□魔法使いルル 後編

 地上が眼前に近づくとルルは慌てて自分に姿消しの魔法を掛け、感覚的に感じる男の元へと箒を飛ばした。
 黒いトレーラーの中から藤堂の気配を感じたが、動いている車内に扉を開けて入るわけにもいかず、トレーラーの天井に魔法を掛けて中へと飛び込んだ。
 胸元のブローチを通じて感じる色彩を探し箒に跨ったまま廊下を漂う。
 早くしなければロロが彼の命を奪ってしまう。
 本当ならばそれでブローチの色彩は戻り、ルルは王女として魔法の国で誓約相手を待ちながら国をいずれは統治すればいい話である。
 それなのに自分はあの時ひどい胸の高鳴りを感じ、ロロを止めるために飛び出したのだろう。
 考えている時間はないとルルは首を横に振り、廊下を歩く人の間をすり抜けて急ぐ。
 姿を消しているルルが通った後、車の中にいるのに走った旋風を感じた通行人たちはそろって首を傾げていた。

(ここか!?)
 ようやく扉越しに見つけた気配に、ルルは箒から降りてとんと足をつける。
 おそらく7年以上ぶりになるのではないだろうかと言う走る車特有の振動を感じながら、ルルは扉のパネルに伸ばしかけた手を止め、魔法で部屋の中へと侵入した。
 その部屋にはあの望みの鏡で見た通りに男と少女と、黒衣と仮面を纏ったナナリーの姿があった。
 そして小さな光が男の背後でぽんと弾ける。
「ロロっ!」
 ルルが気づいた時にはロロは躊躇なくルルとは少し系統の違う、妖精にしか扱えない魔法で男に攻撃を放とうとしていた。

―――パチーンッ

「―――っ!?」
 黄緑色の髪の少女が無言でロロを両手で挟んだ。
 魔法も失敗したのか少女の手のひらの間で煙が出ている。
「どうしたCC」
「……いや、虫かと思ったんだが……」
 違ったか?と少女は手から見える煙をじっと見つめる。
「って、ロロは無事か!?」
 潰されているのだからきっと無事ではないだろう。
 慌てたルルはロロを両手で挟んだ少女の両手に手を伸ばした。
「っ!?」
「CC?……それに今の声は?」
「―――何者だお前っ」
「うわっ!?」
 警戒した二人にCCと呼ばれた少女はルルに向かって何かをした。
 強い風が急激に吹くかのような感覚にルルは片目を瞑り、もう片方で少女の額にある鳥が空を飛ぶような赤い文様を見た。
 それは魔法界と人間界とはまた別にある神界の文様だとルルーシュは記憶していた。
「効果がない?どういうことだ」
 焦っているらしい少女にルルは仕方なく姿消しの魔法を解いた。
「なっ!?」
「女、の子?」
「……魔女か」
「ええ。どうやらあなたはご存じのようですね」
「私もあいつ―――ゼロに魔女と呼ばれているからな」
 ついっと少女はナナリーであろう仮面の人物を示す。
 どうやらここではゼロと言う名前らしい。
「まぁ、言葉は一緒でも意味あいはお互い違うがな。お前、名は?」
