□断ち切る時

 どうやら自分は心の底で本気で信じていたらしい。
 スザクは技術部だから前線には出てこないのだと―――



「ゼロ、少しいいか?」
 黒の騎士団へと引き込んだ藤堂は枢木スザク暗殺の話が出た会議の後、俺を呼び止めた。
 藤堂はいくら桐原が認めているとはいえ、自分で確かめねば気になる男だ。
 ここ数日はスザクのこともあったしのらりくらりかわしてきたが、そうもいかなくなったということだ。
「一つ、どうしても言っておきたいことがある」
「なんだ」
 藤堂の言葉に俺は眉間に皺を寄せる。
 仮面をつけているから誰にもその表情は読み取れないだろうが、不機嫌さは伝わってしまったことがある。
「俺は多分、君を知っている」
 しんっと部屋を出て行こうとした面々の足が止まり、立ち上がった俺と未だ座ったままの藤堂に視線が集まる。
「気のせいだろう」
「確証はある。この数日、君の様子を見ていればな」
「……それで何が言いたい」
「断ち切ることも一つの道だ」
 つまり、俺がスザクを気にしていたから気付いたと?
 たった三度。それも顔を合わせた程度で言葉を交わしたことなどないに等しかったと言うのに。
「こうして俺のように気付く人間もいなくなる」
 そんな馬鹿な話……
「表の顔で気付かない人間はいないのか?君の瞳は」
「黙れ藤堂!」
「……だが事実だ。今すぐ断ち切れ、ゼロ」
 藤堂の瞳が真っ直ぐすぎて恐ろしく感じた。
 身体が凍りついたように動けない。

「確かに。それも一つの道だな」

 いつの前に現われたのか、部屋の中にC.C.が入り込んだ。
「あれはお前にとって障害でしかない」
「黙れC.C.」
「お前も本当はわかっているんだろう?あれは"膿"だと」
「"膿"か……そこまで言うほどだったのか?」
「ああ」
 藤堂の言葉にC.C.は頷いた。
「だから私も同じ事を言おう。断ち切れ。そして使えるものはこの際使ってしまえ」
「?」
 C.C.はそう言うと俺へと一枚のディスクを投げて寄越す。
「『紫の薔薇は蕾ごと私が守るよ』だそうだ」
「!」
 紫は皇族の、薔薇はブリタニアの象徴だ。
 だがそう結びつけるものが果たしてこの部屋に何人いるだろう。
 恐らく言った主は俺を昔それに喩えた人物―――シュナイゼル・エル・ブリタニア。
 だとすれば、蕾は間違いなくナナリーを示している。
「意外に愛されてたんだな」
「ふざけるなC.C.。何故あいつが……」
「私が知るか。そのディスクは次の作戦に役立つだろう。膿は早いうちに取り除くに限るぞ」
「黙れ!」
「……ゼロ」
 いつもとは違う優しい声音でC.C.は俺の名を呼んだ。
「私はお前の味方だ。そしてその男も、あいつも……存外味方は多い」
「判っている」
「断ち切るなら、今だ」
「……ああ」
 いつまでも引きずれない。
 俺は、ゼロなのだから。
 枢木スザクは―――敵だ!

「いいだろう。存分に利用してやろう……この"瞳"を」

 にやりと笑い、俺はマントを翻した。
「着いて来い、藤堂に扇。それにディートハルト、ラクシャータ。お前たちも着いて来い」
「はい!どこまででも」
「なんであたしまでー?」
「着いてくれば判る。お前にとって悪くない時間になるだろう」
「よくわかんないけどぉ、わかったわぁ」
「あの、ゼロ……私は……」
「休んでいろ。ナイトを討つまでの僅かな時間をな」
「ナイト……!……はい!」
 ナイトがスザクと結びついたのだろう、カレンは嬉しそうに頷いた。
 正々堂々、絶望の渦に落としてやろうじゃないか。
「行くぞ!」

 翻したマントがいつもよりも軽く感じた。



⇒あとがき
 リク作品……になるはずだったもの。
 このまま続けるとだらだら書きそうだったんで切りました。
20080314 カズイ
res

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