□電話
次の日、将から翼へ電話があった。
『あ、風祭ですけど』
電話を取ったのは幸いなことに玲だった。
これが翼だったらもしかしたら切っていたかもしれない。
「あら、風祭くん。翼に用事かしら」
同じリビングで雑誌を読んでいた翼はぴくりと将の名前に反応した。
『はい……て、え?監督!?』
「ちょっと待ってて。翼、風祭くんから電話よ!」
「将?」
玲は翼に向けて受話器を差し出す。
翼は仕方なく雑誌を机の上に放り投げ、玲から受話器を受け取った。
「将、何?なんか用?」
『あ、その……』
「何?」
『土曜日って飛葉中練習ありますか?』
「はぁ?……ないけど?」
カレンダーをちらっと見ながら返事をすると、受話器の向こうからため息が届いた。
「練習なかったらなんかまずいの?」
『いえ、そういう意味のため息じゃなくて……』
「じゃあなに?」
『えっとー……その日空けておいてもらえますか?』
「なんでさ」
『試合に付き合ってほしいんです』
「試合ぃ?」
『はい、えっと……その……僕と天城、勝負をすることにしたんです』
「なんでまた」
『……気持ちの整理、ってところですかね……』
「ふーん。で?」
『で?』
「なんで俺な訳?」
『翼さんが暇なら黒川くんと畑くんがついてきますから』
邪気のない言葉。
「……俺たちは郭たちと同レベルなわけ?」
いやみのような言葉に口を閉ざす。
言ってしまった言葉は取り返しがつかないのにと翼は内心ため息をつく。
『あ!すいません』
それでもずれた答えの将。
(将は将だよな)
「いいよ。それよりGKは?」
『不破くんに頼もうとしたんですけど、用事があるみたいで……だから渋沢さんにだめもとで頼んでみようかと……』
「何時からどこで?」
『えっと、午後の二時くらいに。場所はまだ……』
「わかった。ちょっと待ってろよ」
受話器を塞ぐのではなく保留にしてさっきまで自分が読んでいた雑誌に目を通していた玲に声を掛ける。「玲」
「なあに?」
「土曜に飛葉中(うち)のグランド、選抜が借りても平気?」
「なにをするの?」
「将と天城の試合」
「許可なら任せなさい。好きなようにするといいわ」
玲の言葉を聞いて再びボタンを押す。
「将?」
『あ、はい』
「場所は飛葉中決定。黒川たちにはお前から一応連絡しろよ。俺、一応引退してるわけだからさ」
『そうでしたね、わかりました』
「じゃ」
そういってすぐに翼は電話を切った。
翼が柾輝に電話しないのは、しょうが柾輝に電話をするように気を使ってのことだ。
「風祭くんと喧嘩でもしたの?」
電話を睨んでいると、玲がふとそう言った。
「別に」
「そう。ならいいけど、早く仲直りしなさいよ」
(喧嘩してるって決定?)
翼はため息をつきながら、玲が集中し始めてしまった雑誌をあきらめて、自分の部屋へと戻った。
* * *
そのまた次の日、柾輝と六助は翼に呼び出されて、翼の家にいた。
今ちょうど、最後の水野に電話し終わったところだ。
「はぁ……後は土曜日を待つだけだね」
「悪魔だな」
「そういうこというんだ、柾輝は」
「なんだよ」
「誰のお陰で愛しの君と話せたんだっけ〜?」
「……スミマセンデシタ」
素直に謝る柾輝にけたけたと笑いながら翼はピザを取った。
「そう言えば、よく偶然休みになったよなぁ、武蔵森」
六助の言葉にそういえばと疑問を抱く。
しかし、それは少し考えればとても簡単な答えだった。
(監督脅したな。渋沢が)
まったくもってそうなのだが。
柾輝も六助も同じ考えをしながら、苦笑いをしていた。
とにもかくにも、土曜日が待ち遠しくなった翼である。
⇒あとがき
玲さんが大好きです(照)
20020414 カズイ
20070306 加筆修正