□日常の崩壊
※ごめんなさい。先に言っておきます。
千葉さんが壊れた。←手遅れな過去形
それは何てことないごくありふれた黒の騎士団内部での一日が始まるはずだった日の出来事。
私、千葉凪沙にとっても本当になんてことない一日になるはずだったのだ。
異変が起きたのはその日の朝―――
夜遅くまで続いた作戦会議にゼロは珍しくも本部で夜を過ごすことになった。
それでなくても皆彼の素顔が見たくて仕方がなかったのだ。C.C.は作戦会議に参加する意義がわからないとさっさと帰ったと言うことで部屋でも覗こうかと言う話まで出た。
それを止めたのは私たち四聖剣が尊敬してやまない藤堂さんだった。
この黒の騎士団内部でゼロの正体を知るのは藤堂さんただ一人……と言いたいのだけど、私たち四聖剣も一応知らされていた。最近、ではあるけどね。
アレを見た日の衝撃と言ったら……
「俺、当分まともに女抱けないかも」
とマジな顔で朝比奈に言わせたほどだ。
まぁ、藤堂さんに問答無用で拳骨を頂いた後で私がボディーブローを入れておいたのでこれに関しては問題はない。
朝食のためにと、湧き上がるあくびを堪えて食堂に向かった。
「おはよう」
「おはようございます、卜部さん」
卜部さんは強面に見えるが、朝比奈よりよっぽどまともな性格をしている。
仙波さんは飲むと性質悪いし、藤堂さんは最近ゼロに構いっきりだし……ゼロってずっと男だと思ってたから倒錯的過ぎるっ。
と、そう考える私もちょっとまともじゃないのかもしれないっていうのは判ってる。
ふぅ……
「朝から溜息か」
「なんか人生って色々と疲れるなぁと思いまして」
「……そうか。大変だな」
ぽんと肩を叩かれ、私は苦笑を浮かべて並んだ。
といっても朝食にしては少し遅い時間な上、昨日のこともあって人の数は少ないので直ぐに順番が回ってくる。
いつもの朝食(ごはんに味噌汁、漬物に焼き魚の日本食だ)を手に、適当な席に座る。
隣の席に卜部さんが無言で座り、両手を合わせる。
その時だった。
「……え?」
誰の呟きだったか。
食堂が急に静まり返り、卜部さんも顔を上げて後ろを振り返った。
私も顔を上げ、食堂の入り口を見る。
白いキャミソールの上からシーツを肩に載せ、ずるずると引きずる少女。
日本人とは比べ物にならない透き通るような白い肌にさらりと日本人とはどこか色の違う濃い紫にも見える短い黒髪を揺らし、彼女は口を開く。
「……どこだ?ここ」
ぼんやりとした視線に、彼女が寝ぼけているのであろうことが伺える。
彼女はゼロだ。
何故素顔をさらしてこの場にいるかは判らないけど、不味い。非常に不味い!
なにしろ朝比奈に真顔であの台詞を言わせ、卜部さんと仙波さんの言葉をしばらく奪った美貌だ。
っていうか同性なのに私も言葉を失ったくらいだ。
現在進行形で皆言葉を失い、誰もが彼女に見惚れている。
「ゼロ!」
彼女の肩を掴み、勢い良く食堂に入ってきた藤堂さんに、皆はぽかーんと口をあけた。
あの空気を読めない男・朝比奈ではなくてよりにもよって藤堂さんが失敗するなんて……
「……藤堂?」
ぽつりと呟いた後、完全に覚醒したのであろう、ゼロはワタワタと慌て始める。
想定外のことに弱いのはなんとなくゼロが女だと気付いてから判り始めてたけど可愛いわね、本当。
本当、同性なのに見惚れちゃうわ。
「あのですね―――」
だからお姉さんがちょっとだけ背中を押してあげようじゃない。
「もう別にいいんじゃないですか?私は別に構わないと思うんですけど」
「……千葉」
「ね?」
ゼロは怯えた瞳で藤堂さんを見た。
私は見詰め合う二人、ゼロの背を押した。
よろめいたゼロを藤堂さんが抱きかかえ、藤堂さんは「大丈夫か?」と声を掛けながらゼロをきちんと立たせる。
「ゼロは藤堂さんとラブラブなんだから手を出すんじゃないわよ」
私は近くにいた団員の席にあったナイフを掴み、構えた。
「はい!?」
驚くゼロの向こう側、きらりと煌いたレンズに向かって私はそれをぶん投げた。
