□スキキス

―――カンカンカン……
 鉄の上をブーツが蹴る音が歩くたびに通路内に響く音。
―――カンカンカン……
 それは二人分。
 後者の犯人は俺で、前者の主は、

「おい」

 不意に足を止め彼が振り返る。
 怪しい黒いチューリップ型な仮面をつけた男。
 この黒の騎士団の主・ゼロ。
 不思議なことに今まで誰もこの仮面がチューリップ型であることを誰も突っ込んだことは無い。
 いや、もしかしたら影の方でこっそり言ってるヤツがいるかもしれない。でもまぁ取り合えず俺はそんなこと知らないのでひとまず振り返った彼に笑みを向けた。
「なんですか?ゼロ」
 紫のマントで隠されたその細身の身体はとてもじゃないが同性とは思えない。
 かといって彼が実は女とか言うのも絶対に無い。
 彼の性別は下世話な話だがそのぴったりとした衣装の下肢部分が証明となっているし、何より一度だけ外したことのある手袋の中の手は男の手だった。
 ブリタニア人特有の絹のような雪のような白くて綺麗な手はほんの少し骨ばってはいたけど綺麗な手だった。
 俺みたいに刀や銃、ナイトメアの操縦によって出来たタコ等とは無縁そうな綺麗な手。
 ペンダコすらないと言う綺麗な手だったのが強く印象に残っている。
「何か用があるならはっきり言え」
「用ですか?」
 別に用はない。
 ゼロを見つけたから後を追って歩いてみた。
 だけどこそこそするのもなんか変だと思い、普通に後をつけてみただけだ。
 ……ゼロが振り返るまで一切声は掛けていないが。
「自室に戻ると言うならさっきの通路を曲がればよかった。それなのに私の後をついて来たということはなにか用があったのだろう?違うか?」
 頭の回るゼロはそれとらしい理由の中から一番適切で単純な言葉を選んで言う。
 その裏には「用がないならついてくるな」という言葉もありそうだ。
 だけど俺はその辺りを一切気にせず、口を開いた。
「なんとなく?」
 あはっと笑いながら首を傾げると、ゼロの周りを包む空気が嫌そうなものに変わる。
「……なんとなくで人の後をつけるな」
「なんとなくななんとなくの理由はなんとなくあるんですよ。本当なんとなくなんですけどねー」
 ゼロは深々と溜息をつき、仮面越しに眉間の辺りを抑える。
「そう何度も"なんとなく"を使うな。聞いてて疲れる」
「あはは」
 笑う俺に、ゼロはまた溜息をついて、壁に背を預けた。
「で、そのなんとなくの理由はなんだ」
「聞いても怒りません?」
「話にも寄るな」
「んー……じゃあ言いません」
「それは私が怒るような内容だと言う事か?」
「あはは……多分」

 俺、ゼロのこと好きかもしれないんです。

 なんて言ったらゼロは無言で引きそうなイメージがある。
 俺は男で、ゼロも男だ。
 同性愛とかそういうのはよくわかんないけど、藤堂さんに対する想いとゼロに対する想いが違うことくらいは解る。
 その辺りは俺もちゃんと大人ですから。

 ココ最近ついうっかりやってしまうミスの大半はゼロを見ていたり、ゼロのことを考えていたりしてのことだ。
 あまりにおかしい自分の不調にようやく気付いて、ゼロのことが好きなのかもしれないと言う答えに行き着いた。
 "かも"ってつける辺り、よくわかんないと言いながらも自己嫌悪してるのかもしれない。
 男が男を愛すだなんて確かにおえーって感じなんだよなぁ。
 でも、ゼロならいいかなとも思えるから不思議だ。

「―――話せ」

「え?」
「はぐらかされると人は気になるものだ」
 早く言えとでも言うようにゼロは顎をしゃくる。
 仮面で見えないはずの瞳が俺をじっと見つめているような気がしてドキドキする。
 中学生の恋愛じゃあるまいし。
 俺は思わず苦笑しながら、覚悟を決めた。というより、観念したかな?

「さっきまで仮定だったんですけどね、なんか今ので確信に変わった気がします」
「そうか」
「ゼロ、俺はゼロを恋愛の意味で好きです」
 にっこりと笑みつきで言えば、ゼロはずるっと壁に預けていた背をずらした。
「なっ」
 言葉を失ったゼロに歩み寄り、仮面に手を伸ばす。
「あ、朝比奈!」
 戸惑うゼロの声。
 いつもの気高いゼロじゃなくて、可愛い声だ。

 未発達な身体から彼が幼いことは十分に理解している。
 だからこれからすることは卑怯なことだ。
「ゼロ、ごめんね」
 無理やり剥ぎ取った仮面から現われた紫色の髪。
 外した仮面の奥にあったのは日本人ではありえない色の白い肌と、紫電の双眸。
 ごくりと喉が鳴る。

