04 黒の皇子と銀の興味

 ロイド・アスプルンドにとって、最初はただの興味だった。

 第十一皇子・ルルーシュはまだ10にも満たない子どもでありながら、第三皇子・クロヴィスにチェスで負けを知らないという。(手を抜かれて数度勝ったことがあるらしいが、あれは勝負ではないと本人が言った)
 そんなルルーシュに興味を持ったシュナイゼルがルルーシュにチェスの相手を持ちかけた。
 当然ながらルルーシュの答えは是であった。第十一皇子という立場の少年は断れないことを知っていた。
 忙しいと言うシュナイゼルの変わりにチェスが強いという少年を見にアリエス宮に迎えに行った。
 戦姫とも呼ばれたマリアンヌ皇妃に興味があったというのが一番の理由ではあるのだが、会ってみてロイドは思った。
 この少年は面白そうだと。

 話してみれば妙に腰が低い皇子だと思った。
 それは己の母が庶民の出であり、ロイドが第二皇子の客人だと言うことを踏まえての態度だとすぐに分かった。
 しかも彼はシュナイゼル以上に仮面を被り、また使いこなす。
 その綺麗に飾られた仮面を剥ぎ取って歪んだ顔を見てみたいとも思ったが、さすがにそれを皇族相手にするわけにはいかない。ロイドはきちんと自粛した。

 もう二度と会うことはないだろうとなんとなく頭では思ったが、また会う。そんな予感もあった。
 そして再会したのは半年後の舞踏会。
 隣に可愛らしい娘を連れたルルーシュは、表情を曇らせた少女になんでもないという態度をした。
 レディに対してそれはどうだろうとは思うが、生憎ロイドはそんなことは気にしない。
 自分を覚えているかは分からないが、一応声を掛けておくかとロイドはルルーシュに声を掛けようとした。
 しかし、少女は突然騎士の目になりルルーシュとの間に立った。
 その瞬間に思ったのは、この少女だからルルーシュの傍に立てたのかと思った。

 二人きりになって話したとき、ロイドは一度だけ道化を止めた。
 だがそれでもルルーシュは胸の内を吐露しなかった。
 それどころかロイドの目が綺麗だと突拍子のないことを言い出したのだ。
 ブリタニア皇帝がマリアンヌ皇妃に唯一贈った青薔薇よりもと。
 正直笑い話になってしまったが、それがまたロイドの興味を引いた。
 まだ幼い少年は自分をよく分かっている。
 まるで第三者であるかのようにルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを見ていた。
 だからこそKMFに興味を示した。
 非力な自分でも、いつかは戦地に立つかもしれないとの自覚を持って。

 だからこそロイドは彼を自分の屋敷に招いた。
 とは言え自分も忙しい身、月に一回会えればいい方で、それほど濃い付き合いをしたわけでもなかった。

 唯一言えるとすれば、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはロイドが唯一興味を示している人間だった。


「マリアンヌ皇妃がテロに殺されたって」


 それは突然研究所にもたらされた情報。
 ロイドはそれに思わず反応し、試験管を落としてしまった。
「ちょっとぉ、なにしてんのよぉ〜」
「やっちゃったぁ」
 ロイドは笑う。
 どうせ中身は空だったのでたいした事はない。
「私片付けます」
「そうしちゃってぇ。ロイドじゃ余計な仕事増やすだけだもん」
 褐色の肌に落ちた髪を後ろへと流しなおし、ラクシャータはうざったそうにロイドを見る。

 テレビをつけてみれば、マリアンヌ皇妃がテロに殺されたと言う報道が流された。
 皇女も怪我を負ったという知らせだった。
 もう半年以上も会っていないルルーシュに関しての報道はない。
 ロイドはほっと息をついた。

「あんたが人間に反応するなんて、珍しいじゃなぁい?」

 ラクシャータの言葉に、ロイドはいつもの笑みを返す。
「あはー」
「誤魔化すのぉ?」
 ムカツクとラクシャータは眉間に皺を寄せた。
 自分とルルーシュの交流を知る者は少ない。
 ルルーシュの身近にいた人物たちのみ。
 長くも短い付き合い。
 それでも自分はルルーシュを守りたいと思うようになった。
 でも、それが終わりの合図だった。

「"カナシイ"ねぇ」

 冷めた言葉。
 ああ、どうして傍にいられないのだろう。
 どうして彼の望む騎士になれないのだろう。

「ロイド、あんた……」
 母という後ろ盾を亡くした少年は一体これからどうなるのだろう。
 妹は重症だと言うし。
 マリアンヌの後見をしていたアシュフォード家も落ちていくだろう。
「第三世代はもう終わりだね」
「っ……ってそこなわけぇ!?」
「だってそうでしょ〜?あれはマリアンヌ皇妃のためにつくられたんだよ?」

 嘘。
 本当はルルーシュを思って寂しくなったのだ。
 だがそんな様子など見せず、「第三世代〜」と呟いた。
 だから誰も気づかなかった。

 この道化男が第十一皇子に懸想していたなんて。
 本人も、周りも。誰も。


 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは遠い異国の地でその命を散らしたと言う。


「あー、やっぱり"カナシイ"ね」

 誰が想像するというのだろう。
 ロイド・アスプルンドがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの望む騎士になりたいと思っていたなんて。
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの望んだ騎士がロイド・アスプルンドだったなんて。

 いや、誰も知らなくていいのかもしれない。
 ロイドは笑った。
 かの黒の皇子を想いながら。



⇒あとがき
 はい、これにて終了☆
 ロイドはずっとルルーシュを想うのです。
 こんな二人が再会したらどうなるんじゃろう。くふふ。
20070415 カズイ
res

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