「魔女が名を名乗れないのはご存じでしょう?それより先に私の弟を返して下さい」
「弟?」
 少女は手をルルに指さされ、両手を開く。
 そこには淡い金の光を身にまといながらぐったりしているロロの姿があった。人間界に来ることだけでも大変だっただろうに少女の両手にぱちりと挟まれてしまったのだからこうなっても仕方ないだろう。
「うう……姉、さん?」
 ルルはとりあえず無事だったことにほっと胸を撫でおろし、ロロに回復の魔法をかけてあげた。
「無理をするからだよ、ロロ」
「姉さん……僕、失敗しちゃって、取り返せなかった」
「取り返さなくていいんだ、いいんだよ……」
「駄目だ!取り返さなきゃ姉さんがっ」
 うつむくロロの頭をルルはそっと撫でた。
「どういう事情か説明はなしか?見たところそっちのロロとやらは藤堂を殺そうとしていたみたいだが?」
「……そうなのか?」
「あ……すみません」
 ルルは視線を落とし、ちらりと男を見上げる。
 どうやら怒ってはいないようだがルルは不安になってまた視線を落とす。
「こちらの問題にどうやら貴方を巻き込んでしまったようで……」
 はっとルルはロロを止めただけではこの問題は終わらないことに気づいてしまった。
 魔法の国ではペンダントに宿る色彩は命の灯火であり、長い間その色を失ったままでは命にかかわる危険性がある。
 だから本来なら代わりに相手の色彩を貰い、互いの命の灯火を交換することが誓約―――つまりは結婚することとなるのだ。
 例外的に"運命の誓約者"だけは自分の意志とは関係なく色彩を奪われ色彩を与えてしまうと言う現象が起きるが、本来は互いの意思を尊重して誓約は行われる。
 ルルはこの例外にあて嵌り、しかも相手はその例外の中のさらに例外の人間だった。
 過去に人間に色彩を奪われたものたちはその人間を殺すことで命の灯火を取り返していた。
 だがルルはどうしてもその選択肢をしたくはなかった。
 理由はよくわからないのだが、もしまだ名前も知らない彼が死んでしまったらと考えると胸がぎゅうっと締め付けられ、喉がカラカラになり、背筋にはぞくりと悪寒が走った。
 答えが見つからない時は本能に従って選択肢を選んだ方がいいと、いつも余裕の表情でローマイヤーをからかって暇つぶしをしているのだと彼女の影で言っていたコルチャックが教えてくれた。
 彼の授業はローマイヤーの監視がないと正直信じられないところが多いが、その話だけは信じてもいいと思っていた。
「姉さん?」
「……私が見逃したところで王は貴方を見逃さないかもしれない」
「それはどういう意味だ」
「それは……すみません、話せません」
 申し訳なさそうにルルは首を横に振った。
 本来なら彼らの前で魔法を使ったこと自体あってはならないことだ。
 自分の軽率さを呪い、ルルは唇を噛んだ。

