□縁切り 後編

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 それが嘗ての本当の名前だと告げたリーダーに誰もが口を閉ざした。
 口を閉ざしたのは彼が皇族だったからではない。
 彼が悲劇の皇子だったからである。
 誰も侵入できるはずのない離宮で母をテロリストと言うなの暗殺者に奪われ、妹からは両足の自由を奪い、視界から世界を拒絶した。
 父である皇帝に謁見を求めればその生を否定され、王位継承権を放棄した。
 その事実を隠して日本に送られ、そして土蔵の中での生活を強要されていた。
 スザクとはその時期に知り合い、最初は不仲であったのだが、親友になったのだと言う。
 藤堂とはそのスザク経由で数度会った程度らしいのだが、その美貌故に藤堂はルルーシュのことを覚えていたのだとか。
 シュナイゼルとの関係は言わずともがな皇室でである。
 どうやらルルーシュにチェスを教えたのは彼だと言う。

「……本心を言ってしまえば、別に日本でなくてもよかったし、今でなくともよかったんだ」
 俯き加減に言うルルーシュにカレンが口を開こうとした。
 だがそれよりも早くルルーシュが口を開いた。
「都合よくC.C.と言う共犯者に出会えたから俺は今、行動に移した。―――俺の望みはただ一つ、優しい世界だ」
 妹が拒絶した世界などではなく、優しい世界。
 そのためにゼロとして立ち上がった。
 まだ17の少年のその言葉は黒の騎士団のみならず、民衆の心を打ち、人づてに世界へと紡がれていったのだった。

  *  *  *

「何と言うか、アレだね」
 くすりとソファの上でくつろぐ美貌の第二皇子―――シュナイゼルは呟く。
「なんです、シュナ……兄様」
 まだ慣れぬ呼び方に若干詰まりながらも名を紡ぐルルーシュにシュナイゼルはとろけそうなほどの笑みを浮かべてルルーシュの髪をそっと撫でた。
「性質の悪いヒモと手を切ったら、見る間に血色がよくなったと言う感じだね」
「どういう例えですか」
「ふふ、そのままだろう?枢木少佐は性質の悪いヒモみたいだろう?」
「そうでしたけど……その言葉はシュナ兄様の口には似合いませんね」
「可愛いことを言う子だ」
「ほえあ!?」
 ルルーシュの身体を引きよせて抱きしめるシュナイゼル。
 仲の良い兄弟がじゃれているというのが事実だろうが、そこに垣間見えるオーラはピンクなのは見ないふりである。
「まぁ、お兄様たちったら本当に仲良しですわね」
 くすくすと笑う少女の登場にシュナイゼルの腕の中でルルーシュが暴れる。
「な、ナナリー!?」
 車いすを押しているのは咲世子ではなく藤堂だった。
「君たちは……」
「これはシュナ兄様が突然!」
「……まぁ大体想像出来てはいたが」
「じゃあ聞くな!助けろ」
「了解した」
 ふっと笑い、藤堂はナナリーに一声かけて車いすから離れると、ルルーシュの脇に手を入れひょいっと持ち上げた。
 腕の中から奪われたシュナイゼルの方は無言の笑みで藤堂を睨む。
 だが愛する弟の願いを叶えたのだから文句は言えない。なので睨むだけだ。
「そうだナナリー、学園の方は大丈夫だったか!?」
「ええ。ミレイさんにお願いしたらすごく残念そうにされてましたが、無期の休学届を受理してくださいました」
「すまないな、ナナリー。すべてが片付いたらまた学園に通えるようにするから」
「いいえ、いいんですお兄様。スザクさんがいると学園も楽しくありませんし、第一お兄様がいらっしゃらない学園はとってもつまらないんです」
「ナナリー」
 お兄様の傍が一番ですと微笑むナナリーにルルーシュの顔が柔らかく笑む。
 その笑みにシュナイゼルと藤堂は睨み合っていた視線を外し、二人を見守る。
「挨拶が遅くなってごめんなさいシュナイゼルお兄様。お久しぶりです、ナナリーです」
「ああ、久しぶりだねナナリー。立派なレディに成長していて兄として鼻が高いよ」
「まぁ、シュナイゼルお兄様ったら」
「ルルーシュと同じようにシュナ兄様と呼んでくれて構わないよ。私もその方がうれしい」
「はい。ではシュナ兄様」
 にっこりと微笑むナナリーを見て、ルルーシュは少し両方に嫉妬しながらもそれを幸せそうな笑みで見つめた。
「後コーネリアもここに来れればよかったんだけど……」
「しょうがありませんよ。姉上には姉上の公務がおありなんですから」
「そうですわ。コーネリアお姉様はゼロに、いいえお兄様に賛同してユフィ姉様と袂を別ってくれました。それだけでも十分すぎますわ」
「そうだね、ユフィはコーネリアがいなければ何もできない子だから……ちょうどいいんじゃないかな?」
 にこやかに話す兄妹三人に藤堂はふっと笑い、安全である神楽耶の元へナナリーを送るべく話を切り出すことにした。



⇒あとがき
 無駄に二分割しました(笑)
 リクエスト(※)に添えたかどうかは怪しいのですが、これでも何度も書き直してようやく書きあがったものです。どうかこれでご容赦ください。
 スザクとユフィサイドの話がかすり程度しか出せなかったのが一番の心残りです。
 でもシュナvs藤堂が書けて楽しかったですw
 リクエストまことにありがとうございました!
20080513 カズイ
※本館でのリクエスト
res

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