□スキンシップ

 この朝比奈と言う男は藤堂以外どうでもいいと思っているんだろう。
 もちろん、同じく藤堂を慕うものとして四聖剣の仲間とは仲良くしているところは見る。
 だが他の団員と親しくしているようであまり親しくしていないように見える。

 そう、思っていた。

「ゼロってさぁ、腰細いよね」
 ぼそっと作戦会議が終わり立ち上がったゼロに朝比奈はそう言った。
 思わぬ一言にゼロは一瞬身構えたが、そう言えば朝比奈は思ったことを躊躇いなく言う無神経なところがあることを思い出した。
 そうだ、だから藤堂以外どうでもいいと思っているんだろうとより思わされたのだ。
「それがどうした」
「え、そこはなんだ突然って来ると思ってたんだけど」
「残念だったな、朝比奈。その台詞は昨日玉城が口にして紅月に殴られていた台詞だ」
「えー?そうだったんだ」
 ぽん、と肩に手を置いた千葉に対し、朝比奈は喜色を孕んだ声を上げた。
 意味がわからない。
 ルルーシュはゼロの仮面の下で眉間に皺を寄せた。
「……見たかったのか?」
「もちろん!」
 千葉が呆れたように溜息を吐いた。
「なんて言うかさー、女の子みたいだよね。ゼロの腰の細さって」
「いくら朝比奈さんと言えど殴りますよ?」
 昨日の玉城のおかげでどうにか動揺せずにいれた。
 だがあまり生きた心地はしない。
 ルルーシュは事実男ではなく女であり、年端もいかない少女である。
 カレンが朝比奈に拳を振り上げる様を見て思わず溜息が出た。
「……ゼロ?」
「いや、なんでもない」
 気遣うように扇が声を掛けてくるのを手で制したが、再び溜息が出た。
 これは溜息が零れたことに対しての溜息だ。
「なんだなんだ辛気臭ぇ溜息吐いて」
「玉城、あんた反省が足りなかったみたいね!」
 べたべたと触れてくる玉城にカレンの拳が問答無用で飛んだ。
「カレン、何もそこまで怒らなくても……」
「だってゼロに対して慣れ慣れしいんだもん!」
「別にこれくらい大したことじゃないだろう」
「え?」
「何?ゼロ、表じゃもっとべたべたしてくる人がいるの?」
 興味津津と言うように井上が問うてくる言葉に、ルルーシュの脳裏には一人の少女が過る。
 背後から現れては人の胸を鷲掴みしたり尻を撫でたりする金髪の生徒会長―――ミレイ。
「ちょっと黙らないで、すごく気になるじゃない」
「ああ、すまない。幼いころから彼女はああだったなとふと思い出して」
「何々幼馴染!?」
「……そんなところだ」
「実は彼女とか!?」
「まさか。ありないな」
「なーんだ。……よかったわね、カレン」
「ちょっ、井上さん!」
「何がいいんだ?」
「もーゼロったら鈍いのねぇ!そこは男なら察しなきゃ!」
 一体何を、とルルーシュは眉間の皺を増やした。
「ちょっと……本当に天然なの?ゼロって」
 井上が顔を赤らめる。
「だから何がだ」
「何って言うかイメージ変わった、かな」
 杉山も苦笑する。
 ルルーシュは意味がわからずとうとういつものようにこてっと首を傾げてしまった。
「仮面が首かしげると不気味っ」
「え?可愛いですよ」
「うんうん」
「お前らがおかしいんだよ」
 表情を引きらせる南に対し、朝比奈とカレンはゼロのいつもと違う動作に感動を覚えているらしい。
 仮面の―――しかも男だと思っているはずの人間が小首を傾げた姿の何が可愛いんだ。
 ルルーシュは南と同じ意見だった。
「ああ、それにしても本当腰細いよね」
 何故そこに戻った!とルルーシュは思わずびくりとしてしまった。
 ただ言葉を口にしたからではない。
 朝比奈は断りもなくルルーシュの腰に手を置いたのだ。
「ん?あれ?これって」
「朝比奈!」
 ルルーシュは朝比奈の口を両手で塞ぎ、ああやってしまったと思った。
 朝比奈は眼鏡の奥の瞳を丸くし、目の前のゼロを凝視している。
「……場所を変える。話はそれからだ」
 口を塞がれたために声を発せられない朝比奈はこくりと頷き、周りの気になると言う視線を無視してルルーシュは歩き出した。
 朝比奈は一応口を閉ざしたまま後をついてくる。
 それに少しほっとしながらルルーシュはゼロの部屋へと急いだ。


