□シュガーパニック

 新宿駅前、腕時計をちらりと確認する美しい少女が居た。
 長い黒髪を和柄の蝶が描かれた蒼い髪留めで止めているだけで、これと言って飾り気のない少女だが、日本人にはない透き通るような肌の白さと、高身長。そして深い紫の髪と双眸を彩る紫苑の輝きが彼女を浮世離れとも言えるほどの息をのむ美少女にさせていた。
「……早く着き過ぎたかな」
 そわそわと小さな鞄を抱えなおし、きょろきょろと辺りを見回す様子は明らかに彼氏を待っている風である。
 だが美しい彼女をナンパ男が放っておくわけがなかった。
「ねぇ彼女〜。今、暇〜?」
 実にいやらしい顔をしているのだが、少女はちょこんと小首を傾げてこう言った。
「待ち合わせをしてるだけでこの辺りにはあまり詳しくないんです。道ならそこの交番ででも聞いてください」
((((((ええー!?))))))
 解決ですよねと言わんばかりににっこりと微笑んだ少女に関わりあいたくないと目を反らしていた周りの者たちも思わず少女を見る。
「そうじゃなくて〜、これから俺と一緒に遊ばな〜い?」
「ですから待ち合わせをしているんです。だから無理です」
「君みたいな美人待たせる男なんて最低だよ?だ〜か〜ら!俺と遊ばな……っ!?」
 ガシッと男の頭が大きな手に掴まれる。
「鏡志朗さん!」
 その正体を認め、ルルーシュの声が弾む。
 彼の名は藤堂鏡志朗。どう見てもルルーシュの父親のような年齢をしているが、彼こそルルーシュが待ち合わせしていた彼氏である。
「貴様、誰の断りを得て彼女に声を掛けている」
「いでででで!」
「君のことだから時間よりも早く来るとは思っていたが……もう少しゆっくりで構わないんだぞ?」
「でも、鏡志朗さんを待たせるわけにはいきませんから……」
 ぽっと頬を赤く染め、それを隠すようにルルーシュは両手で頬を押さえた。
「自分が周りにどれほど影響を与えるか自覚してほしいところだが……まぁいいだろう。無事だったか?」
「はい。鏡志朗さんが来てくれましたから」
 さらに赤くなるルルーシュ。
 周りはほのぼのを通り越して生温い目で二人を見守っている。
「ちょっ、おっさん……離せよっ」
 男の声が二人を現実に戻す。
 しかし、それがまずかった。
 男が見たおっさんこと藤堂の口元がにやりと恐ろしげに歪んだのだ。
「ルルーシュ、少し待っていてくれるか?」
「は、はい」
 ルルーシュは思わず身体を緊張させ、藤堂の言葉に返事をする。
 藤堂は嫌がるナンパ男をずるずると引きずると、交番の方へと向かって言った。
「は〜……よかった。鏡志朗さん、もう怒ってなかった」
 身体の緊張を解くと、ルルーシュはにっこりと笑みを浮かべた。
「それにしても、鏡志朗さんのあの顔……今まで見た事無かったけど……かっこよかったなぁ」
 ほうっとため息をついたルルーシュに周りの人がバタバタとコケて行く
「ど、どうかしましたか!?」
 突然の異変にルルーシュもはっと辺りを見回す。
 どうやら大事には至っていないようだが、何故そうなったのかが分からない。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!やめてぇぇぇぇぇ!!!もうしませんからあぁぁぁぁ!!!!」

 混乱しているルルーシュの耳に、間違いなく先ほどのナンパ男のものと思える悲鳴が聞こえた。
 藤堂と共に消えた交番からここまで近いとは言え結構距離があるはずなのに、である。
「今の声、もしかして……」
 流石にこれには普通の反応をくれるかと周りが期待したのを裏切り、ルルーシュはまた一ひねりした言葉を口にした。
「……さっきの人、警察の人と遊んでるのかな?」
 先ほどよりも周りに崩れ落ちた人が増えた。
 だがルルーシュは何をして遊んでいるんだろうを考えぶつぶつと呟いて気づいていない。
 どうやらとんでもない天然さんらしいことは言わずともがな周囲は理解していた。

「すまないルルーシュ。待たせてしまったな」
「あ、いいえ。ちょっと考え事をしてたんでそんなに時間は気になりませんでしたよ」
 にっこりと笑みを浮かべるルルーシュは藤堂の腕に自分の腕を絡めた。
「今日は折角のお休みなんですからいっぱい遊びましょうね」
「そうだな」
「それで朝比奈さんたちにい〜〜〜〜っぱい自慢してくださいね。じゃないと私、悔しいですから」
「君は俺の自慢の恋人だ。いつだって自慢してるに決まってるだろ」
「だって私の方が一緒にいる時間が短いんですよ?ズルイですもん」
「可愛いことを言ってくれる」
「えへへ〜」

(だ、誰かこの甘い雰囲気をどこかへやってくれっ!!)

 何時までも移動する様子のない砂糖を吐きそうな甘いカップルを前に、地に伏した人々の心の声だけが虚しく同調していた。



⇒あとがき
 気分は日和の太子の話でイチャイチャしているバカップル。
 リク内容の藤堂さんが軍人って設定がいまいち生かし切れてませんが、幸せな雰囲気は周りが死にそうな感じになってますがまぁまぁ出てるんでOKですかね?
 いやいや、幸せって言うかただのバカップル……orz
 『ゼロの少女』と比べると切なさなんて欠片もない話で申し訳ありませんっ!!
20080830 カズイ
res

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -