□双黒の御心 後編

 不意に扉が開き、黒の衣装を身に纏った集団がホールに乱入した。
 その服装はまさしくこの日本の地を奪還せんとするテロリスト集団の一つ、黒の騎士団の衣装である。
 ロイドは当然ルルーシュを背に庇った。
「我々は黒の騎士団だ。が、君たちに手を出すつもりはないからおとなしくしていてくれ」
 バイザーをしているが同じ騎士団員であるカレンはそれが扇だとすぐにわかる。だがなぜ突然現れたのかが分からない。
「卑怯だぞ!突然入ってきて生徒に銃を向けるなんて!!」
「卑怯?これはあくまでスザク君……いや、枢木スザクの足止めの作戦に過ぎない」
「藤堂さん!?」
 後から現れたのは黒の騎士団の衣装は身に纏ってはいないが、黒の騎士団のメンバーである藤堂鏡志朗その人である。
「……まさか生きているとは思わなかったよルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
 藤堂はそう言ってルルーシュを見た。
「これはゼロの手の内なのかそれとも……」
「貴方方をここに招き入れたのはこの私です」
 ナナリーはくすりと笑い、何かの機械を取り付けた携帯電話を取り出して見えるよう持ち上げる。
「……やはり君も生きていたんだな」
「ナナ、リー?」
 戸惑ったようにスザクはナナリーの名を呼ぶ。
「それを使い、ゼロを名乗ったか……声を変えているとは言え、ゼロにしては声が高いと思った」
「あら、藤堂さん、確かに私は表立ってはいませんが、私もゼロですよ」
「仮面を被ればすべからくゼロになれるぞ」
 そう言って現れたのは黒の騎士団には見慣れた拘束衣ではなく、このアッシュフォード学園の制服を身にまとったCCの姿だった。
「ほら」
 ぽんとCCが投げて見せたのはゼロの仮面だった。
 受け取ったのはルルーシュを庇うべく手を伸ばしたロイドだった。
「これ本物ぉ?」
「……何故お前が取る」
「ルルーシュ様に当たったらしょうがないでしょう」
「そいつは完全に受け入れ大勢をとっていたのにか?」
 振りかえったロイドは両手を慌てて引っ込めて恥ずかしさから顔を背けたルルーシュの顔を目撃してしまい、「あっは〜」と笑ってごまかした。
「おい、ナナリー。話はもうまとまったのか?」
「はい。とりあえずは」
「ならばあとは行動するまでだな」
 そう言うと、CCはつかつかとスザクの傍まで歩み寄り、警戒するが銃を向けられているために身動きの取れないスザクの手にそっと触れた。
「あ……ああ……―――!」
 するとスザクはがくりと膝を折り、地に両手をついた。
「……咎人らしい反応だな」
 CCはにやりと笑うとスザクから手を離すと、近くの机からおしぼりを手にとって手を拭った。
 さもばっちいものを触ってしまったと言うような風に。
「何をした、CC」
「お前も知っている日本が日本人であることや誇りや希望を奪われる原因を作った罪人にその罪を教えてやっただけさ」
 藤堂ははっとスザクを見た後、眉間に皺を寄せてCCを睨んだ。
「何故知っている」
「別に私だけではない―――ルルーシュも知っている。そうだろう、ルルーシュ」
 ルルーシュは眉間に皺をよせ首を縦に振った。
「ルルーシュ様〜、なんのことですかぁ?」
「それは……」
 ルルーシュは言葉に詰まり俯いた。
「話しぶりからして、枢木ゲンブ元首相の突然の自決の真相、と言ったところですか?」
 くすりとナナリーは笑い、ルルーシュの元まで車いすを動かす。
「ねぇ、お兄様。こんな裏切り者なんかに優しくしなくていいんですよ」
 口に出すのも汚らわしいですと天使のような微笑みを浮かべながらナナリーは言った。
「さあ、お兄様。行きましょう。優しい世界のために、私たちが作った黒の騎士団へ」
「私たちが、作った?」
 カレンが困惑した表情で呟くのを聞きながら、ナナリーはルルーシュの手を撫でた。
「お友達ごっこにももう飽きましたでしょう?お兄様」
「そうだね、ナナリー」
 くすりと笑うと、ルルーシュはロイドの手からゼロの仮面を取った。
「ゼロが命じる。藤堂鏡司朗、黒の騎士団を撤退させろ」
「先に与えた指示もお忘れなく」
「了解した」
「え?藤堂さん!?」
「安心しろ、彼が……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが俺を救ったゼロで間違いない。そして彼女もまたゼロだ」
「ええ!?」
「少なくとも、俺は彼以上に桐原公が認めるほどブリタニアを憎んでいる男を知らない」
 藤堂は黒の騎士団の面々に指示を出すと、ナナリーの車椅子に歩み寄る。
「失礼する、ナナリーくん」
「ありがとうございます、藤堂さん。さ、行きましょうお兄様」
「ああ。行くぞロイド」
「はぁいどこまでも!」
 喜々としてロイドはルルーシュの後を追いかける。
 CCはテーブルの上から今度はピザを拝借しながら先を歩く。
「お待ちくださいルルーシュ殿下!」
 ミレイがルルーシュを呼び止める。
「今までありがとう、ミレイ。もうルルーシュ・ランペルージの振りをするのに疲れたんだ。それに友達ごっこも飽きたところだし」
 くすり、とルルーシュは微笑んだ。
 それはミレイの記憶の奥に忘れられたようにあったルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの表情であった。
「あのバッハなロール頭をギタギタに刻んだらまたそのうち会おう。お前は私のお気に入りだし」
「は、はい、殿下!」
 歓喜のためか恐怖のためか、震える体でミレイはルルーシュに礼を取った。
 ルルーシュはそれを見ることなく歩きだし、その後をロイドが追いかける。
 嫌味のようににやりと笑ってミレイに手を振っていくことも忘れずに。

