□其れは宛ら

『これで終わりだ、コーネリア!』
『後ろからだと!?』
 愉快そうな声音。
 姫様に向かうスラッシュハーケンがスローモーションに見えた。
『何!?』
『ギルフォード!?』
「背後から突然狙う等、卑怯極まりない行為!許さぬぞ、ゼロ!!」
 ランスによってそれを弾き、私は姫様とゼロの間に立った。
『……騎士、ギルフォードか』
 舌打ちが聞こえてくる忌々しい声音。
 私は姫様の騎士である以上、姫様をお守りするのは当然の行動。
 だがこの違和感はまるで……
「待て、ゼロ!!」
 撤退しようとするゼロのKMFを目で追いながら、私は自分の胸に問うた。
『我が騎士ギルフォードよ、深追いはしなくていい』
「……承知しております」
 姫様に声を掛けられ、私は胸を押さえた。
 深追いをするつもりはなかった。
 ただ、その正体を知りたかった。
 たった一言から浮かんだあの方なのではないかと思った私の考えを肯定してほしくて―――

  *  *  *

「では、ひとまず今回の会議はこれまでだ」
 ゼロがそう会議をまとめ、作戦の詳細を決めるために残る藤堂と扇以外は腰を上げようとしていた。
―――PiPiPi
 不意に誰かの携帯の音が響く。
「失礼」
 そう言って携帯を取り出したのはゼロを除けば幹部唯一のブリタニア人であるディートハルトだった。
 番号を確認するとそのまま通話のボタンを押した。
「どうした」
 恐らく相手は表の顔の関係者ではなく団員か何かだろう。
「……何!?」
 若干不機嫌そうだった顔が、驚きに変わる。
「わかった。そのまま監視を続けろ」
「……どうした」
「ゼロ……少しお伝えしたいことが」
 言葉通り通話を一度切ったディートハルトにゼロが声を掛けると、ディートハルトは少し迷ってそう言った。
 その言葉にディートハルトをあまり信用していない面々―――特にカレン等―――はディートハルトを見ると言うより睨んでいるようだった。
「なんだ」
「その……」
 その視線の意味に気づくことのないゼロに苦笑も覚えながらも、ディートハルトはちらりと周りを見回す。
「悪いが皆席を外して……」
「駄目ですゼロ!こんなのと二人っきりなんて絶対に駄目です!」
「?……では、藤堂と扇、それとカレンだけこの場に残れ。それで構わないか?」
 ディートハルトとカレンの双方に確認を取ると、二人とも渋々と言った様子で頷いた。
 残りの面々は、黒の騎士団のトップ三人による会議の続きに耳を傾けたかったものたちも強制退場と言うことで渋々部屋を出て行った。

「それで、伝えたいこととは?」
「先日の戦闘後からコーネリアの騎士が単独で黒の騎士団に接触しようとしています」
「ギルフォードか」
 ちっと舌打ちをしたゼロにディートハルトは「はい」と頷いた。
「単独でとはどういうことだ」
「どうもコーネリアやダールトン以下部下の者にも内密に動いているようです。接触されて気づいたのはこちらの落ち度です。申し訳ありません、ゼロ」
「いや、それよりも何故接触してきているかはわかっているのか?」
「あ、はい。それはもちろん」
 一瞬瞠目しながら、ディートハルトは答えた。
「どうやらゼロに直接会いたいようで……」
「先日の戦闘……コーネリアに内密に、私に直接……?くっ、おもしろい」
「……何かわかったのか?」
「さぁな」
 ふふっと楽しそうに笑うゼロに扇は首を傾げ、カレンを見るが、カレンも首を傾げていた。
「その件に関しては私の方で決着をつけてやろう」
「ゼロが、直接……ですか?」
「ああ」
 仮面の奥でゼロがにやりと笑ったのを感じた。
「どうせ近くまで来ているんだろう?」
「!……はい」
「それなら堂々とここに案内してやれ。そうだな……ディートハルトよりも藤堂、お前が迎えに行ってくれ。その方が分かりやすいだろう」
「俺がか?」
「念のために四聖剣も連れて行け」
「承知した」
 藤堂は頷き、部屋を後にした。

「いいんですかゼロ。敵を迎え入れるなんて……」
「敵?……ああ、そうだな。今は敵だな」
「ゼロ、もしかして……彼をこちらに引き入れるつもりなんですか!?」
「どうだろうな」
 くすくすと笑うゼロに、カレンはぽかーんと口を開くばかりだった。

