02 黒の皇子と銀の相棒
シュナイゼルのチェスの相手をするようになって半年。
ロイドと再会することは一度としてなかった。
シュナイゼルが忙しいためもあるだろうが、ロイドもまた忙しいのかもしれない。
技術部とはいえ軍部に入る事が決まっているためだろう。
それはシュナイゼルの口ぶりからもわかっていた。
ルルーシュは少し寂しいと感じていた。
あの笑いがとても懐かしいのだ。
特に、これほどまでに退屈で仕方ない社交界の場など。
本来ならば、ルルーシュは主催が父のものや、招かれてもいないものに参加する必要などないのだ。
だが今回ばかりは仕様がない。
主催がアシュフォード家とつながりのある家だからだ。
招かれたアシュフォード家の娘・ミレイのエスコート役としてルルーシュは参加することとなったのだ。
継承順は十七と低いが、それでも皇族に代わりはなく、ルルーシュは賓客扱いでうんざりだった。
「ごめんなさい、ルルーシュ殿下。今日はわがままを言ってしまって」
「いや、気にしなくていい」
一つ年上であるがゆえにルルーシュの気持ちを読んだのか、ミレイはルルーシュに謝罪した。
付き合いはそれほど深いわけではないが、ルルーシュはこの少女のことを気に入っていた。
ベタベタするわけでもなく、こう言う場でユーフェミアにコーネリアの目が光っていない限りパートナーを買って出てくれるのだ。
皇族に縁のない姫への牽制を買って出るほどに強い意志はあるが、まだ8つの少女。
自分のように上手く仮面を被れないようだ。
だからこそ、今回の話を受け入れたのだ。
母のためでもあり、強くあろうとする少女のために。
「ルルーシュ殿下ぁ?」
少し間の抜けた声に、ルルーシュは驚いた。
「あ、やっぱり〜。お久しぶりですねぇルルーシュ殿下」
顔を上げれば、正装した銀の髪の青年が立っていた。
半年前に会ったときよりも少し背が伸びているかもしれない。
ミレイは当たり前のようだがすっと二人の間に立つ。
さりげなく微笑みながら。
「失礼ですが、どなたです?」
彼女はどうやら彼の笑みを怪しいと感じ取ったらしい。
ルルーシュは思わず笑ってしまった。
確かに彼の笑みは自分にとって落ち着くものではあったが、他者から見れば道化のそれである。
怪しまないほうがおかしいのだ。
「ミレイ、大丈夫だよ。彼はシュナイゼル兄上の学友だ」
「え?そ、それは失礼しました」
彼女は慌てて礼をした。
己の非も詫びて。
だがそれを彼は必要に感じなかったようだ。
「お久しぶりです、ロイド」
「あっは〜覚えててくれたんだぁ」
「ええ、もちろん」
嬉しそうに笑う彼に、ルルーシュは笑みを返した。
「ミレイ、すまないが席を外す」
「お気をつけて、ルルーシュ様」
「わかっているさ」
ルルーシュは臣下のように頭を下げたミレイに優しい眼差しを投げかけた。
二人は人込みから離れるよう、テラスへと出た。
月灯りと闇の世界は酷く混迷で、背後の賑わいなど夢幻のように感じてしまう。
ああ、まるで自分のようではないか。
「随分と可愛らしい騎士をお連れですね」
「彼女は母の後見をしてくれているアッシュフォード家の娘です」
「アッシュフォード……ああ!KMFの」
やはり彼の頭の中はKMF+世界で世界がオマケのようだ。
「KMFと言えば、また研究が進んだようですね」
確か第四世代の公式発表は間近だと言われているはずだ。
「殿下も相当お好きですね」
「専門家ではないですから詳しくはありませんが、興味はありますよ」
「……いずれ自分も乗るかもしれないから?」
道化が解けた。
開かれた眼差しが、ルルーシュを射抜くように見つめる。
見透かされたようなアイスブルーの瞳。
怖いと感じるよりも、綺麗だと感じた。
「あっは〜……さすが殿下。僕じゃ読めないや」
「あ、失礼。少し考え事を」
「この状況で?」
呆れたようにロイドは問い返した。
先ほどの剣呑さはなく、また道化に戻っていた。
それはそれで少々残念だ。
「綺麗な瞳だと思ったんです」
「瞳?」
「はい、青い薔薇よりもずっと……」
父から母へと贈られた庭の青い薔薇。
父から贈られたものだと思わなければ純粋に美しいと思う。
ロイドはただきょとんとルルーシュを見つめる。
静寂が心地よい。
ルルーシュは微笑み、もう一度言った。
「青い薔薇よりもずっと綺麗な瞳です」
青い薔薇がどんな意味を成すのか、ロイドにはわからなかっただろう。
それでも、ルルーシュの言葉はあまりにも素直すぎて、ロイドには笑っていた。
「くくっ、あは」
「おかしな事をいいましたか?」
「いーえー?」
とは言うものの、ロイドは手摺に上体を預け笑い続けている。
ルルーシュはどうしていいものかわからず、とりあえず手をぐっと伸ばしてロイドの背を撫でた。
苦しそうにも思えたからだ。
「ありが、ひっ、とござ、くく……ふは」
ダメだこれは。
思わずルルーシュは思ってしまった。
しばらくしてようやく笑いの収まったロイドは、ルルーシュにこう言った。
「今度うちに来ませんか?殿下の好きそうな本一杯ありますけど」
ルルーシュは迷ったが、許可が下りればと答えた。
本心は「行きたい」ではあるが、ブリタニア皇族という地位がそれを安易に許さない。
ルルーシュは己をよく分かっていた。
「ああ、最後の曲だ」
ふと、ロイドはそうルルーシュに告げた。
ミレイには申し訳ないことをしてしまった。
話はあちらからとは言え、パートナーを務めると言ったのは自分だ。
室内を見れば、主催の男性に相手を願われる幼い少女というアンバランスな姿が見えた。
可愛らしいそれに人々は注目し、こちらには気づいていないようだ。
「ルルーシュ殿下、お相手願えますでしょうか」
おどけて言いながら手を差し出したロイドに、ルルーシュはその小さな手を重ねた。
「よろこんで」
母やナナリーのお陰で女性パートもわかる。
まだ少年であるルルーシュには男性パートでなければ!という意識は低かった。
少しでも長く彼と楽しい時間を過ごしたい。
ただそれだけだった。
そしてロイドは悟っているこの皇子を気に入った。
そう、それだけの話だったのだ。
人々は優雅に踊る。
いずれこの国を滅ぼすであろう黒の皇子が、国に剣を向ける銀の騎士と踊っていたなど知らずに。
⇒あとがき
大好きな設定はもりっとつみ込みます。
嫌いな方はこの辺で退避をお勧めします。平気な方はお次へごー!!!
ちなみに、タイトルの相棒はダンスのパートナーと共犯者ってのを掛けてます☆
↑うざいね(笑)
20070415 カズイ