□例えばこんな出会い

 世界人口の半数以上を占める大国・神聖ブリタニア帝国。
 昨日まで日本と呼ばれていた国で暮らしていた枢木朱雀はその地に足を踏み入れた。
 エリア11。数字で呼ばれるようになったために、朱雀は日本人ではなくなった。
 イレブンと言う不名誉な名を与えられた朱雀は手荒く連行されている最中であった。

「おい」

 偉そうな声が行列の足を止めた。
 すでに暴れる気力も残っていなかった朱雀だったが、これがチャンスだと逃げ出そうとした。
「こら待て!」
 敗戦国の子どもがどうなるかなんてわかっていた。
 まだ10歳ではあったが、朱雀は日本最後の首相・枢木玄武の息子だった。
 誰かに殺されるくらいならば、自決したほうがマシだった。
 朱雀は傍らの兵士に体当たりを食らわせ、銃を奪った。
 そしてそれを自らに向けようとしたが、その前に廊下へと押し付けられ、銃はくるくると赤い絨毯の上をすべり、こつんと誰かの足元で止まった。
「くそっ」
 朱雀は苛立ちに、鎖で繋がれた両手を打ちつけた。

―――カチャリッ

 額に銃口が当てられた。
 朱雀は目を見開いて、銃口を自分に当てる人物を見た。
 ブリタニア人特有の白い肌に、対照的な黒髪を揺らす、紫苑の瞳を持つ少年だった。
「何故銃を奪った」
「ブリキ野郎に殺されるくらいなら自決したほうがマシだ!」
「このっ」
「止めろ」
 ブリキ野郎とブリタニアを表現した朱雀を兵士は殴ろうとした。
 しかし、それは少年によって静止された。
「お前に選ばせてやる。どちらだ」
 朱雀は思わず「はぁ!?」と聞き返した。
「お前馬鹿か?」
 と言っても選択肢をどちらと言っているにも関わらず一つ足りとも口にしていないのだ。
 答えない朱雀に、少年はため息をついた。
「なっ!?ため息をついたいのは俺の方だ!」
「……僕は生きたいかと聞いてやっているんだ。さっさと答えろ」
 面倒くさいと言う顔で、少年はしゃくるように銃口を動かした。
 別に朱雀は死にたくて死に急いでいたわけではない。
 躊躇はあったが、選ぶ答えは一つ。迷いは振り払った。
「生きたい」
「そうか」
 少年は銃口を朱雀から外した。
「殿下!?」
 悲鳴のような兵士の声。
 少年はにやりと笑っていた。
 朱雀はなんだ?と思いながら顔を上げた。
 銃口は自分から自分の上にいる兵士に照準を変えていた。
「こいつを放せ」
「で、ですが……」
「僕が離せと言っているんだ。聞こえないのか?」
 高圧的な台詞に、兵士たちはさっと顔を青くして朱雀の上から慌てて退いた。
「その不細工なものも外せ」
「は、はい!」
 兵士が慌てて朱雀の手錠を外した。
「お前、一体……」
「説明は後だ」
 銃口を下ろし、少年は兵士たちを見た。
「こいつは今日から僕のものだ。父上にそう報告しろ」
「「「「い、イエス、ユア ハイネス!」」」」
 兵士たちは慌てた様子で走り去っていってしまった。
 その様子はどこか少年を恐れているようなもので、朱雀は思わず首を傾げた。

「ついて来い。早く戻らないとナナリーが心配する」
「ナナリー?誰だそれ」
「妹だ」
「シスコン」
「今すぐ死ぬか?」
 銃口を向けられ、朱雀は黙り込んだ。
 本能的に悟った。
 この少年に逆らってはいけない。
 その様子を見て、少年は実に楽しそうに微笑んだ。
「さあ、行くぞ」
 少年は颯爽と歩き出す。
「あ、待てよ!」
 朱雀は慌てて少年の後ろを追いかけた。


「立ち会ったのが僕でよかったな」
「なんでだよ」
「お前は自分の行動が祖国にどう響くか判っていない馬鹿のようだからな」
「馬鹿って言うな」
「事実馬鹿だろう?お前があそこで自殺してみろ、宮殿をナンバーズの血で汚したと、ブリタニア皇帝は黙っていないだろう。エリア11は制裁の意味をこめて謂れのない虐殺をされるかもしれない」
 朱雀は己の行動の軽率さに眩暈がした。
 そんなこと考えたこともなかった。
「僕なら慣れているからな。それに……」
 にっこりと天使のような微笑を浮かべた。
「あのバッハ頭の父上と便宜上呼んでいる男が僕に逆らうなんて馬鹿なマネをするわけないだろう?」
 朱雀は思いっきり硬直した。
 悪魔のような笑顔で自国の兵士に銃を向けたかと思えば、天使のような笑顔で父親への悪態をつく。
 なんだこいつは!
 冷や汗を流す朱雀の肩をぽんと叩いた。
「これからよろしく頼むぞ、下僕」
「げ、下僕!?」
「お前は僕のものだからな」
 それは天使の笑みを浮かべながら銃口を向けて言う台詞では絶対ないと思う。
「安心しろ、僕は母上よりは優しいから」
「え゛?それってどういう……」
「言葉通りだ」
 ルルーシュは僅かに遠い目をした。
 聞かないほうが身のためかもしれない。

「そう言えばお前、名前は?」
「枢木朱雀。俺も名乗ったんだからお前も名乗れよ」
「ルルーシュ……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
 少年―――いや、ルルーシュは無表情にそう名乗った。
 どうやら皇族としての名前があまり好きではないようだ。
 父親を嫌うように。

「呼び憎い」
 嫌いならばとない知恵を振り絞り、朱雀はそう口を開いた。
「そうか?」
「ああ。だから俺はお前のことルルって呼ぶ」
「ルル……?」
 ルルーシュは首を傾げ、反芻した。
 ようやく飲み込めたのか、かあっと頬を染め、はにかんだ笑みを浮かべた。
「嬉しい、な」
 さきほどまで浮かべた作り物の表情ではない、素直なその表情。
 朱雀は不意に高鳴り出した胸をぎゅっと押さえた。
「胸が痛いのか?」
「あ、いや!……ハハハ」
 ぱっと手を離し、乾いた笑いを浮かべた。
 こいつは男、こいつは男と必死に自分に言い聞かせ、ルルーシュに向き直る。
「まぁいい、早く行くぞ……スザク」
「!……ああ!」
 朱雀は自然と笑みを浮かべ、ルルーシュの少し後ろを歩いた。


 朱雀はまだ知らない。
 ブリタニアが世界最強最大の国家でありつづけられる理由を。

 その中心に居るのが、この少年皇子―――ルルーシュなのだと。



⇒あとがき
 連作にしようかと思ったけど、私にこのルルは無理でした。
 スザクはあえて漢字で朱雀にしてみました。あはははー☆
 どうでもいいけど、少年皇子って響きよくないですか?
20070425 カズイ
20070517 加筆修正
res

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