「特にあんたよディートハルト!」
「か、カメラが!!」
焦るディートハルトとカメラの惨事に誰もが顔を青くする。
「……わかった?」
ぎろりと男どもを睨めば、こくこくと必死に首を縦に振る。
これで大丈夫でしょ。
「もうバレたんだからここで食事していったら?」
「ああ、そうする」
ゼロは苦笑し、藤堂に案内されて私の正面の席に座る。
私も席に戻ってふうと一息つく。
「ありがとう、千葉」
はにかんだ笑みに思わずつられて笑った。
すっと、戻ってきた藤堂さんがゼロの前にお盆を置き、ゼロの隣に座る。
「おはようございます、藤堂さん」
今更だがと言うように卜部さんが言う。
私も咄嗟に同じ台詞を口にする。
「ああ」
僅かに困ったような照れくさいような、嬉しそうな、まぁそんな感じの表情で藤堂さんは返事をした。
たまに食事を運んであげているだけあって、藤堂さんはゼロの趣味をわかっていた。
少な目の洋食がちょこんと載ったお盆の内容は今までのゼロには似合わないが、今のゼロにならよく合うのがわかる。
女の子は少食なのよ。うんうん。
「いつもより多い。後、牛乳はいらない」
「ちゃんと飲め」
「……鬼」
ぼそっとゼロが言うと、藤堂さんがそれに気付いて怒った。
そりゃぁもう静かーに怒るのよ。無言で青筋浮かべちゃって。あー怖い。
と、次の瞬間、藤堂さんが一大事なことをしでかしてくれた。
藤堂さんはゼロの鼻を掴んで持ち上げると、無理やり牛乳瓶を口にあてがわせる。
( う わ あ ! ! )
思わずピシリと固まった私はきっと正常だと思う。
無理やり飲まされているが故に口から溢れ出す牛乳がヤバイ液体に見える!!
「ちょっ、藤堂さん、自重!」
慌ててそう言う私はやっぱり正常だと思う。
口走った言葉があれ?な感じを覚えたとしても、ね。
「っ!?」
気付いた藤堂さんは慌ててゼロの口元を拭った。
「す、すまん」
「?」
判っていないらしいゼロはちょこんと首を傾げた。
……本当、藤堂さんが惚れこむ理由、わかるわぁ。
今時珍しいくらいに純粋なのよねー、ゼロって。
まったく。微笑ましいったらありゃしないわ。
「とにかく食え。食べきれたら俺の分のプリンもやる」
……プリン?
そう言えば藤堂さんのお盆に随分と似合わないものが有るとは思っていたけど……
「食べる!」
そう、ゼロの好物だったのね。
そしてそれで釣ると……藤堂さんナイス!
ゼロが食べ始めるのを見ながら藤堂さんも朝食を開始した。
いやぁ、黒の騎士団一のほのぼのカップル公の場に登場って、私いい仕事したわーv
* * *
「おはよーございまーす」
眠そうに欠伸を噛み殺しながら朝比奈が食堂に姿を現した。
ざっと全体を見渡し、私たちの席に気付いてぎょっとする。
ずっと女の子だって事を隠してたゼロが普通にキャミソールに、風邪を引かないようにと藤堂さんにシーツを肩からしっかり掛けられ食事をしてる。
そりゃ気付いたら驚くでしょ。知ってるからこそ、ね。
「ゼロがエロい格好してる」
と、マジな顔で朝比奈が言う。
その瞬間、食堂の冷気が二度ほど下がったのは私の気のせいではないと思う。
「……朝比奈」
「はーい?」
「ちょっとこっちに来い」
そして朝比奈は前回同様問答無用の拳骨を頂き、その後私による関節技を朝から受けることとなった。
合掌。
⇒あとがき
本館の三周年記念企画で書きました。
リクエスト内容は藤堂×ルル子で、黒の騎士団内部でラブラブほのぼの(ルルバレ済み)な小説を団員もしくは四聖剣視点でってことでした。
……ラブラブって言うかいちゃいちゃ。ほのぼのって言うかギャグ。
ルルバレ済みって言うかルルバレorz
んのぉぉぉぉぉ!!己の文才の無さに目から汁が……
仕様が無いのでおまけをつけさせていただきました。
後、千葉さんファンの方には全力で謝ります。
ごめんなさい、こんなにキャラ崩壊させて(汗)
20070811 カズイ
※あとがきは携帯用に修正