□気まぐれ猫

 ゆっくりと恋焦がれるような視線とぶつかる。
 直に外されたその視線は、宙を彷徨った。

 最近のスザクはルルーシュへ対して産まれた新しい感情に戸惑っていた。
 逸らされた側のルルーシュはもう何度目になるかわからないため息を胸のうちでそっと吐き出した。
(俺に気づかれていないとでも思っているのだろうか)
 聡いルルーシュはもちろん気づいているが、指摘するつもりは無い。
 親友であるスザクにそういう感情をもたれることに若干抵抗はあるが、スザクならまぁいいかとも思う。
 スザクが自分で自覚するまでまだ先は長いだろう。
 誰かが気づいて指摘しない限り。

「……スザク」

 ようやくこちらに視線を向けたスザクは、まだ整理しきれていないのだろう複雑な表情をしていた。
「遅刻する」
「元はといえばルルーシュが次の授業もサボろうとしてるから……」
「迎えに来てくれたんだろう?」
 ふっとルルーシュは笑い、ゆっくりと立ち上がる。
「本を読んでいたの?」
「ああ。途中で眠ってしまったみたいだがな」
 欠伸を一つして、眼を擦る。
「寝不足?」
 心配そうに問い掛ける。
「少しな」
 だがルルーシュが口角を上げ、妖艶に微笑むと顔を朱に染め上げた。
 それに気づかない振りをしてやり、ルルーシュは歩き出す。

「あ、ルルーシュ!どこに……」
「教室だ。馬鹿」
 追いついてきたスザクの頭を本で小突いた。
「ルルーシュがサボるのがいけないんだ」
「仕様が無いだろ。眠たかったんだ」
「だったら保健室で休むとか」
 スザクの言葉に、ルルーシュは表情を歪めた。
「……一人がいい」

 本なんて本当は読んでいない。
 それはただのカモフラージュ。
 本当はずっと考えているのだ。
 ゼロとしての時間を削って、大事な親友の気持ちに真摯に向き合うべく。
 なのにこの親友は……

「……はぁ」
「え?なんでため息?」
「別になんでもない」
 そう考える時点ですでにスザクが好きなのだろう。
 ルルーシュは今更ながらに答えにたどり着き、スザクの腕を引っ張って逆戻りした。
「ちょっ、ルルーシュ!?」
 力の差ではスザクが勝つのだが、ルルーシュに突然腕を引っ張られたことで、スザクは油断していたためか体制を崩しそのまま連行される羽目になった。
 距離としては僅かな距離だ。
 そう無理なことではなかった。

「ルルーシュ?」
 ぐっとスザクの襟首を掴み、顔を近づける。
「お前、俺に何か言う事はないか?」
「え?」
 近い顔と顔に次第に頬が赤くなるだけで、スザクは戸惑ったまま何も言えずにいた。
 しばらく黙っていたルルーシュだったが、スザクから手を離し、腕を組んだ。
「……俺の見当違いか」
 ちっと舌打ちをし、踵を消す。
「ちょっ、ルルーシュ!?」
「お前に言う気がないなら俺は構わない」
 自分から言うにはルルーシュはプライドが高く言う事が出来ない。

「ルルーシュ!」
 スザクはルルーシュの肩を掴んで引き止める。
 それは不安に彩られた顔。
「……気づいて、……気づいていたの?」
「お前が俺を好きだということにか?」
「っ!?」
 顔を真っ赤にし、スザクはルルーシュから手を離した。
 僅かに取られた距離にルルーシュは再びため息をついた。

「あんな目で何度も見られれば普通誰だって気づくぞ。よほど鈍感でない限りな」
 現にルルーシュに近い人物である生徒会長やリヴァル、シャーリーなどは薄々感づいている。
「えぇ!?」
 ルルーシュの補足にスザクはこれでもかというほど顔を赤くしていた。
「鈍感なのは当人のほうか」
「ルルーシュ!」
 顔を真っ赤にして怒鳴られても恐くは無い。
 寧ろそれは滑稽で、ルルーシュは笑ってしまった。
「笑わなくたっていいだろう?」
「しょうがないだろう?お前さっきからどんどん赤くなるし、そんな状態で怒鳴られても……」
 また噴出すルルーシュにスザクは噛み付く。

 唇に。
 黙らせるかのように。
 肉体派の彼らしい荒々しい口付け。
 ルルーシュは目を細めてそれを受け入れた。

「僕はルルーシュが好きだ」
「そうか」
 微笑むルルーシュにスザクは毒気を抜かれたかのようにぽかーんとした。
「……それだけ?」
「ああ。何か文句でも?」
「怒ったりとか、は?」
「別に?」
「……喜ぶ、とか」
「喜ぶ必要がどこにある」
「泣く……」
「泣くか!」
 ボケ倒そうとするスザクの頭をルルーシュは再び本で叩いた。
「俺はお前を嫌いにならない」
 真直ぐ射抜く視線。
 スザクは思わず逸らしそうになるが、本を落としたルルーシュに顔を固定され、それが出来ない。
「嫌いならばもう既に問答無用で殴っている」
 笑って、そして口付けた。
 そっと触れるだけのそれに、スザクは硬直した。
「ふふ。俺は先に行くぞ」
 機嫌がいいらしいルルーシュは本を拾い上げ、教室へと歩き出した。
 固まったままのスザクを置き去りに。

 気まぐれ猫との恋はまだまだ始まったばかり。



⇒あとがき
 え?うっ……突発すぎ?
 でも好きなんですよこう言うルルーシュ。
 猫属性ってのを思いっきり前面に押し出してて、んでもってスザクを振り回す感じ。
 さらにさらに振り回されるスザクとか!!
 って、ここで語っても仕様が無いか。
20070330 カズイ
res

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