□あまつかぜ

※忘れる事無き二文字の過去

「ルルーシュ皇女殿下!」
「っ……藤堂さん!?」
 聞きなれた低い声に本国へ戻る飛行機に乗るため空港にいたルルーシュは振り返った。
 警戒す護衛の軍人たちに知人だと説明してどうにか話をする機会を得た。
「事件以来、ですね」
 自分の声は震えていないだろうか、そう思いながらルルーシュはそう言った。
「はい。数日ぶりの再会が別れとなって申し訳ありません」
「いえ、そんなことは……」
 畏まった口調を寂しく思ったが、自分の隣にはわざわざ迎えに来てくれた第三皇子クロヴィスの姿がある。
 それを配慮して言葉を選んでくれた藤堂に感謝しないといけない。
 咄嗟のとき感情で動いてしまう自分はまだまだ子どもだ。
 それでももう今しかチャンスはないとルルーシュは藤堂をまっすぐ見据えた。
「少し、耳を貸していただけますか?」
「はい、かしこまりました」
 膝を折った藤堂にルルーシュはごくりと息を飲んだ。
 こんなにも傍にいるのに、今までになく二人の間に距離を感じた。
 それと同時に近くにいることで感じる藤堂の匂いに胸が熱くなって泣きそうになった。
「私は……藤堂鏡志朗、貴方が好きです」
 小さく呟くようなその声が彼の胸に届けばいいのに。
 傷つくかもしれない。それでも藤堂の返事を聞いて置きたかった。
 恐る恐る藤堂の顔を見れば、初めて会った時と同じように優しい顔で自分を見ていた。
「ありがとうございます。身に余る光栄です、ルルーシュ皇女殿下」
 やはり駄目だったかとルルーシュは肩が落ちそうになった。
 彼から見ればやはり自分はただの子どもにしか過ぎなかったのだと顔には出さなかったがひどくへこんだ。
 だが、続いた彼の呟きにはっと顔を上げることとなった。

「あまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ。……そう願うのは罪でしょうね」

 寂しそうに細められた目にルルーシュの胸がきゅうっと締め付けられた。
「と……」
「ルルーシュ、名残惜しいとは思うけど、もう出立の時間がないみたいだよ」
 不意にクロヴィスが発した言葉にルルーシュは言葉をのみ込まされた。
「引きとめてしまい申し訳ございません。お元気で、ルルーシュ皇女殿下」
 さっきの瞳はなんだったのだろうと思うくらいに冷静な顔をした藤堂がルルーシュに頭を下げた。
「貴方も息災で……藤堂教授」
 そんな風に頭を下げられてしまえば、そう言って別れるしかなかった。
 どうして自分は皇女で、どうして彼は一介の大学教授なのだろう。
 年も離れていなければ、同じ国に生まれていれば、立場が近いものだったら……そんな考えばかりが浮かんでしまった。

  *  *  *

「ところでルルーシュ」
「なんですかクロヴィスお兄さま」
「あのさっきの男が言っていた言葉はなんておまじないなんだい?」
「……おまじない、ですか?」
「一応日本語は学んだつもりなんだけど聞いたことがなかったからおまじないだと思ったんだ。違うのかい?」
「いいえ、おまじないですよ」
 不思議そうな顔をするクロヴィスにルルーシュはくすりと微笑んだ。
「とても優しい、口下手な彼らしいおまじないです」
 本国に帰れば離宮での閉ざされた生活が待っているだろう。
 皇帝が殊のほか可愛がっている皇女、それがルルーシュだった。
 今回日本に来たのだってルルーシュが日本のことを現地で学びたいと我儘を言ったから許されたことであり、その地で誘拐された上に殺されかけたなどとなれば皇帝はこれ以上の滞在を許さないだろう。
「……本当に聞き届けてくれればいいのに」
 憎らしげなくらい快晴な空を窓から見つめながらルルーシュはぽつりとぼやく。
「何か言ったかい?」
「なんでもありません、クロヴィスお兄さま」
 にこりと笑みを浮かべて、ルルーシュはもう一度窓の外を見た。

 たとえば今すぐ、この空が荒れて、一日でも長くあなたと居れたらよかったのに……



⇒あとがき
 補足と言う名のおまけです。
 本編に上手くおさめきれない己の雀の涙ほどもないらしい文才をどうしてくれよう。
20080702 カズイ
res

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