  *  *  *

 戦犯である藤堂鏡志朗と言う目立つ迎え―――しかも四聖剣も一緒だった―――に案内された巨大なトレーラーの中に彼は居た。
 全身をきっちりと覆い隠した怪しげな男、ゼロ。
「ようこそ、黒の騎士団へ。―――コーネリアの騎士、ギルフォード」
 その言葉に私は思わず眉間に皺を寄せた。
 いつもの演技がかった動作は相変わらずだが、騎士と言う単語が私には皮肉にしか聞こえない。
 やはりゼロがルルーシュ殿下だったのだと、改めて思った。
「……その言葉、私を怨んでおいでですか」
「ほう?何故そう思ったかお聞かせ願いたいものだな」
 笑った様子の殿下に、私は苛立ちを覚えた。
 彼に対してではない、自分自身への苛立ちだ。
「貴方との約束を破り、姫様……コーネリア殿下の騎士となったことです」
「さて、なんの事か」
「とぼけないでください!貴方はあの日と同じことを私に繰り返せと言うのですかっ」
「では聞くが、私は黒の騎士団の皆にも仮面の下を見せたことがない……それなのに何故お前はお前の言う人物と同一視する」
「……先日の戦闘、貴方が私に対し"騎士、ギルフォード"と言ったあの一言……私がコーネリア殿下の騎士となった日とまるで同じでした。そこから推測し、ゼロが貴方だと」
「勘で、と言ったところか」
「だとすれば貴方はブリタニアに反逆する理由が納得できる。貴方が日本を解放するのはあくまで"ついで"だと」
「ついで!?そうなのか、ゼロ」
 驚く青年―――ここに居るのだから幹部だろう。名前は知らない。
「そうだ」
 非難するかのような声音に動じることもなく、殿下は肯定した。
 このエリア11を解放することが第一だと考えているのであろう彼にとって、その言葉は裏切りに近いと取れる。
 藤堂もまた眼を細め、殿下を睨んでいる。
 この方はどうして……
「ゼロが戦う結果、エリア11が解放されるのは事実でしょう?日本人でないゼロ個人にエリア11解放が第一で無いのは当然のことだ」
「それはそうだろうけど……」
 殿下を擁護するように口を開けば、殿下が組んでいた手を少し強く握っていた。
 きっと彼らの前でなければ舌打ちし、忌々しげな顔をしているのだろう。
「それで、お前の要件はなんだ」
「許されるならば、贖罪を。二度と道を間違えぬよう、今度こそ殿下をお守りさせていただきたい」
 膝を着く私に殿下は何も言わない。
 許すことはない、と言うことか……

「……お前は相変わらずと言うか」
 殿下の口から笑いが零れおち、顔を上げれば混乱しているらしい藤堂や彼、ブリタニア人の男や少女等は驚いた表情で私とゼロを見ている。
 何がおかしいのか分からず、戸惑う私を尻目に、殿下は仮面に手を伸ばした。
 シュッと機械音がすると、その仮面から宵闇色の髪が姿を現し、仮面が剥ぎ取られる。
 あの頃と違い、美しくなられた殿下の御顔に、私は思わず見とれる。
「ル、ルルーシュ!?」
 ブリタニア人の少女が驚きの声を上げて殿下を指さす。
 その表情はどこか引きつって青ざめているようでもあった。
「ちょっと、どういうこと!?ゼロが殿下で殿下がルルーシュで……」
「ルルーシュ……殿下……まさか君はあの……?」
 混乱するブリタニア人の少女に、何かを思い出したらしい藤堂が呟くように言った。
「カレンも藤堂さんも、ゼロの事を知ってるんですか!?」
「ルルーシュは同じ学校の副会長で……でも殿下って」
「私の記憶が間違いでなければルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下ではありませんか?それ以外に皇族にルルーシュと言う名の皇子も皇女もいなかったはずです」
「ああ、間違いない」
「カレンはわかったけど、藤堂さんはなんで?」
「"悲劇の皇子"と言った方が分かりやすいだろう。彼は殺されたはずの皇子だ」
「悲劇の……ゼロが?」
 ブリタニア人の男を除き、ひどく混乱している様子に私は漸く混乱の原因が自分の発言の所為だと理解した。
 ルルーシュ殿下が仮面を外したからではなく、私が殿下と口にしてしまったことが問題なのだ。
「も、申し訳ありません殿下!」
「落ち着けギルフォード。本当それでよく姉上の騎士が務まったものだ。先生のおかげか?」
「先生?」
「ああ、ダールトンのことだ。私は彼からKMFや戦術の基礎を学んだ」
「ええ!?」
「俺は母が庶民の出にしては高い地位だったからそれ相応のことは学ばなければならないと母によって引き合わされただけだ」
「じゃあルルーシュ、貴方今まで親友だけじゃなくて家族とか彼とか親しい人と戦って来たって訳?」
「俺にとって家族とはナナリー……妹と亡き母上だけだ。俺がブリタニアに見つからないように隠れて暮らしていることを知っているのに軍人になったのに学園に当たり前のように通って、技術部だから戦闘には出ないと言ったくせに白兜に乗ってるような嘘つきは親友と呼ぶのか?」
「それは……」
「それに、カレンは気付いてないようだが俺とあいつの意見は真逆だ。だから生徒会で黒の騎士団やゼロの話題は極力上がらないんだ」
「え!?そうだったの?」
「……気づいてなかったのか。まぁ、以前口論になりかけた時"病弱なカレンさん"は欠席してたし、あの"体力馬鹿"は結局仕事で話はうやむやのまま終わったからな」
「あれほど仲が良かったのに……そうか、今のスザクくんと君はそう言う仲なのだな」
「……藤堂さん、それだと変な関係に聞こえます」
「む、そうか?」
 カレンと呼ばれていた少女に言われ、寂しそうに呟いた藤堂は元の仏頂面に戻った。

