□大人の嫉妬

 藤堂鏡志朗。37歳。
 四十路も近いこの日本男児、いやむしろ侍を体現したような寡黙な男にはとても美しい恋人が居た。
 日本人よりも美しい黒髪に紫苑の双眸を添えた色の白い肌。
 所謂白人と言う人種であるところのその人物はブリタニア人であり、少年であった。
 しかも藤堂よりも20歳は年下の17歳。現役高校生である。
 ブリタニアの属領となってしまったエリア11を日本にと戦ってきた藤堂と少年の接点は当然のようにテロだった。
 その美しい容姿を隙間なく隠した"ゼロ"の装いから藤堂は偶然にも彼がゼロだと知った。
 元々そんなに付き合いはなかったとはいえ少年は幼いころから美しかった。
 藤堂は当然のように彼を一目見たときに心奪われ、彼を忘れた日はなかった。
 再会してからは藤堂らしからぬほどに彼に対して愛を語りようやく付き合うことが出来たような状態である。
 だと言うのに目の前の光景は一体何なのだ!
 藤堂は表面上は一切変化なく、心の中で静かに憤っていた。

「でね、その時千葉さんが……」
「おい待て朝比奈!それ以上言うなよ!」
「えー?ルルちゃんも聞きたいよね?」
「まぁ、そこまで言われれば気になりますね」
「だよねー」
「観念せんか千葉」
「そうそう。かっこよかったじゃねぇか」
「私だって一応女なんですよ!?」
「一応なんて、自分で言った時点でお終いだと思いますよ」
「ルルっ」
「はは、ルルちゃんに言われてるー」
 実に楽しそうに語り合う恋人と部下の姿。
 口数の少ない自分だけがどうしても蚊帳の外になっていた。
 ルルーシュが藤堂の恋人になった時点で、四聖剣にはその存在を明かした。
 だがルルーシュ・ランペルージとしてだけ話をするつもりが、気づけばCCの所為でルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった事まで四聖剣は知った。
 自分だけが知っていればいいと思っていたことをペラペラと喋るCCにルルーシュは慣れたのかすぐに諦め、四聖剣の言葉を待った。
 藤堂を敬愛する四聖剣にとって、藤堂の恋人が少年であることは許せてもブリタニアの皇子であることは許せないだろうとどんな言葉も受ける覚悟をしていた。
 だと言うのに四人ともがルルーシュの苦労を当然のようによく頑張った、これからは俺たちも守ると決意してくれた。
 認めてくれたのは嬉しいのだが、こうも仲が良すぎるのも切ないものがある。
 藤堂は僅かに視線を下げ、歓談を邪魔しないよう小さく息を吐くように溜息を吐いた。
「それで省吾さん、結局凪沙さんはそのあとどうしたんですか?」
「俺や卜部さんよりも早く猪に向かって行ったんだよ」
「あの時の千葉はかっこよかったぞ」
「それはそれは……」
「くっ、そんな目で見るな!ルルーシュ」
「でもそんな凪沙さんを尊敬しますよ。俺、平均より下ですし」
「見た感じそうだな」
「近くに体力馬鹿がいるからまた余計に下に見られるのがものすごく癪ですけどね」
「体力馬鹿って、ああ、あいつか」
「それ以外に体力馬鹿居ます?」
「いないわな」
「でしょう?巧雪さんや駿河さんみたいに俺にペースあわせてくれるから俺は感謝してますよ」
 にこっと微笑むルルーシュ。
 藤堂はただ静かにぐっと拳を握りしめた。
 部下相手に怒ってはいけない。
 いくら未だ自分は藤堂さん呼びで四聖剣が名前呼びだろうと嫉妬してはいけない。
「ん?藤堂さん、どうかしました」
「……何でもないっ」
 絞り出すようにそう答えた藤堂の眉間は明らかに先ほどよりも皺の数が増えていた。
「そうですか。で、その猪はどうなったんですか?」
「千葉が見事に伸してくれたからな、俺が捌いて皆で食ったな」
「あ、やっぱり食べたんですね」
「おいしかったよ♪」
 自分は大人。
 自分は大人。
 自分は……

「なんだまだ居たのかお前ら」

「あ、CC。お邪魔してまーす」
「ちょうどいい。藤堂、ラクシャータが呼んでいたぞ。この私がわざわざ伝言してやったんだ。感謝しろよ」
「……む」
 鈍い反応を返し、藤堂はふらりと立ち上がる。
 自分は大人と何度も心の中で繰り返しながらとても普段の藤堂らしからぬふらふらとした足取りで部屋を出ていく。
「お前、本当趣味が悪いな」
「そうか?」
 くすりと先ほどまでの柔らかな笑みではなく、ゼロらしい冷やかな笑みを浮かべるルルーシュに四聖剣は苦笑を浮かべた。
「あのぐるぐるした感じが可愛いなんて本当理解できねぇぜ」
「うーん、でも俺は可愛いとは思うけど?」
「理解できるのはお前だけだ、朝比奈」
「良い大人が嫉妬してるくせにぐるぐる考え込む姿は良いものだ。そうだよな、朝比奈」
「うん」
「それを趣味が悪いと言うんだ」
「名前呼びも四聖剣とだけ仲良くするのもそろそろ飽きてきたし今度はカレンでも巻き込むか……」
 CCの言葉を無視し、ぶつぶつと呟くルルーシュ。
 藤堂はまだ気づいていないが、確実に性質はSだった。
(((がんばれ、藤堂さん)))
 乗り気の朝比奈と違い、千葉と卜部と仙波は静かに純粋にルルーシュを想い、大事にしようとして裏目に出ている藤堂を同情した。

「よし、今度こそ泣かすぞ!」
「おー!」
「だから判りあうな、お前たち」
 ぐったりと本日一番の被害者のはずの千葉がそう突っ込んだ。



⇒あとがき
 大人の嫉妬と書いてヘタレの嫉妬と読みましょう。←
 藤堂のやきもちや嫉妬したりする姿はリクエスト通りだとしてもこんなヘタレな藤堂さん誰も待ってないぜ☆
 ……うん、でも楽しかった。どうしようv
 明らかに某プルプルしてるTさんを可愛いと感じるルルーシュの影響が出てますね!←黙れ
20090713 カズイ
※本館のリクエスト
res

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