□偶然の出会い

 無償に泣きたくなった。
 理由なんてどうでもいい。ただ無償に泣きたくて、一人になりたかった。
 こう言うのを情緒不安定とでも言うのだろうか。
 暗い格納庫の中思わず溜息をつく。
 クラブハウスに急いで帰るのも憚られ、無頼の脚部パーツに背を預けて空を仰ぎ見る。
 深夜ということで人の居ない格納庫。窮屈な仮面は外している。

「……あれ?誰か居るの?」

 突如名を呼ばれ硬直する。
 一人がきてもいいように仮面は手の中にあったため、すぐさま仮面をつける。
「えっと……ゼロ?」
「そうだ」
「どうかしたんですか?」
 とことこと俺の元までやってきたのはこの無頼のパイロット―――朝比奈省吾だ。
 この無頼を選んだことに特に意味はない。
 ただ単純にこの無頼が一番端のほかよりも暗い位置に置いてあったからに過ぎない。
「少し一人で考えたいことがあっただけだ」
「こんなところで」
「部屋には奴が居る」
「あー……」
 どうコメントして良いのかとでも言うように朝比奈は視線を宙に彷徨わせる。
 顔は見えないが、なんとなく判る輪郭でそうしているであろう事くらいわかる。
「で、お前は?こんな時間に無頼に用、とは思えないが?」
「一応愛機になるわけですから様子を見に?」
「何故疑問系だ」
「うーん、なんとなく?」
「お前はいつも曖昧だな」
「そうでもないですけど……まぁ、そう言うことにしておきます」
「……意味がわからんな」
 ふうと溜息をつき、立ち上がる。
「どこへ?」
「表の世界へ―――しばしの休息というヤツだ」
「休息って言う感じじゃないですよ、その言い草」
 朝比奈は呆れたように言う。
「お前みたいなのには言われたくないな」
「それ千葉さんにも昨日言われたばっかりですよ」
 けらけらと笑って言うことか!

「ねぇゼロ」

 急に真面目な雰囲気になり、朝比奈は言う。
「本当は、誰かがここで泣いている気がしてここに来たって言って信じますか?」
「……気のせいだ」
 驚きに声は震えていないだろうか。
 不安になりながらも背を向けた。

「ゼロ」

 強い力に引っ張られ温もりの中。
 縋ってしまいそうな、欲しかった温もり。
 本当に泣いてしまいそうだ。

 ああ、なにもこんな日にこの男と出会わなくても―――



⇒あとがき
 不完全燃焼。
 ただ朝比奈×ゼロを書きたかっただけざます。
20070630 カズイ
res

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