03.プリン王子

 何か思い出す節はないか?
 倉持にそう言われたが、栄純に思い当たる節は一切なかった。

 一先ずサラシ代わりに包帯を胸に巻き、誤魔化すことにした。
 巻くのには苦労したが、倉持のお陰で助かった。
「おはよう。今日は先輩たちと一緒なんだね」
 いつものように近付いてきた春市が栄純の正面、増子の隣に座った。
「お、おう」
 挙動不審に返事をした栄純の横腹を倉持が殴った。
「うぐっ、てめ……」
「あやしすぎんだよおまえは」
 小声でそう言われ、栄純は「うっ」と詰まった。
 増子は増子で機械のようにもくもくと朝食を摂っている。
 というよりも本当に機械的作業だ。
「……?」
「なんでもねぇよ。こういう日もあるってだけだ」
 倉持は栄純の代わりにそう言って食事を再開した。
 栄純も無言で食事を再開するしかなかった。

 何故こうなったのかわからない以上、元に戻る方法もわからない。
 とりあえず一日経って戻らないようであれば、大人であり、女性である副部長の礼に相談しよう。そう決めたのだった。

  *  *  *

「ひゃー!」
 何時ものように右手の壁を意識したシャドーの練習中、栄純はその奇声を上げて座り込んだ。
 一体なんだと視線が集まる中、栄純は立ち上がれずにいた。
「おい、沢村?」
 先日の試合でバッテリーを組んだ小野が栄純に歩み寄る。
「た、たすけ……」
「は?」
 泣き出しそうな栄純に小野は首を傾げる。
 だが栄純ははっとして、首を横に振り、俯く。
 内緒、内緒、内緒。
 必死に心に言い聞かせ、落ち着こうとする。
 だが結局対処法が浮かばない。
 様子の可笑しい栄純を気にして二軍の面々が栄純の周りに集まった。
「おい、沢村?」
 肩に手を置くと、怯えたようにびくっと振るえた。
 さすがに可笑しい。

「栄純くん、何かあった?」
 春市がしゃがみ込んで聞いてみる。
「……ら持」
「?」
「倉持先輩か、増子先輩」
「えっと……呼んできたらいいの?」
 栄純はこくりと頷いた。
「なんかわかんねぇけど、俺が呼んできてやるよ」
 様子の可笑しい栄純を心配してか、春市と同室の前園が立ち上がった。
 他の面々はとりあえずその場を春市に任せ、各々練習に戻った。
 いつも明るく面白い存在である栄純の様子の可笑しさに、皆心配を隠せずにいたが。

  *  *  *

「沢村ちゃん!!」

 しばらくして増子が走ってきた。
「先輩っ」
「どうした?」
 近付いて声をかける増子に、栄純は耳元に告げた。
 その言葉に、増子は一瞬にして真っ赤になった。
 春市は思わずその様子に首を傾げたが、すぐにさあっと青くなり、増子は栄純を横抱きにして立ち上がった。
「うひゃっ!?」
「小湊、借りて行くぞ!」
「え、あ、はい?」
 思わず返事をした春市の横を、猛スピードで走り去る増子。
 一体なんだったんだろうと春市は首を傾げながら二人を見送った。

「結局なんだったんだろ……」
「さぁ……」
 入れ替わりで戻ってきた前園は春市の疑問に応える答えを持っていなかった。


サラシ代わりの包帯ずれました



⇒あとがき
 純粋増子さん、赤くなる。そしてバレたらいけないと気づいて真っ青。
 そして栄純を姫抱きして走る!!ナイスだよ増子さん!!!
 本当はクリスにここでバラしたかったけど、お帰りになっていた模様。
 次回、エロ持さん、栄ちゃんに落ちそうになるの巻。
20070419 カズイ


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