05.見守る人
グランドに一人残り、いつものようにクリスに与えられたメニューをこなしていた栄純はふとため息を漏らした。
体育の時間、クラスでも有名な胸の大きな少女が走った後に息を切らしている理由が良く分かった。
運動をする分に胸はとにかく邪魔なのだ。
押しつぶしているが故に分かりにくいが、栄純の胸は今現在一般的に言えばCと言ったところだ。
しかもサラシ代わりの包帯が落ちないよう気を使ってさらに邪魔さのレベルを上げていた。
「明日に治ればいいんだけどな……」
はぁと溜息をつき、肩を落とした。
「いかんいかん」
首を横に振り、更に両手で頬を叩いた。
「残りのメニューこなさなきゃな」
よしと気合を入れなおし、栄純は練習を再開した。
* * *
少し離れた場所、その様子を見ていた人物が居た。
栄純に見つからない離れた場所からじっとそれを見つめていた人物とは、栄純にメニューを与えたクリス自身である。
今日の栄純は様子が可笑しかったとルームメイトである後輩たちから聞いたクリスは栄純を心配して様子を見に来たのだ。
確かに様子はおかしいし、どこか調子が悪そうにも見える。
今日は声を掛けて止めさせるべきだろうか。
しかし自分が一年間続けろと言ったメニューを止めろといって栄純は止めるだろうか。
答えは五分五分と言った所だ。
クリスに認めてほしいが故に止めないか、クリスに言われたから止めるか。
「あっれ〜、クリス先輩?」
どうしようか迷っていると、背後から声が掛かる。
驚いたクリスが振り返った先に居たのは栄純と同室の増子と倉持である。
二人とも手にはコンビニの白い袋があるが、二人仲良くこんな時間にコンビニに行く奴らだっただろうか。 クリスは怪訝気に二人を見やる。
「ひゃっは、あいつ心配して見に来たんすか?」
「一応な。……お前らもそうなのか?」
なんとなくそんな気がしてクリスが聞くと倉持はからかうような笑みを引きつらせ、増子は照れたように頬を染めた。
どうやらそうだったようだ。
「練習中に不調を訴えていたそうだが、大丈夫なのか?」
「あー……」
倉持はちらりと栄純に視線をやり、曖昧に笑った。
「ま、明日には元に戻ると思いますよ」
増子は眉間に皺を寄せながらこくりと頷いた。
……訳がわからない。
クリスも思わず眉間に皺を寄せながら二人を見る。
どうやらこの二人は何か知っているようだが言うつもりはないようだ。
「ふんぬあぁぁぁぁぁ!!!」
グランドで奇妙な叫び声を上げる栄純に思わず溜息をつき、クリスはその場に背を向けた。
「……止めないのか?」
「元気そうだからな」
増子の問いにそう答え、クリスは寮へと足を進めた。
「ま、確かに元気っちゃー元気だよな」
倉持は笑いながら、その後を追う。
一度だけちらりと心配そうに振り返った増子もその後を追う。
明日、すべてが元に戻れば一件落着なのだが―――
世の中そんなに甘くない!
⇒あとがき
ひぃ、うっかり連載の存在忘れてたよorz
本当は(作中の)明日になる前にもう一個ネタを入れたかったけど、それはまた今度にしよう。うん。
20070907 カズイ
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