 顔を隠そうとした手を抑え、口に当てていた布を剥がす。
 取った仮面が音を立てて落ち、ゼロは大きな声を出すことも出来ずに俺の腕の中でもがく。
 例えるならそう、子どものころ、何も知らずに生きたまま捕らえた虫たちのようで……
「っ!?」
 強い支配欲。
 ゼロはそれを更に強く煽る顔で俺を見ていた。
 だからキスをした。
 噛み付くような、そんなキス。
 歯列を舐めつつ、舌を絡めとる。
 角度を変えると、息の仕方がわからなかったのか、苦しそうなゼロの吐息が混じる。
 さらに混ざり合う唾液の音。
 ゼロはぎゅっと目を瞑り、カタカタと振るえている。
 流石にやりすぎかなと後悔の念が生まれようとした瞬間、かくんとゼロの身体から力が抜けた。
「おっと」
 慌てて支えると、ゼロはぎゅっと俺の腕に捕まる。
 か、可愛い!
「お、お前は」
 顔を真っ赤にしながらギッと睨むゼロ。
 や、全然怖くないから。
 むしろまたキスしていいですか?って感じなんだけど!

「そこに居るのはゼロか?」

「「!?」」
 咄嗟にゼロを腕の中に隠した俺だったけど、声の主はゼロの私室の方から現われたC.C.だった。
 C.C.は俺とゼロを見比べるとくるりと踵を返した。
「……邪魔したな」
「誤解をするなC.C.!」
 C.C.はわずらわしそうに振り返り、じっと俺の腕の中にいるゼロを観察する。
「顔が赤いし、唇が濡れたままだ。誤解じゃなくて事実だろう」
 その指摘にゼロは慌ててごしごしと唇を拭う。
 そんな力一倍拭わなくてもいいのにー。
「誤解するなというのはそっちのものほしそうな顔を止めさせてから言うんだな」
 ふんと鼻で笑うと、C.C.はつかつかと歩いてくる。
「面白そうだから私はしばらく出かける」
「好きにしていいってこと?」
「構わん」
「ちょっ、C.C.!?」
 わたわたとゼロが慌てる。
 それがまた可愛くて俺はぎゅっとゼロを抱きしめる。

 C.C.は足元に落ちた仮面を手にふふっと笑う。
「どう転ぶかはお前次第だ」
「それって俺ってC.C.公認ってこと?」
 仮面を預かり、俺はC.C.に聞いてみた。
「通るべき最大の難所は私ではない。まぁ、詳しくは本人にでも聞け」
「おいC.C.!」
「言っておくが助ける気は一切無い。精々頑張れよ」
「こ……」
 すっとC.C.の手がゼロの口を指でぴっと塞ぐ。
「素のお前をこれ以上見られたいのか?」
「ぐっ」
「それにどうせ見られたなら手篭めにしてしまえばいい」
 C.C.はどうだいい案だろうとでも言うように笑みを浮かべ、颯爽とその場を立ち去った。

「ねぇ、ゼロ。C.C.のお許しも出たしさっきの続き……」
「ふざけるな!」
 ゼロは仮面を奪うと、俺の腕を抜け出して歩き出そうとした。
 でも足に力が入らないのか、へたりと座り込んだ。
「……ぷっ」
 思わず吹き出すとゼロは顔を羞恥に真っ赤に染め上げる。
「お前の所為だろうが!」
「なんかそこまで反応されちゃうと自信持っちゃうなー俺」
「そんな自信はいらん!」
「それとも相性が良かったのかな?もう一回試していい?」
「いい大人が小首を傾げるな!!」
「それはOKの返事ととってもいいのかな」
「んなわけなっ……」
 答えを最後まで聞かずに唇を重ねた。

 そりゃね、ゼロより長く生きてる分経験はあるわけで。
 キスくらいならセックスするよりも手軽で簡単だから経験の数は多いと思う。
 その経験を思い出してもゼロほど胸を擽られる人は絶対居ない。
 ずっと閉じ込めて俺だけのものにしたいな……


「……にしても素のゼロって可愛いなぁ」
「!?」
 キスの後、荒い息を整えていたゼロが酷くショックを覚えた顔で俺を見る。
 いや、本当可愛いんだって!
 ……力説したら殴られました。痛くなかったけどね。



⇒あとがき
 非力・可愛い・おいしそうなゼロにしてみました。
 時間かかりすぎた上に上手くリクエスト(※)に答えられてないorz
 ちなみにリクエスト内容は『ゼロが好きかもしれないと気付いてとりあえず迫ってみる朝比奈とそれに対して思わず素で対応するゼロさま』なんですけど、所々しか当てはまっていない上にグダグダ。
 うう……精進します。
20071224  カズイ
※本館企画のリクエスト
res

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