□暗き淵の少年と少女

※流血シーン有

「スザク!!」
「ルルーシュ!!」
 つい先日まで親友同士だった二人は、互いの手にある銃を互いの心臓に向けていた。
 ゼロがルルーシュだったということからすでに自失していたカレンはそれを見ているしかできなかった。
 指のかかった引き金。指は凍りついたように動かない。
 瞬きさえ忘れ、カレンは二人の結末を見つづけるしかなかった。

 互いの銃が火を放つ。

 倒れゆく身体。
 崩れ落ちた肢体。
 胸元を汚す紅い血。
 流れ出すのは二人の身体―――

「ひっ」

 思わず口から飛び出す悲鳴を押さえ込む。
 からんと落ちた銃に構っていられず、視線はクラスメートであった二人を捕らえて離さない。
 敬愛していたゼロは大嫌いなルルーシュだった。
 ただそれだけの理由で彼を守ることも、彼を殺すことも、彼らを止めることも選ばなかった自分にはきっとそんな資格は無いだろう。
 それでも溢れ出る涙は止められなかった。


 不意にルルーシュが向かおうとしていた開かない扉が開いた。
 そこに立っていたのは金髪の少年。
 大きな目を丸く見開いて二人の骸を見つめる。
「枢木スザクが死ぬなんて……やっぱり孤独を選び切れなかったルルーシュは王には向いて無かったって事かぁ」
 つまらないなぁと少年は続けて呟き、カランと音を立てて何かを落とした。

 それは血塗れのナイフ。

 扉の先、ゼロが―――ルルーシュが求めたもの。
 おそらくゼロとなった理由の一つ、彼女が……
「そん……な……」
 その血は彼女―――ナナリーのものだと言うのだろうか。
 少年に外傷は一切見られない。
 ただ衣服には返り血らしきものが見受けられる。
「ん?ああ、居たんだ」
 さも興味がないとでも言うように少年はちらりとだけカレンを見た。
 その冷たい瞳はついっと外される。
「さ、帰ろう。エリア11の制圧もそろそろ終わってるだろうし」
 楽しそうに足を弾ませ、少年は消えていった。
 あの無邪気な少年の選択肢が私たちの日本奪還を阻んだ。
 ゼロの所為なんかじゃない。
 あの少年が……

 そうだ、ゼロがいない。
 ただそれだけで歩み方が判らなくなったことに気付いた。
 改めて自分が彼に頼りすぎていた事実にカレンは愕然とした。

 自分と同じ年齢。
 ましてや自分と違い純潔なブリタニア人である彼が何故ブリタニアを憎み、ブリタニアの敵となったのか。 自分は本当になにも知らない。
「……ゼロ」
 日本人の救世主。
 今は亡き時代の悪漢。
 神ではない、彼に縋っていた自分が情けない。
 カレンは銃を拾い上げ、ゆるゆると立ち上がった。

 彼の騎士として、彼を信じきれなかった自分の不甲斐なさに。
 米神に銃口を当て、引きつって上手に出来ない出来そこないな深呼吸を一つ。
「ゼロ、どうか私を―――」
 許してください。


―――ピクッ


 目を閉じようとしたカレンは僅かな動きを目にした。
 閉じられた瞼がゆっくりと開き、ゼロの身体が起き上がる。
 胸が血に紅く染まっていると言うのに―――

「……そうか、そんなことも言っていたな」
 ゼロはくつくつと笑い、その笑いは狂気じみた笑いに変わる。
「ゼ、ロ……?」
 呆然と呟いたカレンにゼロが視線を向ける。
 ゼロはゼロで閉まっていた扉の先を見つめていた。
「……カレン。やはり俺ははじめから死んでいたようだ」
「え?」
「共にブリタニア皇帝を討ちに行かないか?現状を覆す、ただ一つの方法だ」
 悪魔のような笑みを浮かべ、ようやくカレンを視界に納めるゼロ。
 さっきまで紅く染まっていた左眼は元の美しい紫色に変わり、変わりに最初の銃撃によって血に汚れていた額に羽根の痣があった。
「ゼロ?」
「俺は人の理から外れた存在。お前が望むのなら、最後まで成し遂げよう」

 ゼロは泣いていた。
 右目だけで。

 何がどうなっているのか混乱する頭。
 けれど、この数ヶ月で培った身体が反射的に差し出されたゼロの手を取った。
「契約成立だな。日本を取り返してやろう―――あの男の手から」
 無感動に呟くゼロ。
 カレンはゼロの身体を抱きしめた。
「っ……」
「日本を取り戻したら、この命尽きるまで貴方を守るから……だから……」
 だからなんだというんだ。
 カレンはくしゃりと顔を歪ませ、きつくゼロの身体を抱きしめた。
 戸惑いがちにゼロの手がカレンの背に伸び、優しくあやす。
「傍に……いさせて……」
「……ああ、いいだろう」
 弱弱しい声に、ゼロは応えた。

 生きる理由をなくして、けれど人の摂理から外れたゼロは死ねなくて。
 始めからルルーシュではなくゼロだったと言うのなら、それはとても悲しい現実。
 抱きしめて、抱きしめて、一番傍でその心を癒してあげたい。
 一度はその想いを裏切っていたとしてもそれでも傍に……

 誓いのように交わした口付けは互いに酷く乾いていた。

 愛情、いや愛憎。
 互いに別の想いがあるからこそ、二人は手を握った。
「行こう、カレン」
「はい、ゼロ」


 まだ若い二人を深淵へ誘ったのはギアスか世界か人間か……
 それは誰にもわからない。



⇒あとがき
 よくわかんない。
 とりあえず途中まで書き終わってたものを発掘したのでがりがりと書いてみました。
 うーん25のIF続編?びみょ。
20071006 カズイ
res

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