい何個探させる気だ!」
怒鳴ったところでしょうがない。
翼はあきらめてジムの中に入り、鍵をあける。
ロッカーの中にあったのは四つに折られた紙だった。今までと違い、鍵はない。
「よっしゃ、これで最後か?」
翼は紙を開き文字を読む。
そこに書かれていたのはどこかの誰かの家の住所。
「誰の家だよ」
黒く塗りつぶされた場所に矢印を引いて「ココv」と書いてあった。
思わず破りそうになったが、そこで思いとどまり、翼はスポーツジムを後にした。
どこかで見たことのある住所だと思ったからだ。
* * *
地図の通り電車に載った翼がたどり着いたのは、確かに見たことのある住所の家だった。
内藤。
表札にはそう書いてあった。
当たり前だ。名簿に内藤の住所は載っているが、紙に書かれた住所が内藤の家だとどこをどうしたら結びつくというのだろう。
翼は躊躇いがちに呼び鈴を押した。
しばらくして内藤が出てくる。
「あ……本当に来た」
「帰ってやろうか?このやろう」
「まぁまぁ、ちょっと待ってろよ」
「なんで」
「いいから」
ちょっと楽しそうな内藤が翼に笑いながら背を向けた。
翼はため息を吐きながらも、とりあえず待つことにした。
二階に慌ててかけていった内藤は財布だけを持って降りてきた。
「勝手に二階に上がってくれ」
「どこ行くんだよ」
靴を履きだした内藤に翼は首をかしげた。
「黒川んとこ」
「なんで……」
「うち、今両親旅行中なんだ。俺、一時間くらい戻らないからくつろいでけ」
「はあ?」
そう言い残した内藤は玄関を出て行ってしまった。
⇒あとがき
だから、でてくるキャラは趣味ですってば(笑)
20020419 カズイ
20070306 加筆修正