03 黒の皇子と銀の審判

 可愛らしい雑貨が並べられた店の硝子の前にその男―――ロイド・アスプルンドは立っていた。
 白衣を身にまとったいつもの姿に手土産にと購入したプリンを片手に持ち、お気に入りのメリーさんの羊を鼻歌を歌いながら18時になるのを彼にしては大人しく待っている。
 そろそろ帰ろうかと言うそんな時間には風変りに映る様子に人々はロイドに一度は視線を向けるが、関わるまいと目を逸らす。
 ロイド本人はそんな視線をまったく気にせずただ大人しく、ルルーシュの登場を待つ。
「……お前、いつから待ってるんだ」
「で……」
 殿下ぁ!と叫びそうになった口が途中で動きを止め、期待に満ちた表情が残念そうなものに変わる。
 ロイドに声を掛けたのは藍色の髪を束ねた女だった。服装は質素なスーツで、さして目立つ風ではない。
「残念だったな、待ち人ではなくて」
 ロイドに声を掛けた女はロイドを嘲るように笑うと、ちらりと手土産に視線を移した。
「私にはなさそうだな。まぁ今回はアレを三枚約束したことだしよしとするか」
 自分には理解できない言葉をつらつらと並べると、女はロイドに向きなおった。
「私はあいつ―――ルルーシュの代わりにお前を迎えに来た。ロイド・アスプルンドだな」
「そうだけど……君はあの方の何ぃ?」
「質問はすべて後だ。ここに来た以上覚悟はあるとみなす。無駄話する時間が惜しいからさっさと行くぞ」
 女はくるりと背をロイドに背を向けるとすたすたと歩き出す。
 人波をすいすいと抜け、待たせていたのであろう車に先に乗り込むとさっさと乗れとでも言うように顎をしゃくった。

「P-3、出せ」
「はい、かしこまりました」
 女がそう言うと、運転手はそう言って運転を再開した。
 機械のような返答であることに気づいたロイドだったが、それよりもさきほどの質問の続きだとばかりに、隣で背もたれに体重を預けた女を見る。
 女は掛けていた眼鏡をはずし、鬘だったのだろう藍色の髪をずるりと剥ぎ取った。
 現れたのは透き通る若草色の長い髪だった。
「外に出るのはこれだから面倒くさいな。さきほどの回答だが、私はあいつの共犯者だ」
「共犯者?」
「あいつは言わなかったか?修羅の道だと」
「言ってたけどさぁ……それと君がどんな関係なわけ?」
「修羅の道を歩くにはそれ相応の力が必要となる。だがあいつには力がなかった」
「それを君が与えた、と?」
「話が早くて助かる。つまりはそう言うことだ」
 馬鹿にするように女は笑った。
「私とあいつは契約によって結ばれた共犯者。安心しろ、お前の敵には回らないさ」
「一応安心しておくことにするよ」
「そうしておけ。ああ、それからこれをつけろ」
 そう言って女が差し出したのは黒いアイマスクだった。
「なんで」
「忘れるな。お前はまだあいつに試されている途中だ」
 そう言って女はさっさとしろと手を突き出す。
「わかったよ」
 渋々ながらロイドは女が差し出した黒いアイマスクを装着した。
 それを確認すると、女は座席に深く背もたれた。

  *  *  *

「すまない、遅れた」
「あ、いえ。何かあったんですか?」
「少々表でトラブルがな。……大した問題ではない」
 予定より少し遅れたが、始めよう。
 ルルーシュはゼロの仮面を改め、作戦会議の開始を宣言した。
 会議の内容事態は数日後の作戦の補足であり、それほど大した内容ではない。
 新たにディートハルトが入手した情報を元に主にゼロが立案をし、それに関してそれぞれの立場からの意見が付け加えられる。
 緊急時に押し迫られたものではないのだから、所詮その程度で済んでいるのだ。

「では藤堂、それで進めてくれ」
「了解した。……ところでゼロ」
「なんだ」
「今日は何かあるのか?」
 藤堂に時間を気にしているようだがと言われ、思わず動作が硬直する。
 聞いてはいけないことだっただろうかとだれもが思ったが、誰かが何かを言う前にゼロが先に口を開いた。
「まだ決定事項ではないが……黒の騎士団に新しい幹部を迎える予定だ」
「新しい幹部!?」
「何故この時期に?」
「……会えば判る」
 説明をしようにも、はっきりと今のロイドの立場を知らないルルーシュはそれを口にすることが出来ない。
「C.C.みたいなやつじゃねぇだろうな」
 玉城は言外に"愛人"と含んでいたのだが、その噂を知らないルルーシュはただ仮面の下で眉間に皺を寄せた。
「昔私が世話になった男だ。私のKMFの知識は彼から学んだと言っても過言ではないほどKMFの知識には富んでいる」
「げっ、おっさんかよ」
「君の昔の知り合いと言うことは日本人ではないのだな」
「そうだ、日本人ではない。それから玉城、彼はおっさんではない。……まぁシュナイゼルと同じ年のはずだからいい年に変わりはないだろうが」
「シュナイゼルと同じ年って、確かにいい年ですよね」

