□日向と日陰

※死ネタ

 薄桃色のふわふわした髪を靡かせて、柔らかく微笑む。
 半分血の繋がった妹―――ユーフェミア・リ・ブリタニア。
 同じ年の妹は誰にでも優しく、自分に優しい世界しか知らなかった。
 別に彼女はそれでかまわないと思った。
 いつも笑顔で微笑んでいてくれることが俺の心を安らがせてくれていたから。

「ルルーシュ!」

 嬉しそうに俺の名を呼ぶ。
 あの声が優しい声が忘れられない。

 同じブリタニア皇帝の血を引きながら、俺と彼女はあまりにも違いすぎた。
 彼女は陽の当たる暖かく優しい道を歩き、
 俺は暗く血肉争う険しい道を歩かされている。

 ああ、何故こんなにも違うのだろう。
 違わなければ、彼女は―――


「ルルーシュ、私ルルーシュが好きです」
「ありがとう、ユフィ。僕もユフィ好きだよ」
「違うのルルーシュ。私は……」
 帽子で顔を隠し、ユフィは俺の耳に囁く振りをした。

―――ちゅっ

 こっそりと重なった唇に、俺は目を見開いた。
 遠く離れた場所で母とお茶を楽しむあなたの姉に聞かれたらどうしてくれる。
 彼女はきっと俺とお前を引き裂くだろう。
 君が望もうと望むまいと。
「ユフィ、僕は……」
「おにいさま!ユフィねえさま!」
 ぱたぱたとナナリーが小さな花束を抱えて戻ってきた。
「ナナリー走ったら危ない!」
 俺は咄嗟に立ち上がり、ナナリーの元へと走った。



 君は日向で、私は日陰。
 それでいいじゃないか。

 だからっ……


「……ねえ、ゼロ。私と一緒に日本人を皆殺しにしましょう」

 笑顔で両手を広げる。
 優しい笑みを称える。
 その手には凶器

「銃を下ろせ、ユーフェミア・リ・ブリタニア」

 俺の手にも凶器

「やめて、その名で呼ばないで!」
 いやいやと首を横に振り、ダダを捏ねる。
 子どものように。
「昔みたいにユフィって呼んで。スザクではなく、あなたのその口で!」
 無抵抗に俺に歩み寄る。

「ユフィ!」

 俺たちの傍へと降り立ったランスロット。
 そのディバイサーはスザク。
「騎士さまのご到着だな」
 ナナリーの想いを裏切ったスザク。
 スザクは―――
「っ!?」
「ユフィを離せ!」
「スザク……そうだわ、スザクも日本人でしたわ」
「やめろ!」
 俺は慌ててユフィを取り押さえた。
「何故邪魔をするんですか!?スザクを殺せばあなたは私のものなのでしょう!?」
「違うっ」
「あなたの邪魔になるものはすべて私が殺すわ。……違うわ、ブリタニア人は殺さなくてもいいんだわ。殺すのは日本人だけ」
「やめろぉぉ!!」
 スザクを撃とうとした銃を逸らさせた。
 そのお陰か、スザクの身体能力の高さからか、スザクは銃撃をかわし、こちらを見る。
「っ!?……ユフィ、どうして!」
 信じられないと言う顔。
 信じられないのは俺の方だよ、スザク。
 どうしてこの左目は俺を―――彼女も孤独にした。
 日向に居るべき彼女を日陰に導いたのは俺じゃない。
 お前だ、スザク。
 だけど―――お前は俺の大切な友達。
「だってあなたは日本人だもの。ねぇ、ゼロ」
「スザクはブリタニア人だ。だからっ……殺さないで」
 ユフィは銃を持ったまま俺に縋りついた。
「違うわ、あれは日本人。あなたのために殺さなきゃ」
「ゼロ!!!」
 カレンの声が聞こえた。
「来るな!!」
「あら、あなたは……ブリタニア人?」
「私は……」
「黙れカレン!!」
 カレンの言葉を遮り、俺はユフィを離した。
「どうして?ゼロ……ゼロはあの子をとるの!?私ではなくあの子を!」
 ユフィは銃をカレンに向ける。
「やめろ!……もうやめてくれ……ユフィ」
 これ以上、君の綺麗な手を汚さないで。
 だから、
 優しく
 昔のように
 笑みを浮かべてみた。
 けれど浮かぶのは涙だけ。
「ユフィ」
 それでも、
 優しく
 君の名を呼んだ。
「ユフィ……君にはスザクがいるだろう?大事な騎士が」
「あれはあなたのためです。彼が居ればあなたは私を見てくれる。私はあなたと結ばれたいのです。それが嘘偽りない私の想いです!どうして答えてくださらないの!?」
「ユフィ」
「お願い、私はずっとあなただけを愛しているのです。あの口付けはその証!誰に反対されようとも私はあなたが好きです」
「ユフィ、俺は……」

 嗚呼、これはあの日の繰り返しか?
 答えなかった俺への罰か?