「なんだルルーシュ、遅かったな」
「お前はまたピザを食い散らかして……」
 部屋に充満するピザの匂いだけでも部屋を開けた瞬間に勘弁してくれと思ったが、散らかったピザの箱や食べかけのピザやらにルルーシュは眩暈を覚えた。
「ん?何故その男が居る」
「この馬鹿がいきなり人の腰を触って来たんだ」
「……お前が気にしている場所を躊躇なく掴む姿が容易に浮かんだぞ」
「だろうな」
 溜息を吐き、ルルーシュはゼロの椅子に座った。
「適当に座れ」
「あ、うん」
 流石の惨状に戸惑っているらしい朝比奈はピザの箱を除けてソファに座った。
「えっと、ゼロ、さっきの感触ってタオルかなにか……だよね?」
「そうだ」
「あれで誤魔化してる状態ってどんだけ細いの!?」
「で、結局そこに着地するのか、お前は!」
「だってさーずーっと気になってたんだよ。腰ほっそいなぁって!」
「お前の苦労も所詮無駄だったということだ」
「くっ」
「だから言っただろう。着物なら帯で誤魔化せるが、ゼロの衣装では意味がないと」
 呆れたようにCCはチーズ君を抱えながらピザを口に含む。
「昔はそれで済んだんだ」
「あれ?ゼロって日本人じゃないんだよね」
「8年前からずっと日本に居たからな。日本の知識もある程度ある」
「日本人以上に日本のことに詳しいくせによく言う」
「黙れCC」
 鼻で笑ったCCを仮面越しに睨んだ。
「それだけ腰細いんだから男の子じゃないよね」
「え、あ……」
「女の子かぁ。そうかそうかー」
 答えていないと言うのに自己完結した朝比奈は納得とばかりにうんうんと首を頷かせた。
「よかった俺ホモじゃなくて」
「は?」
「ねぇゼロ。恋人いるの?」
「あ、いや、いない、が……?」
「よっしゃ!じゃあ俺ゼロの彼氏に立候補するよ!」
「ほえあ!?」
「……ぷっ」
 ルルーシュは混乱して奇声を上げ、なんとなく予感はしていたが二人の様にCCは視線を逸らして噴出した。
「こここ恋人だと!?」
「えー?だめー?」
 先ほど団員達の前でうっかりルルーシュがした小首を傾げる動作を朝比奈は行った。
 一般男性が行うそれは決して可愛いと呼べるものではない。
 ……はずなのだが、ルルーシュは何故か鼓動が早まるのを感じた。
「うっ」
 きゅんと言う感覚にルルーシュは覚えがある。
 例えば最愛の妹ナナリーにお願いをされた時。いや、これはうざったいほどにルルーシュを構っていたクロヴィスが涙目になりながら小首を傾げてルルーシュに駄目だろうかと食い下がってねだって来た時に似ている。
 所謂庇護欲を掻き立てられた感じなのだ。
「……だめ?」
「ううっ」
 クロヴィスは当時の年齢であったから許されたのであって目の前の男は間違いなく成人男性だ。
 何故庇護欲など掻き立てられねばならないのだ!
「諦めろルルーシュ。それは庇護欲じゃなくて母性本能だ。女の性は時に素直に信じてみるのもありだぞ」
「CC、お前他人事だと思ってっ」
「事実他人事だ。それに朝比奈は立候補しただけだろう?お試し期間でも設けてみればいいじゃないか」
「CC良い考え!ね、ゼロ、そうしよう?」
「ううっ」
 期待に満ちた眼差しを向けられ、もうルルーシュは首を縦に振るしか出来なかった。
「……わかった、まず二週間だ。それで決める」
 自分も混乱しているのがよくわかっているルルーシュは期間を提示した。
 混乱も落ち着けば朝比奈と言う人間が見えてくるかもしれない。
「じゃあまずは自己紹介からしようよ」
「は?」
「俺は朝比奈省吾。君は?」
「ゼロだ」
「二人っきりの時くらいは名前呼びたいなー」
「あー……ちっ、ルルーシュだ」
「うん。それだけでも十分だよ」
 満面の笑みを浮かべた朝比奈は本当に今はそれだけで十分らしく、ルルーシュからゼロの仮面を奪うこともせずただぎゅっと手を握った。
 それにどこかほっとしたルルーシュは明らかな隙を生んでいた。
「えいっ」
「ひゃ!?」
「……やっぱ細いや」
「朝比奈ー!!」
「ごっめーん♪」
 怒って暴れようとしたルルーシュの身体をそのまま抱きしめ、朝比奈はくすくすと笑った。
 誰かに抱きしめられると言うことはこんなに温かかっただろうか。
 ルルーシュは思わず目を細め暴れるのをやめた。
 そっと朝比奈の背に手を回してみると胸が温かくなってなんだか涙が出そうになった。
 二週間で依存してしまったらどうしようと一瞬不安が過ったが、今は忘れようと目を閉じた。

「……どうでもいいがお前ら私がいるのを忘れるなよ」
「「あ」」



⇒あとがき
 ひぃっ、大変長らくお待たせいたしました。
 最後とか仮面外してないからビジュアル的には最悪で……もう本当ごめんなさいっ。
 朝比奈はお茶目さん路線が大好きでそれを半ルルーシュ視点で見つつ話を書くのはとても楽しかったです。
 リクエスト(※)ありがとうございました!
20090701 カズイ
※本館のリクエスト
res

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