「……なんとなく読めて来たぞ」
 にやりと少女が笑う。
「どう言う意味です」
「普通に話せ、お前元は人間だろう?」
「っ!?」
「私にはわかる。私は"CC"……この名でお前には通じるだろう?」
「はい」
 CC。それはギアスコードと呼ばれるものを継承した神界の関係者だ。
 元は人間でありながら王の力―――不老と不死を与えられ永遠に生かされる孤独な人間。
 恐らく彼女はとても長い時間を生きていたのだろう。
 偉そうだしそんな気がするとも、人間だった時代の自分なら信じなかっただろうとも思った。
「私は"世界樹の花"。これで通じますね?」
「ああ、十分すぎるほどだ」
「―――残念だが私たちには意味が分からない。説明しろ、CC」
 機械で変えられた声に一瞬驚いたが、ルルはちらりとCCを見る。
「安心しろ、必要以上は話さん」
 するとCCはにやりと笑った。
「一つ、こいつをここに置き、私と同じ扱いをしろ」
「勝手だな」
 ゼロはため息と共にわざとらしく肩を落として見せた。
 動作が一々演技がかっていて妙な違和感を覚える。
 だが恐らくゼロはこのトレーラーの中に居る人たちの中心―――おそらくはリーダーかなにかなのだろうとルルは判断した。
「まぁ続きを聞け。二つ、世話は藤堂がしろ」
「俺が、か?」
 言われた男―――藤堂は眉間に皺を寄せるだけで話の続きを待つ。
「三つ、何があっても一日に一回は必ずこいつに触れろ」
「それも俺か?」
「ああ。以上の三つをこなさなければこいつは死ぬ。それほどこいつは繊細に出来ているのだとでも思え」
「説明になっていないぞ、CC」
 明かに不機嫌なゼロに動じることなくCCは偉そうに続ける。
「十分説明になっているだろう。こいつは特別で、藤堂の傍にいないと死ぬ。そして逆もまた然りだ」
「逆?この少女が傍にいないと俺が死ぬと?」
「こいつの保護者がお前の命を狙う。お前を殺せばこいつは助かる。だから命を狙う。そう言う無限の連鎖に歯止めを掛けるにはこの方法がいい」
「結局話すつもりはない、と。そう言うことだな?」
「ゼロ、お前だって仮面を被っているんだ。人のことは言えないだろう?」
 ふんと鼻を鳴らされ、ゼロはぐっと押し黙った。
「名は名乗れずとも必要となるな。ロロはロロでいいとして……どうする?」
「そうですね……どうしようか、ロロ」
「普通に名乗ればいいじゃない」
「名前を名乗るのは掟破りだって言っただろう?ロロ」
「その男を殺さない限り姉さんは帰れないんだからいいんじゃない?」
「……それもそうか。では、"ルル"と」
 そう言うとCCの目が一瞬見開かれ、ルルの顔を改めて見つめるとと勝手に納得を始めた。
「ああ、お前が……なるほど」
 くくっと笑うとCCはソファに背を預けた。
「おいゼロ、さっきの一つ目の後半はなしだ。今度から黒の騎士団の作戦はルルと藤堂に立てさせろ」
「俺はいいが彼女はまだ子どもだろう。なにを考えているCC」
「そう睨むな。それにそいつは見た目通りではない」
「……一応合わせて17になります」
 藤堂は無言でルルを見下ろす。
 別に怒っているわけではないようだが、居心地の悪さにルルはもじもじと身体を揺らす。
「戦術は一応独学ですが、学んでいます。考える事は不得手ではありません。お役にたてるよう精一杯頑張りますから……」
 一緒にいる方法として好都合でもあると考え、ルルは藤堂を見上げる。
「だめですか?」
 藤堂は「うっ」と一瞬つまり、半歩後ろに下がる。
 不安に揺れる大きな瞳が涙で潤み、まるで捨てないでと言っているようで流石の藤堂もうろたえたらしい。
「姉さんの頼み事を断るなんて言わないよね」
 ふわりとルルの手から飛び上り、藤堂の眼前で冷たい目で睨むロロの存在にどこかほっとしながらもロロの羽根を掴む。
「……電池で動いているわけではなさそうだな」
「生きてますから」
「なにするんですか!?離してください!」
「ああ、すまない」
 ぱっと藤堂が手を離すと、ロロはルルの髪の後ろに隠れた。
「それで、あの……」
「まだ少し状況を掴めていないが、君は嘘を吐くような子には見えない。だからもう少し君と話をして、そして決めたいと思う。それで構わないか?」
「っ、はい!」
 ぱあっと華やいだ笑みを浮かべるルルに藤堂の口元にも自然と笑みが浮かぶ。
「どうでもいいが、犯罪には走るなよ、藤堂」
 にやりとCCが笑う。
「!?」
「……動揺するな藤堂。不安になる」
「そ、そんなことは……」
 ゼロは明らかに引いた口調で話し、それに藤堂はさらに動揺を見せた。
「確か、父と母は30ほど年が離れていましたが……問題あるのでしょうか?」
「「……………」」
 首を傾げるルルにCCとゼロは押し黙った。
「外見が問題なら魔法を使えば……」
 ルルはそう言うと自分の姿を魔法で大人へと変えた。
「ちょっと疲れますけど、貴方が困るならこの姿でいます」
「ルル……」
 すぐにでも出来上がってしまいそうな雰囲気にCCとゼロは完全に口を閉ざした。
 ただ一人ルルの背後でロロが藤堂を射殺さんばかりの雰囲気で睨んでいることを除けばもうまったく問題はないように見えた。



⇒あとがき
 中途半端に終わっちゃったんですぜ☆
 ……だってもう疲れたorz
 でもこの設定、好評であればまた生かしたいなぁなんて思いはします。
 第一藤堂さんにちゃんと説明がなされてないしな!←言っちゃだめ
20080819 カズイ
res

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