□「要らない」

※藤ルル「ありがとう」大前提

『ゼロはあくまで記号。その生まれも人種も問わないはずですよね?』

 突然蜃気楼が現れ、中から少年の声が聞こえた。
「―――だが彼は俺たちを裏切った。ギアスと言う力で」
「そうだ!俺たちにギアスってのをかけたんだろう!?」
『本当に裏切ってるのはっ、世界を苦しめてるのは誰だ!!ブリタニア皇帝だ!兄さんじゃない!!』
「話をすり替えるな!」
「ゼロは親衛隊を使い、無抵抗の女、子ども殺したと聞く。それが俺たちに対する裏切りでなく何と言うのだ」
『響団の話ですね?無抵抗だから殺しちゃいけないんですか?死ねるうちに死ねるんなら弟や妹たちも本望だと思いますよ』
「何!?」
 冷たい声で少年は言う。
『あれは皇帝の命によって人道に反したある実験が行われていた施設。確かにきっかけは兄さんの私怨だ。それでも僕は兄さんに感謝している!あそこは僕みたいな化け物が生まれる場所なんだから』
 蜃気楼の中から幼い顔立ちの少年が出て来た。
 初めて彼を見る者も少なくはないだろう。
 ロロは蜃気楼の外に出ると、まっすぐにシュナイゼルを見つめる。
「シュナイゼル第二皇子、あなたはきっとすべての情報を知りえたと思ってることでしょう。ナイトオブセブンの言葉から、コーネリア第二皇女の言葉から―――でもそんなものじゃ足りないんですよ。兄さんさえ生きていれば世界はまだ救われる余地があったでのに……貴方も、黒の騎士団も馬鹿なことを……」
 憐れむような言葉は嘲笑が混じっていた。
「君は機密情報局のロロだったね……君は何を知っているんだい?」
「ブリタニア皇帝の力、そして目的。……兄さんがついたたくさんの嘘の真実。必要ならばジェレミア卿にでも聞けばいい。彼は僕よりも真実を知った兄さんに近い―――」
「オレンジ、か」
「まぁ……貴方は皇族だからジェレミアは許しはしなくても殺しはしないでしょうね。でも僕は許せないし、貴方を殺したい。だから」
 言うが早いか、シュナイゼルの首と胸から血が噴き出す。
 驚きに目を開き、慌てて少年を見れば、少年は蜃気楼の足元、ゼロの亡骸の傍に居た。
「っ!?」
「あなたは兄さんを恐れていた。他の皇族の中で唯一あなたにチェスで対抗できる優秀な頭脳を持っていたから。だからゼロが兄さんだと気づいたときに兄さんを貶めることを決めたんでしょう?わざわざギアスをかけられた人もそうでない人も含めて資料を集めて騎士団の奴らに見せた」
「貴様一体何を!」
「何を?僕は僕のギアスを使ってシュナイゼル第二皇子の首をナイフで切っただけ。僕は兄さんと違って殺すための力を安売りするよ」
 傷が深いのか、出血が激しいようにも見受けられる。
 隣に立っていた彼の副官のような人物―――たしかカノンと名乗っていた―――もその腹部に深い傷を負っている。
「たとえ使い物にならなくてもいい……僕には兄さんだけだったんだから」
 今度はゼロの亡骸を抱え、少年は蜃気楼の上に立っていた。
「そう、僕には兄さんだけ居ればいい。他に誰も要らない。ナナリーも、黒の騎士団も、皆要らない。……ね、兄さん……兄さんには僕だけが居ればいいんだよ」
 ロロはそっとゼロの亡骸の閉じた瞳に、唇にそっと口をつける。
 神聖のようで空恐ろしい儀式のようだ。
 少年の持つ携帯のストラップがきらりと揺れ、蜃気楼のコックピットが閉じる。
『僕はブリタニア皇帝が何をしようと止めない。たとえその結果世界が滅びようともそれは僕らの死後だ。知ったこっちゃない。僕は兄さんのように他の誰かに優しくなんてないから』
「それはどういう……」
『なんで兄さんがまた黒の騎士団を選んだかわかる?卜部とか言う人がその命を掛けてゼロを呼んだからだ。お前たちは知らなさすぎたんだ……兄さんがどんなに作戦の裏で泣いたとか、苦しんだとか全部』
「そんなことゼロが言わなかっただけで」
『言えると思う?兄さんはこの一年ブリタニア皇帝にすべてを奪われ、八年前は生きていることを、名前、存在を奪われ、九年前は家族を奪われた。もう兄さんは誰も信用できなかったんだ。それなのに信じようとした―――ナナリーだけじゃない、皆のための優しい世界』
「優しい、世界……」
『でも僕はそんなの要らない。兄さんだけが居ればいい。だから皆要らない』
 呪いを吐くかのように言い捨て、蜃気楼は飛び出していった。

 遙か遠い海底に少年らは蜃気楼と共に沈んだ。
 幾多の兵器を破壊し、幾多の人を殺し。

 そして生き残った者も須く暫くの後に消滅したと言う―――それは遠い歯車に操られた世界の出来事。



⇒あとがき
 『「ありがとう」』の続きような気もするロロルルです。
 ロロがシュナ様を殺すと言うとんでもない行動に出るし、自分でもびっくりです。
 でも結局ロロも死んじゃうからやっぱり誰も報われないと言う……なんて悪夢連鎖だorz
20080819 カズイ
res

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