□失恋

 俺は失恋したらしい。ついさっき、木田に。
 同じ選抜の、同じポジジョン。ライバルだけど……好き。
 この好きは恋愛感情としての好き。決して友情などの好きではない。
「男同士じゃん」
 そう柾輝にも言われた。
「まぁ、翼本人のことだし、俺がどうこう言う気はないよ。それに木田、いいやつだし」
 そうつけたして。
 柾輝にしてみれば、自分に関係なければオッケイということだろうか。
(俺って意外と馬鹿だ)
 あの時の柾輝の目はどこか遠くを見ていた。
 気付かなかったあの時、柾輝の心を占めていたもの。
 さっき、自分が振られた相手と一緒にいた少年。
『風祭将』
 知らなかった。

  *  *  *

 時間を遡ること数分前。
 趣味でもある映画館のはしごの途中、翼は木田を見つけた。
 翼は映画館のはしごの途中であったが、なんとなくその後をおいかけた。
 翼と違い背の高い木田の隣には、小さな子がいた。翼と同じくらいの。
 二人は丁度喫茶店に入っていくところだった。
 小さい子というのはもちろん将のことだ。
 将が「早く」等といいながら先に入ろうとする。
 木田はそんな将に笑顔を向けている。
 しばらくそのままボケッとたっていた翼は窓際に座った二人が笑顔で話しているのを見て思った。
(付き合ってたんだ)
 知らなかった。でも、付き合ってなかったら木田もあんな笑顔は見せてないよな。
 翼はそのまま二人を見ているのが辛くてその場から走り去った。

  *  *  *

 そして今に至る。
「はぁ……やだやだ」
「何が?」
 突然翼の前に現れたのは同じ都選抜の真田一馬。
 太陽の光を背に受けていたのもあって、まったく気付かなかった。
「あれ、一人?郭とか若菜は?」
「ここで待ち合わせ。それぞればらばらに見たいものもあったし」
「ふぅん。座れば」
「言われなくとも座る」
 人当たりのよさそうな笑みを浮かべる一馬は、翼から少し離れているところに座る。
「……………」
「……………」
 お互い何も喋らない。
 気がつくと翼のほうが先に口を開いた。
「真田って好きな子いるの?」
「えぇ!?」
「好きな子。いないの?」
「……い……いる」
「片想い?両想い?」
「両想い!……たぶん」
 ついつい素直に答えてしまう一馬に、いつもなら「なにマジで答えてんの」という言葉が飛ぶところだが、今の翼はそ

れを口にすることはなかった。
「いいな。セックスとかもやっちゃったりしてんの?」
「何でそこまで答えなきゃ……」
 翼の方をやっと見た一馬は、静かに涙を流す翼を見た。
 いつもお姫様みたいに見られている翼が、いまだけ一馬にはかっこよく見えた気がした。
「あー!!一馬が椎名泣かしてる!!!」
「え!俺!?」
 CDが入っていそうな袋を右手に結人が二人を目指して走ってくる。
 翼は自分が泣いていたことに気付き、あわてて服の袖でこすった。
「だめだろーが、一馬」
「え……ちがっ……」
「真田は悪くないよ。偶然いただけ」
 翼は拭いても拭いても溢れてくる涙をごしごしと拭った。
「目、痛めたいの?」
「「英士」」
 いつの間に来たのか、翼は気がつかなかった。
「郭……」
「濡らしてきたから」
 英士は翼の腕をのけて、濡れたハンカチで目をそっと拭う。
「冷たい」
「そのまま目にあてとけば」
「……サンキュ」
 翼はハンカチを目に当てたまま小声で言った。
「なんかあった?」
 英士は聞いていいものかと思いつつ聞いた。
「振られた。失恋だよ失恋」
 翼はさらりといった。
「え、まじ?」
「まじ。ここに来る前に」
「どんな子?」
「ちょっと結人」
 英士が結人を睨む。
「別に、ヒントくらいでよければ。若菜たちも知ってる人」
「だれそれ」
 結人はまったく気付いていない。
 さっき話していた一馬と、勘のいい英士は気付いたようだ。
「もしかして……」
 確認のため聞こうとする一馬を英士が止めた。
 結人は考えていて聞く耳なし。
「結人、一馬。先に家に行ってて」
「え〜!」
「帰ろうぜ、結人」
 一馬は不満タラタラな結人を無理矢理連れて、公園を後にした。



⇒あとがき
 原文は削除してたけど、メモ書きがあったので、そこから復活しました。
 うーん、古い。
20020413 カズイ
20070306 加筆修正
res

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