□愛しき弟よ
「はじめまして、ぎねびあこうじょでんか」
はにかんだ笑みを浮かべ、そう言う彼の魅力に堕ちたことに私の落ち度はないでしょう。
むしろ堕ちない方がおかしいのです。
現に私よりも先に挨拶されたオデュッセウス兄様は鼻の下が伸びていたのですから。
彼―――ルルーシュは私と同じく皇帝陛下を父に頂く姉弟。
しかしルルーシュの母は庶民の出、それも軍人だった女……だからこそ出会いの場であった皇帝陛下の誕生パーティで挨拶を交わせたこと自体奇跡と言ってもよかったのです。
私、ギネヴィアは第一皇女。ルルーシュは第十七皇子。随分と遠い存在だったのですから。
「―――お待ちなさい、ルルーシュ」
たった今、アッシュフォードの後ろ盾があるとはいえ少々高すぎた皇位継承権を放棄したルルーシュを私は呼びとめた。
幼い少年の皇位継承権放棄だけでも政治的には大した揺らぎがなくとも世間では大きく揺らぐ騒動にさらに私が口を挟んだことで騒ぎが大きくなってしまったようにも思います。
ですが、私の決意はその程度で揺らぎません。
「皇帝陛下」
「なんだ、ギネヴィアよ」
これ以上、ルルーシュから笑顔を奪うのは例え皇帝陛下とは言え許しません。
訝しげな視線が玉座から見下ろす中、私は臆することなく言葉を続ける。
コーネリアと違い、私は闘う人間ではありませんが、それでも……揺るがない決意はある。
「私はただのルルーシュとなったルルーシュの後見人になります」
「なっ!?」
「ほぉ……」
広がるざわめきの中、私は皇帝の是と言う言葉のみを待つ。
否の言葉を言うのなら、その時はシュナイゼルを使うだけ。
シュナイゼルの心の内など誰にも読めはしないでしょうが、あれだけルルーシュを溺愛しているのですから手伝わないはずがありませんからね。
「好きにぃするがよぉい」
「ありがとうございます、皇帝陛下」
面白そうな声音を聞き、私は皇帝陛下に頭を下げた。
ちらりと見たシュナイゼルの顔が笑顔の裏で何かを考えている予感がしたが、ここは無視しましょう。
これでルルーシュは私のものとなるのだから。
「行きますよ、ルルーシュ」
「え?」
「さあ」
手を伸ばせば、さっきまでの剣幕が嘘のようにうろたえていたルルーシュが恐る恐る私の手を握る。
小さくて柔らかい初めて握った弟の手。
この手をこんなにも愛おしいと思うなんて……
「あ、あの……ギネヴィア皇女殿下」
「今後はヴィア姉様と呼びなさい。誰が何と言おうと私が許します」
「う、あ……ヴィア、姉様」
「なんですかルルーシュ」
「どうして後見人など……生きてすらいないのに」
怯えを宿した瞳が私を見上げている。
それはとても悲しい色だと思い、私はルルーシュの身体を抱きしめた。
「何があってもルルーシュはこの私が第一皇女の地位に……いいえギネヴィアの名に掛けて、心から守ると約束しましょう。もちろん、ルルーシュの妹姫のことも守ります。ルルーシュは賢い子、わかりますね?」
「……はい」
まだ不安そうなルルーシュ。
私にとってルルーシュが大切なものであっても、ルルーシュにとっては違うのでしょう。
でも、私は決して諦めません。
再びその顔にあの時の笑顔が浮かぶよう、尽力しましょう。きっとこれにはオデュッセウス兄様も賛成してくれるでしょう。
ルルーシュを溺愛しているシュナイゼルもまた……
皇帝陛下、いえお父様。
ルルーシュを傷つけてしまったこと、必ず後悔させてあげましてよ。
⇒あとがき
妖艶なヴィア姉様にほだされて〜やっちゃいました!……orz
第一皇子と第一皇女だってやるときゃやるんだよって話にしたかったんだけど、オデュッセウス兄様ほとんど出てきませんでした(笑)
二人が後ろ盾に立つならルルーシュもナナリーも日本に送られないだろうし、その結果ゼロにはならない……狽あでもそしたら藤堂さんとも出会えない!?
20080723 カズイ