□「ありがとう」
※ルルーシュ死ネタ
「ねぇお願い答えて!」
「ふははは……」
切実なカレンの叫びにゼロ―――否、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは狂ったような笑いを返した。
「だから?今頃気づいたか?」
仮面に手を伸ばすと、彼は今まで一度たりとも外したことのなかった仮面を外した。
「自分たちが利用されていることに」
シュッと軽い音がして、CCがそうした時と同じように仮面の中の顔が外へと飛び出す。
「貴様らが駒にすぎないということに」
機械を通さない声は涼やかでありながら毒を孕んだ美しい声。
写真で見たものよりも数段美しい美貌を持つ少年の姿に誰もが一瞬息を飲む。
「ゼロ……君はやはりっ……」
「ゼロォ」
不敵に微笑む彼の顔は間違いなくゼロが仮面の下でしていただろう憎い表情……それなのに何故か俺は胸がチクリと痛んだ。
眼下、カレンの唇が小さく彼の名を紡ぐ。
まるで裏切られたと言わんばかりの……
いや、実際自分たちは彼に裏切られたのだ。
その現実をシュナイゼルに突きつけられたばかりではないか。
「カレン……君はこの中でも特別優秀な駒だった。そう、すべては盤上のこと―――ゲームだったんだよ、これは」
「……そう」
視線を外した彼に、カレンは背を向けた。
その目からは大粒の涙が零れおちた。
一番信じていた彼に裏切られたのだ、仕方がないと思う。
(でも何故だ、何かが引っかかる―――)
焦るような、焦がれるような、とにかく胸がざわざわと嫌な予感を覚えさせる。
軍人としての第六感か、それとも長く生きた経験か……
「―――さよなら、ルルーシュ」
それでも、今が俺たちを裏切ったゼロへの報復の好機。
「構ぇ!」
ゼロを助けた卜部のためにも、ゼロを信じて闘ってきた仙波のためにも、フレイヤの犠牲になった朝比奈のためにも……そして彼に殺された草壁中佐や片瀬少将のためにも。
俺は常に決断しなくてはならない。
「―――、――――――」
彼の口が動いた気がした。
「……てぇ!」
振り返ったカレン、俺達が構えた銃弾はゼロへと向かう。
表情すら消えたその顔が俺に向けられた。
穏やかで、それでいて泣きそうな顔に俺ははっと目を見開いた。
「ありがとう、僕なんかのために」
8年前、わずか10歳の少年に暴力を奮った大人達がいた。
彼らは祖国を踏みにじろうとしていたブリタニアから送られてきた幼い皇子に対して暴力を奮っていたのだった。
最初の出会いはそれではなく、自分主義だったスザクくんが友達だと連れてきたときに会った時だった。
共に彼は人種を気にせず当り前のように接した俺に「ありがとう」と言った。
そして、スザクくんも彼の妹のナナリーくんも姿がなかった時、彼は泣きそうな顔でそう付け足していた。
彼は決して泣かなかった。
だけど今は―――
「っ……ルルーシュぅぅ!!!!」
悲痛なカレンの叫び声。
銃弾に細い少年の身体が傾ぐ。
口元にそれとわからぬ些細に上がった唇。
紡いだ言葉はあの日と同じ「ありがとう」に見えたのは俺の気のせいだっただろうか?
「ルルーシュ!」
転がった身体に駆け寄ったカレンに皆が慌てて銃を引く。
「そうやって嘘吐くから私嫌いだったのよ!?お願い、目を開けて!本当のこと言って!!!」
今にも閉じそうな瞳でゼロはカレンを映すと、嘲笑うように無理やり口角を上げ、そして倒れた。
彼が受けた銃弾の数はそんなことをする余裕すらなかったはずなのに―――
「私たちを駒だと思ってるんなら卜部さんが死んだとき泣くはずないじゃない!CCのことであんな無気力になるはずないじゃない!!」
―――泣いた?誰が?
「私には生きろって失礼でしょ!?あんたも生きなさいよ!!生きて……生きて私に日本を返してくれるんでしょ!?ねぇ、ルルーシュ!!ルルーシュぅぅぅ!!!!!」
わんわんと泣きだすカレンに一体何が言えるというのだろう。
俺は今この時ほど自分の指揮能力に後悔を覚えたことはない―――
⇒あとがき
大衆がルル救済書くので、私はもっと報われないルルのままを書いてみました。
……うん、TURN19はショックすぎました。
ところでルルーシュの台詞、「だから?」は「馬鹿か」にも聞こえて悩んだんですが……どっちでしょう?
20080819 カズイ