01.不治の病
青道高校の野球部に所属する沢村栄純には近頃悩みがあった。
それはバッテリーでもある二つ年上の滝川・クリス・優が絡んでくるのだが、それが更に栄純を悩ませている理由でもあった。
「……っ、はぁー」
静かに吐き出されたのは、大きく反響したため息。
そこは先輩二人と同室の寮ではなく共同の風呂場だからだろうか。
ちゃぷんと揺れる水面に、栄純は少し沈んでみた。
「沈むよ?」
「らいじょうぶ」
ぶくぶくと喋るたびに口から漏れる息が水泡を作り出す。
(あ、なんか楽しいかも)
呑気に栄純は楽しみ始めた。
思い悩むのも早ければ、忘れるのも早い。
切り替えが早いのはいいことだが、極端すぎるのだ。
注意した同じクラスで同じ部活の二軍の小湊春市はその横でため息をつくのだった。
「栄純くんって、本当単純」
「わるかったな」
……自覚は在るようだ。
「何か悩んでるの?」
「単純なこと」
「単純?」
「ん。……多分、単純」
後は認めてしまえばいいんだ。
相談した幼馴染・若菜にそう言われてしまっては栄純はその答えを信じるしかない。
「なのに悩んでるの?」
「答えを出したのが俺じゃないから」
だから認められない。
「答え?」
「そ」
クリスを視界に入れると嬉しい。
それはバッテリーとして受け入れてくれたから。
クリスが誰かと居ると寂しい。
それはバッテリーをとられた気がするから。
クリスが女の子と話しているのを見ると、怖くなった。
そう、それがきっかけ。
「悩むのを止められたら楽なんだけどなぁ」
それは一生叶わない。
"栄純……それはね……"
苦笑しながらであったであろうその言葉が、やけに痛かった。
彼女は一体何を思ってそう言ったのだろう。
少なくとも軽蔑の意味はなかった。
ただ寂しそうに―――
「俺は単純で、臆病だから」
自分の表情だから、わからない。
もしかしたら自分は今若菜と同じ顔をしているかもしれない。
ただ漠然とそう思った。
認めてしまえば簡単なその想い。
人はそれを恋と呼ぶ。
⇒あとがき
若菜→栄純→クリスちっく。
20070418 カズイ
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