  *  *  *

「CCの方法は間違ってないんですが、もうちょっと軽くしてたらお兄様の本性を見て精神的に痛めつけられたんじゃないでしょうか」
 黒の騎士団のアジトの中、カレンがどのくらい後に無事に戻ってこれるか賭けていたナナリーはそう切り出した。
「そうだね。でもあいつは馬鹿だから俺の言葉は脳まで届かないんだよ。なにしろ脳みそまで筋肉でできているから」
 肩を竦ませるルルーシュ。彼がナナリーの賭けに乗ったうちの一人である。
 今はゼロの衣装を身に纏い、チェス盤に駒を走らせている。仮面は顔が知れていると言うことで、元々暑かったのもあいまって外している。
「まぁ、そうなのですか?可哀そうな人ですね。くすくす」
「そうだね。だからあの方法が一番苦痛を与えられたと思うよ」
「接触による精神感応ってところですか?どうやってるかはわかりませんけど面白い力ですよねぇ〜。あれKMFに使えないですかぁ?」
 ルルーシュの後ろに立ち、首を傾げるロイドにルルーシュはぷっと吹き出す。
「本当にお前はなんでもKMFに結びつけるな。そこが面白いが」
「なんでもじゃありませんよルルーシュ様ぁ」
「ここではゼロだ」
「はぁい、ゼロ様〜」
「CCにでも後で聞いてみろ。それよりナナリー、自決の真相を何故知っていたんだい?」
「目は見えませんが、あれは私の目の前で行われたことですから」
「……本当にあいつは馬鹿だな。呆れてものが言えない」
「ええ、ですから捨てて正解なんですよ」
「ゼロ様には僕と言う優秀な騎士がいますしねぇ」
「そうだな」
 やさしく微笑むルルーシュにロイドは感極まったのか「失礼しまぁす!」と叫びながら抱きついた。
「ほえあ!?」
「愛してますー!!」
「まぁ、ロイドさんったら……公衆の面前でそれ以上したら絞めますからね♪」
「あっは〜それは勘弁ですねぇ」

 その光景を目撃せざる負えなかった藤堂、扇をはじめとした居合わせた団員達はなんとも言えずに口を噤んだ。



⇒あとがき
 なんだかギャグ落ちな空気になりましたが、これでおしまいです。
 ロイルルだと思って書いてるのにうっかり途中で藤ルルに走りそうになったりナナリーが出張ったり普通にスザク懲らしめだったりと暴走な後編になりましたが、一応騎士団にゼロバレできたような気がしてきます。←え?
 ちなみに双黒の御心がさすのはルルーシュとナナリーが腹黒設定のつもりでタイトル決めたのですが、ルルーシュがいまいち黒くなり切れてませんね。面目ない。
20080608 カズイ
20080723 加筆修正
res

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