「俺も……君が好きだよ」

「嬉しいっ!」
 銃を捨て、ユフィが俺に抱きついてきた。


「だから……おやすみ?」


―――パーンッ

 乾いたあっけない音。

「……る、しゅ?」

 心臓はとても小さい。
 銃を一発。
 入るのは簡単。
 炸裂したら終わり。

 崩れ落ちる身体を、俺は抱きとめた。
 すまない、ユフィ。
 俺にはこうすることしか出来ないんだ。
 黒の騎士団のリーダー。
 ブリタニアに歯向かう破壊者。
 けど、俺は破壊者である前に無力な人間なんだ。
 大切な女の子一人守れやしない。
 愛した女一人、まともに愛せない。

「る、る……しゅ」

 それでも君は微笑みかけてくれるのか?
 日向を生きた君だから―――


 ユフィの手が、俺の仮面に掛る。
―――シュ
 軽い音を立てて、仮面が外れる。
「なか、ない……で?」
「ユフィ……」
 血に濡れた白い手が、俺の頬を撫でる。
「だい、きな……る、るーしゅ……」
「ごめんっ……ごめん……」
 謝ることしか出来なくて、それでも口にするしか出来なくて……
「さいごの……ねが、い」
「ああ……聞くよ。なんだって。だから言ってごらん?」
「き、す……して」
 ごほっと咳をすると、口から血が溢れ出す。
 ああ、これ以上喋らないで。
「ユフィ」
「る、る」
 唇をそっと重ねた。
「愛してるよ、ユフィ」
「うれ、し……」
 一筋の涙が、ユフィの目尻を落ちていった。


 それが最後。


 生きることを終えた亡骸を抱きかかえたまま、俺は顔を上げた。
「……ルルーシュ、どうして君が……それに君たちは……」
 困惑したままのスザクが、銃口をこちらに向けていた。
 違う場所で、カレンが口を押さえて立っていた。
「おまえたちは……一度使っていたな」
 左目を押さえて隠す必要などない。
「ゼロ……その目は……」
 紅く染まった左目。
「罪の証さ」
 そっとユフィの前髪を上げ、唇を落とした。
「そしてこれが血の繋がった妹を愛した男と、血の繋がった兄を愛した女の……悲劇の結末!」
 嗚呼、俺たちは狂っている。
「滑稽じゃないか?スザク!」
「うそだ……ユフィが……」
「事実見ていただろう?ユフィは俺を愛し、俺はユフィを愛していた。血が繋がっているのに!!」
「う……うわぁぁぁぁぁ!!!」
 スザクの悲鳴。
 俺は再び仮面をつけユフィの身体を抱き上げた。

 嗚呼、少しずつ失われていく。
 君が生きた温もり。

 ガウェインに歩み寄った。
「カレン」
「行こう。―――ブリタニアをぶっ壊しに」
「……はい!」
 僅かな躊躇いの後、迷いない返事を返した。
『血塗れを中に入れるな。手に乗れ、手に』
「わかったよ」
 肩を竦め、ガウェインの手に乗った。

 遠くの空が、眩しいほど輝いていた。
「ユフィ……見て、君みたいだよ」


 返事に必要だったのは、綺麗な光を日陰へ誘うほんの少しの勇気。



⇒あとがき
 ルルーシュとユーフェミアの純愛を描きたかったのですが……悲恋になってしまいました。
 しかもちょっと残虐で、スザクをちゃっかり懲らしめたり、ゼロバレしてみたり。
 もう何がなんだか自分でもよく……途中で泣いて手を休めたのでさらにわけがわかんない状態です。私。
 ちなみに執筆中のBGMはALI PROJECTの『鎮魂頌』。ギアスの挿入歌かなんかだったはず。
20070420 カズイ
res

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