.5 黒の皇子と銀の考察
深い深い綺麗な濃い紫色の髪が僅かな動作でさらさらと動く。
小さな色の白い手がページを捲ってはほんの少し呼吸をするのは彼の癖だろうか?
淡く美しい紫電の双眸はじっと文字の羅列を追いかけ、時折長い睫を瞬かせるのみだ。
こちらを見る様子は一切ない。
この美しい少女のような美貌を湛えた少年はこの書庫の持ち主であるアスプルンド家の長男坊ロイドの学友の弟である。
アスプルンド家が爵位を賜る神聖ブリタニア帝国の皇族に繋がる学友シュナイゼル・エル・ブリタニアはロイドにとっていい意味でも悪い意味でも"よい学友"である。
第二皇子という立場でありながらお茶目をしてしまったときの生贄は大抵ロイドである。
そのお返しは研究費用の上乗せやら貴重な資料の提供なのであまり文句は言えない。
その弟である彼ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは第十一皇子。皇位継承権は十七とそれほど高くはないが、それでも皇子は皇子。
まだ爵位を受けていないロイドにとってはシュナイゼル同様近いようで遠い存在であるはずだった。
今から半年と三ヶ月ほど、シュナイゼルを通じて出逢った二人は半年の空白を空けて再会したばかりである。
ロイドが休日の日に合わせてルルーシュがロイドの家に来てこうして本を読む。
ただそれだけだ。
だが客人であるルルーシュをホスト側のロイドが一人にして置けるはずもなく、すべて読み終わっている書庫の中でロイドはすることもなくソファに沈み込むしかなかった。
パタンと本を閉じ、ふうと息を吐く。
その表情はシュナイゼルとチェスをしていたときの表情とは違う、子どもらしい晴れ晴れとした顔だった。
「楽しいですかぁ?殿下」
「ロイドの勧めてくれたものは判りやすくて助かる」
笑みを称えて言うルルーシュだが、判りやすいと言っても7歳の子どもにわかるのだろうかと半信半疑で選んだものだ。
とりあえず専門用語が多かろうと少なかろうと解釈つきのものを選んで渡しただけだ。
「あっは〜、光栄ですぅ」
「ロイドは退屈じゃないか?」
「退屈と言えば退屈ですよぉ」
「すまない」
しゅんとなったルルーシュにロイドは「あは」と彼らしく笑った。
この少年は本当に二つも三つも先のことまで考えて口を開く。
一見ただ退屈にさせていることを謝っているようで、本当はロイドの事情もわかっての謝罪である。
閃光のマリアンヌの息子だからとか
学友シュナイゼルの弟だからとか
ブリタニアの皇子だからとか
すべて取り払ったとしても、この少年は面白い。
「次からはお菓子でも持って来よう。そしたらロイドも時間が潰せる」
いい事を思いついたと楽しそうに微笑むルルーシュ。
考えは安直ではあるが、この少年のことだ、きっと手作りを持って来てくれることだろう。
「できたらプリンがいいですぅ」
「プリンか……うん、やってみる」
ほら、
「ありがとうござまぁすv」
やっぱりそうだった。
この少年との会話は退屈しそうにない。
こちらも二手三手先のことを考えながら喋るともっと楽しい。
ああ、どうして皇帝は気づかないのだろう。
この少年の身に秘められた大いなる才能に、可能性に。
あんな箱庭に閉じ込めておくのは勿体無い!
ロイドの心は少しずつ変わり始めていた。
それはいい方向にも、悪い方向にも―――
⇒あとがき
ロイドさん、ルルーシュの可能性に気づくの巻。
こういうの良くないですか!?
私は好きです。(えばりんぼう)
20070418 カズイ