03.変わらぬ愛を、

「やっぱり美土里の入れるお茶が一番美味しいな」
「毒が入ってなきゃ、って言う注釈が入るけどな」
「三郎は一言余計よ」
 ぺしっと軽く美土里の手が三郎の頭を叩き、庄左エ門と彦四郎は顔を見合わせて笑いあった。
 久しぶりに学級委員長委員会に顔を出した美土里の出したお茶と、委員会の予算で出された茶菓子を前に、学級委員長委員会の面々が揃っていた。
 今日のように委員会らしい仕事がない限り、生物委員を優先することに決めていた美土里は、結局冬休み前最後にようやく委員会に参加出来るようになったのだ。
「明日から冬休みかあ……生物委員は当番があるんだっけ」
「木下先輩と竹谷だけでね」
「うわ、八左ヱ門可哀想。って、美土里が当番やらないなんて珍しいな。責任感強いのに」
「委員会より課題が優先でしょ」
「くノ一教室は冬休みに実技課題があるんですか?」
「上級生だけね」
 苦笑を浮かべながら疑問を口にした彦四郎の頭を美土里は優しく撫でた。
 庄左エ門はいつもの冷静さからか、それとも実技経験豊富なは組の感からか、特に口は挟まずお茶を口に含んでいた。
「あれ?でも去年は課題内容変更してもらってただろう?」
「ちょっと気が変わってね。やっぱりプロになるなら避けて通れない道だし」
 美土里は湯呑みを置いておやつに手を伸ばした。
「それに、もういいかなって」
 ぱくりと草餅に齧りつき、もぐもぐと口を動かす美土里は、先ほどの苦笑はどこへやら、いつもの感情を読み取らせないくのたまらしい笑みを浮かべていた。

 美土里の言う課題はまず間違いなく色の実技課題だ。
 それに関しては勘右衛門も三郎も理解している。
 三郎においては同じ委員会と言うことで気を使うよう過去の委員長から口酸っぱく言われていたのもあるが、何より美土里自身三郎には素直に打ち明けていたのだ。
 一年の途中でくノ一教室に編入してきた理由も、今回のことがあるまで実技課題は全て唯一身体を許している伊作に頼むか他の課題に変えてもらっていたと言う事も。
 勘右衛門は何となくそれを察していたし、色の実技を美土里があまり好んではない事は知っていた。
 だからこそ二人は疑問に思ったのだが、美土里は今の己の心情を吐露する気はないらしく二人は早々に問い詰める事を諦めたのだった。


  *    *    *


「美土里、笑ってなかったな」
 長屋に戻る道すがらふと口を開いた勘右衛門に三郎は小さく溜息を吐いた。
「……笑えるわけねえだろ」
「もういいってことはさ、何かあったのかな……生物委員で」
「……勘右衛門、事情知らないのに妙に核心ついてくるな」
「そりゃあ三郎にばっかり相談するのは気に食わないけど、俺も普通に男の子だしなあ」
「あ?」
「ずっと見てたらわかるってこと」
 照れたように言う勘右衛門に三郎はぴたりと足を止め言葉を反芻する。
「はあああ!?え!?なんで!?いつ!?私、全く気付かなかったんだけど!」
「三郎驚きすぎだから」
 苦笑した勘右衛門はうーんと小さく呟いた。
「きっかけは二年生の時かな……急に笑うようになった瞬間可愛いなって思ったんだけど……気付いたのは四年生の時だな」
「四年って……」
「うん。だからわかったんだけどさ」
 思いだすように目を細めた勘右衛門に三郎は眉間に皺を寄せた。
「それで叶わないんだって分かったから、俺は友達でいる事を選んだんだ。美土里が幸せなら俺は幸せだよ」
「勘右衛門……」
「だからさ……原因が八左ヱ門かどうかちょっと探りに行こうと思うんだけど、どうする?」
 へこりと笑みを作った勘右衛門に三郎は頬を引くつかせた。
 綺麗に隠した負の感情が逆に恐ろしいほどの普段通りの笑みは、三郎の顔の本来の持ち主である不破雷蔵が怒った時よりも恐ろしかったのだ。
「いかせていただきます」
「よし、じゃあ八左ヱ門の部屋に乗り込むぞー!」
「おー……」
 普段通りであれば悪ふざけをするのは自分の役目であるが、今日の勘右衛門は三郎には未知の生き物のように思えた。
 それくらいに勘右衛門は怒っても、ここまでは怒らない。
 それほどまでに美土里を好いているんだと思うと、三郎はどこか嬉しくて誇らしかった。
 三郎にとって美土里は手のかかるペットや妹のような感覚で、勘右衛門のように美土里に恋心を抱くことはなかった。
 恐らく過去の委員長はそう言う点を見ても三郎に美土里を任せていたのだろうと感じた。
「八左ヱ門ー!」
 スパーンッと八左ヱ門の部屋の戸を開いたかと思うと、勘右衛門は部屋の中へと乗り込んだ。
「勘右衛門!?」
「お前ちょっと殴らせろ」
「はああ!?」
 おかしい。美土里が諦めるに至った理由を探るのではなかったのだろうか。
 三郎は思わず視線をどこか遠くへやりかけたが、八左ヱ門が美土里を傷つけたのはまず間違いないだろう。
 いつだって美土里の心を支えているのは自分ではなく伊作だが、今回伊作は見守る事に決めたのだろう。
 いくら友達とはいえ、三郎にとって優先すべきは八左ヱ門より美土里である。
「八左ヱ門私にも殴らせろー」
「ふざけんなお前ら何なんだー!!!!」

(変わらぬ“愛”を、君に捧ぐ)



⇒あとがき
 学級委員コンビが大好きだー!!!!!
 と言うわけでまさかの勘右衛門→夢主でした。本当なら三郎にしようかと思ったんですが、三郎は友情路線に押さえました。
 うふふ、竹谷が不憫であればある程なにかがたぎってきますv
20100812 初稿
20220826 修正
res

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