 カレンが同意した瞬間、皆が瞠目した。
 皆と言うのはもちろん言った当のゼロとカレン以外である。
「……何?どうしたの皆」
 不思議そうにカレンが周りを一瞥する。
「若い方ではあると思うが、何をそこまで驚く必要がある」
「ゼロ、私たちが驚いてるのはそこではありません」
 はっとまっさきに我に返った千葉が口を開いた。
「驚いたのはゼロと紅月の発言にです」
「私たちの?」
 ルルーシュは何かおかしなことを言っただろうかと考える。
「シュナイゼルって確か30近いですよね。もしかしてゼロって俺たちが想像する以上に若いのかなぁって」
 苦笑して千葉の言葉を引き継いだ朝比奈にルルーシュは再び硬直した。
「シュナイゼル殿下の御年は確か……」
「29よぉ。あいつと同じ年だしぃ……んー?」
 記憶を探ろうとしたディートハルトにラクシャータが告げる。
「どうしたんですラクシャータ」
「ちょっと嫌ぁな予感がするんだけどぉ」
 ラクシャータは眉間に皺を寄せ、言葉を続ける。
「でもあいつ人間嫌いだしぃ……聞くけど、そいつプリン大好きなKMF狂のブリタニア伯爵ぅ?」
「そんな人物が他にいないならそうだな」
 心底嫌そうな顔になったラクシャータにゼロはくすくすと笑い始めた。
「ちょっとぉ、笑い事じゃないんだけどぉ」
「いや、あいつのプリン好きは衆知公然の事実だったと知ってな」
「別にぃ……同じ研究室に所属してた人間なら誰だって知ってるわよぉ?」
「そうか」
 どこか懐かしさを含んだ言葉に、ラクシャータはキセルを揺らしながら、微笑んだ。
「なぁんとなくわかったわ、ゼロの正体。この考えが当たってるならプリン伯爵を黒の騎士団に入れるの賛成するわぁ」
「むしろ反対しそうな気がしていたんだがな」
「ん〜、あの日あんたが死んだって聞いた時のあいつの顔、さすがにからかえなかったからねぇ」
「そうか、随分と不要な心配をかけさせてしまったんだな」
 ラクシャータの言葉にゼロは顔をわずかに俯かせた。
「話が見えねぇ!つまり、お前ら知り合いだったってことか!?」
「直接会ったことはないわよぉ。それに、私が知ってるのはゼロ本人じゃなくてゼロのお母様の方だしぃ」
「ゼロのお母さん!?」
 カレンがその言葉に反応を示す。
 ほかの面々も普段は一切聞いたことのないゼロの家族の話に興味があるらしく、聞く耳を用意している。
「どこまで話していいかわかんないし、あんたが話てくれるぅ?」
「はぁ……」
 ゼロは知らないとでも言うように話を渡してきたラクシャータの気遣いに感謝しつつも思わずため息をこぼしていた。
「私の母はとても美しく、とても強い方だった。もう何年も前に亡くなった人ではあるが、KMFとは深い関わりのある人だからラクシャータも知っているんだろう」
「殆ど内緒なわけねぇ」
「……そうなるな」
 すまないとゼロらしくない弱弱しい声が謝罪を口にした。
「キョウト六家がゼロを認めたのもわかったしぃ、後はあいつが来る覚悟を決めるだけねぇ〜。で、いつ来るの?」
「今C.C.が迎えに行っている。問題がなければもう間もなく到着するだろう」
「俺らに了承なしかよ!」
「幹部に迎えるのはあくまで予定だ。あいつにその気がなければ……」
 ギアスを使い、すべてを忘れてもらう。
 黒の騎士団のことも。
 ゼロのことも。
 ルルーシュのことも。
 幸せだった思い出もすべて―――
「あんた、意外にあいつのこと信用してないのねぇ」
 それを口には出さずに飲み込んだゼロにラクシャータはそう言った。
「私の正体を知っていてなおその言葉を言われるとはな」
「……悪かったわ」
 ラクシャータはバツが悪そうに煙管を口に咥え、目を反らした。

(それでも、プリン伯爵くらいは信用してるとおもっていたんだけどねぇ)



⇒あとがき
 なんだか収集がつかなくなってきたのでラクシャータで落しておきました。
 もちっと続きます。すみません鈍筆でorz
20080622 カズイ
res

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