「そうだ、ギルフォード」
「はい、殿下」
「その"殿下"はよせ。皇位継承権はすでに放棄しているし、皇族としての俺はもう死んでいる。テロリストの親玉が元皇族などと知れれば他に示しがつかないしな」
「ではなんとお呼びすれば……」
「無難にゼロ、か?ここに居る面子だけの時ならばルルーシュでも構わないが」
「はい、畏まりました。ルルーシュ様」
 柔らかく微笑むギルフォードと、満足そうなルルーシュの姿はどこか微笑ましく見えた。

  *  *  *

「ギルフォードが戻ってこない?」
「……はい」
 政庁の一室、クラウディオの報告にコーネリアは眉間に皺を寄せる。
「あの時、何かに反応したと思ったが……そうか、やはりあいつが……」
「姫様?」
「ギルフォードのことは好きにさせておけ。あれは元々私の騎士になるべき男ではなかったのだ」
「それはどういうことですか?ギルフォード様は姫様をっ」
「ギルフォードは確かに私に付き従ってくれた。それは父の命があり、そしてあの子が背を押したからだ」
「あの子?」
 首を傾げ、顔を見合わせる他のグラストンナイツの面々に、コーネリアは笑った。
「ギルフォードの飼い主だ」
「……姫様」
 ダールトンがため息を吐くかのように言い、眉間に皺を寄せ、更に指をで押さえた。
「言い得て妙ですが……それでは彼の君は生きているということではありませんか。どうなさるおつもりか」
「自由にさせるさ。あの子はもう籠の鳥ではない……ギルフォードもまた……」
 目を細め、窓の外を見つめるコーネリアの表情は忠臣に裏切られたはずだと言うのに晴れやかだ。
「弱ったな、勝てる気がしない」
 脳裏に過るのは自分と居る時よりも素の自分を晒し出す小さな弟に頭の上がらない騎士だった。
 其れは宛ら犬と飼い主のような……
「姫様」
 想像し、くつくつと笑うコーネリアに、ダールトンがわざとらしく咳払いをした。
「だが、ダールトンもそう思っただろう」
「……失礼ながら」
 笑うことをこらえながら言う養父にクラウディオたちは首を傾げるばかりだった。



⇒あとがき
 スランプ期を脱出すべくちまちま書いてましたがやっと書き終わったー!!
 すいません遅くなりましたがリクエスト(※)通りに……ってあれ?ギルフォードが騎士って言うか犬になっちゃってますけどいいですかね!?(;´д`)
 シリアスともギャグとも甘々とも指定がありませんでしたのでうっかり変な方向に走ってしまいましたが……
 カレンとかディートとか目立たせて若干騎士団×ルル要素を含んでおきましたんでそちらでご容赦ください><
20081029 カズイ
※本館のリクエスト
res

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